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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第六章 君よ知るや南の国
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【二】 南方大国へ

ベルベットと再会を祝したあと、ルカス二世王との謁見。

まだ中年にさしかかったばかり、のように見える国王。

滞在と通過の許可をもらったことに対して謝意を述べるが、どこか暗い、沈んだ表情である。

謁見も、国王と行政官が数名同席していたが、王妃、王子と言った家族、親族は同席していない。

キンブリー公国でマリアを尋問した際に言っていた

「ニルル王国の嫡子を暗殺した」

ということと関係しているのだろう。


一泊だけしてジュードニア王国に向かう予定だったが、その辺の事情を聴いてみようと思い、ベルベットとの面会を希望すると、すぐにやってきてくれた。

妹たちを宿泊所へ向かわせたあと、ローベルトとともにベルベットと話をする。

「あらん、王子さま直々のご指名で、とっても嬉しいです」

と、学院時代のようなしなを作って見せてくれたが、当然ユーモアの範囲だ、というのは、二人ともわかっている。

しかし初対面であるローベルトは

(ちょっとまずいんじゃないか)

という表情をしていて、その辺、イングマールともよく似た性格なのだろう。


「ベルベットさん、たいへん失礼な質問になるかもしれません、前もってお詫びしておきます」

そう言ってディドリクは国王の表情がすぐれなかった点から聞いていった。

まだ暗殺隊のことは切り出すべきではない、という判断である。

「ええ、まぁ、なんていったらいいのか」

と少し言いづらそうに、ベルベットもゆっくりと、言葉を選ぶように話してくれた。

「実は子どもばかりが衰弱して死んでいく奇病が流行しまして、陛下も王子様に先立たれましたのです、しかもすべての王子さまに」

「おお、それはとんでもない災厄だったのでございますね」

(あれ、マリアの証言と微妙に違う?)と感じて、もう少し突っ込んで聞いてみる。

「失礼ですが、王子様の亡くなられた順番をお聞きしてもよろしいでしょうか」


「ええ、国民は皆知っていることですから、かまいませんが」

少しきょとんとした表情で、次のように語った。

まず五年前、まだ幼かった王太子が、突然衰弱して亡くなった。

ついで、末子でありまだ赤子であった三男が萎れるように死んでしまう。これが三年前。

そして昨年、残った唯一の男児で、妾腹でもあった次男が同様に亡くなってしまった、とのこと。


マリアがキンブリー公国に現れたのが三年半、ほとんど四年前。

嫡子をしとめた、と言っていたので、五年前の王太子の死は彼女によるものだったのだろう。

しかし三年前には既にマリアはキンブリー公国に移って、呪いの準備をしていたはずなので、別の誰かがその後を受け継いだ?

普通に考えればそうなるのだが、奇妙な話である。

というのも、フネリック王国で四人の男児を呪殺し、ガイゼルまでも死の一歩手前まで追い詰めた二人の暗殺者は、十年以上をかけて潜伏していたからだ。

途中で任地を変える、ということがあり得るのだろうか。

仮に最初の一人だけがマリアの仕業で、後の二人は本当に病気で死んだとしても、まだ男児が残っている段階で任地を変えた不自然さは残る。


「奇病ということですけど、三人とも同じ症状だったのですか?」

「医師の話ではそういうことでした」

やはり同系統の呪殺能力を持つ者が引き継いだということなのだろうか。

マリアにせよワントブーフにせよ、呪殺術の系統は同系統のようなので、暗殺隊の呪術部隊は共通した能力持っているのだろうし。

「ありがとうございます、辛い話をさせてしまったようで、申し訳ありません」

するとベルベットはディドリクの意を汲もうとしたのか

「いえ、陛下のご心痛を思っていただいたのでしょう、ありがとうございます」

と言ったあと、少し付け加える。

「幸いなことに、陛下にはまだ姫君がおられますので、後継者問題で紛糾しないのがせめてもの救いですわ」

「え?」という顔をしてしまったのだろう、ベルベットか簡単に説明してくれた。

「あら、御存じありませんでしたか? 我が国は女子でも王位が告げるのです」

聞けばニルル王国では、他国と同様男児が優先されるものの、男児が生まれなかったり、早世してしまった折には女王を立てることもあるのだとか。

この制度を用いている国が、ごく少数だが存在する、とは聞いていたが、ニルル王国がそれだとは知らなかったディドリクであった。

「もっともわが国でもここ五十年くらいは女王が立ってませんから、外国の方がご存じないのは仕方ないことですけど」


そのあと少しニルル王国やベルベットの近況なども聞いて別れた。

外見からは目立たなかったけれど、なんでも懐妊していることが判明して間近だったらしい。

少し早い祝辞を述べて、ディドリクは宿舎に戻っていく。



宿舎で、メシューゼラ、ベクター、ブロム、ローベルト、そしてジュードニア大使予定のフェリクスを交えて、このことを報告する。

「兄様、どうするのですか、その暗殺者を除去するのですか?」

メシューゼラが訪ねたが、既に国王の男児が皆死んでいる以上、まだ暗殺者が残っているかどうかは疑問である。

ベクターが認知眼で軽く国内を見てみても、それという妖術使いはひっかからない。

もちろん優れた術師であれば認知眼程度をかいくぐるのは造作もないことなので、それをもっていない、と即断はできないが、というのがベクターの言。

「今は無視してよいのではないか?」

とベクターが言うので、その理由を聞いてみると、

「呪術者が変わった、という点についても、不自然とは思えないからだ」

つまり、マリアが呪殺した段階で国王に男児がいなくなったのではないか。

次に死んだのが赤子だと言うので、マリアが移動になってから生まれた可能性が高い。

そしてもう一人は妾腹だと言う。

つまり、最初は呪殺者側が認知できていなかったのでないか。

従って、マリアが最初の子を仕留めた段階で任務終了、ところが移動後に生まれた男児がいて、さらに妾腹も発覚。

この流れなら別に不自然ではない、というのだ。


「それにローベルト殿がこの地に滞在するのであれば、もし万一新しい動きがあればすぐに知ることができるのではないか」

ローベルトがこのベクターの言葉を受けて

「殿下、お任せください、その場合はすぐに早馬をとばしますよ」と言ってくれた。

多少の不安は残るが、ニルル王国で日数を消化することもできないので、一応これで終わる。

翌日は、ジュードニア王国へ向かうのだ。


翌朝、ローベルト、駐ニルル王国大使館職員を残し、一行はジュードニアへと向かった。

ディドリクがローベルトと別れを惜しみ、いろいろと語らっていると、そこにベルベットが来てヨハネを紹介してくれる。

ヨハネは帝都で見たそうだが、ディドリクには記憶がなかった。

それを詫びながら、簡単な挨拶をして出発となる。

「殿下、どうか帰路もこの国を通ってくださいまし」

とベルベットがなまめかしく言ってくれる。

コロニェからジュードニアに向かうコースは複数あるため、帰路もここを通ってほしいということだった。



ニルル王国とジュードニア王国の間には巨大な山脈が横たわっており、直線距離で進むとかえって日数がかかってしまう。

そこでいったん西に折れて南下し、南大洋の岸辺についた後、海岸線に沿って東進する。

この海岸沿いにいくつかの都市国家があるが、今回はそこへの通過許可だけを申請して、ジュードニア王国国境へ向かった。

ヘドヴィヒによると、南大洋の岸辺まできたら、陸路を行くより海路の方が早い、とのこと。

多民族国家のジュードニアゆえ、きわめて少数だがノルド人の移民コロニーもあり、海岸沿いに点在しているという。

しかしフネリック使節団にとっては、フェリクスを除き、ほぼ全員が初めて来る土地なので慣れぬ海路をさけて陸路をとった。


ここまで約一か月。

気候がかなり温暖になり、昼などは汗ばむ日もあった。

国境に設置された城門にやってきたが、北国のような城塞や石造りの建物ではなく、木組みがされた簡素なもの。

しかし住民は、おそらく辺境であろうこの国境の町でも多く見掛けられ、何かの異変があったときの連絡網はかなりしっかりしているのだろう。

海沿いに出てからこの城門の町まで、故郷の草とは違う野の花々が咲き乱れ、異国情緒を高めてくれる。


「兄様、見たこともない花々が咲いていますわ」

メシューゼラがこう言って、ときどき馬車を停車させ、花を摘んできたりもしていた。

見るからに可憐な白い花で、甘やかな香りが立ち込めてくる。

「これはツィトロンの花ですね」

と、フェリクスが教えてくれた。

北限の地がフネリック王国よりはるか南なので野生種はまず見ないが、この果実は商品として王国にも入ってきていると言う。


城門で手続きをして町を行くと、多彩な衣装に身を包む民がいたるところで仕事をし、あるいは子供たちが走り回ったりして、この国の様相を想像させてくれる。

ガラクライヒとも、ノルドハイムとも違う、まったく未知の光景。

馬車を走らせながら、目を奪われていく一行。

それでも王城のある王都につき、宿舎を定めることになった。


大使館を建てる場所は後から決めることにして、とりあえずジュードニア王国から官営の宿舎を提供してもらった。

当面はそこを拠点に活動することになるだろう。


その手続きをいろいろとしていると、

「ディドリク殿下」と呼びかける声があった。

帝都で会った外相のエルディーニ卿である。

「遠路はるばるお越し頂き、さぞやお疲れでしょう、この宿舎でしたらかなり寛げますよ」

と話しかけてくれて、いろいろと情報を出してくれた。

聞けばその官舎には、住み込みの料理人やメイド、下働きもいるので、どうか使ってやってほしい、とも言われた。

長旅だったがゆえに、あまり多くの従者は連れてこなかったこともあり、この申し出はありがたかった。

「大使の着任に加えて、ディドリク様まで来ていただけるとは、私としてはすこぶる嬉しいことです」

こう言ってくれたので、正式の紹介より先に、二人の妹と、大使予定のフェリクス、およびその家族を紹介しておいた。

「おお、メシューゼラ様もお越し頂けたのですか、ピリポも喜びますことでしょう」

ピリポというのは、王太子ではないがこの国の王子の一人で、帝都での皇帝嫡孫の成人式でメシューゼラと一曲踊った青年だ。

メシューゼラもエルディーニ卿とあいさつを交わすと、

エルディーニ卿もなおいっそう表情が和らいだ。

「しばらくお目にかかれぬ間に、また一層輝くようにお美しくなられたではありませぬか」

と言ってくれるではないか。

「エルディーニ卿、わたくしどものような小国の使節団に、お時間をいただき、便宜を図っていただき感謝に堪えません」とディドリクが言うと、

「はは、国と国との結びつきに大国も小国もありません。王統と言う意味では平等ですぞ」と言ってくれて、かなり楽になった。

「我が国は古来、農業と通商を重んじてきました。それゆえ付き合いの大切さはわかっているつもりですよ」

と柔らかく言ってくれるが、ディドリクは帝都で見たエルディーニ卿の、一瞬鋭いまなざしを忘れてはいない。

「それでは明日、陛下にお目通りいただきます」と言って外相は立ち去って行った。

アマーリアがメシューゼラに小声で

「お姉様、すごいです、そんなに有名だったのですか」と言うものだから、メシューゼラが得意絶頂になってしまった。



その後、ジュードニア側からの官僚からいろいろと指示を仰ぎ、また官舎への移動手続きをしているうちに、その日が終わってしまった。

大使着任の報告、国としての挨拶、などは翌日以降になるだろう。

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