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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第六章 君よ知るや南の国
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【一】 大使派遣

フネリック王国には、既に4つの国から大使が派遣されている。

まずは帝都と、教会領。

この二つはほとんどの国に大使を置き、あるいは相互派遣している。

ついでガラクライヒ王国。

四大選帝大国の中ではもっとも近く、かつ関係も深い上に、民族、言語的に近いため、きわめて自然な成り行き。

二十年近く前の革命戦争の折には、軍隊を派遣してもらった恩義もある。

そしてノルドハイム王国。

これはつい最近のことで、ディドリクの帝都外遊の成果でもあった。

そこでもう一つ、なんとか南方大国ジュードニア王国とも大使派遣に持っていけないか、そう考えたのである。


帝国南方を占める選帝大国ジュードニア王国。

他の三つの大国とは違い、ここは多民族国家で、王国と称していても実質は連邦体制である。

そして、教皇領もジュードニア領内に在り、それを含めると、帝国内一の人口、面積を誇る。

王朝体制も他の三国やフネリック王国とは違い、過去に何度も交代し、支配民族も入れ替わっている。

表立っては伝わってこないが、異民族が潜入、潜伏するには絶好の場所で、暗殺隊のしっぽもつかみやすいのではないか、という判断でもある。

同時にその間に点在する中小国、就中ニルル王国にも派遣したい、と考えていた。


まず、教皇領と深いつながりのある三大選帝教会の一つである、隣国コロニェ教会領へ赴き、教皇領への橋渡しをお願いする。

すると、なんとヒュッケルト司教自らが同行してくれることになった。

ディドリクが恐縮していると、

「なに、私たち帝国内司教は教皇領に報告も兼ねて定期的に参りますので、ついででございますよ」

と言ってくれた。心強いかぎりである。

コロニェ教会領はフネリック王国とガラクライヒ王国の中間に位置し、民族的にも両国とほぼ同じガラク人である。

関係も悪くないし、フネリック王国にとっても、ガラクライヒ王国とともに心理的に近しい存在である。


実際に移動する前にジュードニア王国、及び教会領には大略を伝えた使者を早馬で飛ばし、その返事が戻るまでの間に人選などの準備をこなしていく。

ニルル王国にはローベルト・ブランド、つまりブランドの三男で、イングマールの三兄にあたる内省官をあてる。

ジュードニア王国にはフェリクス・クーゲルスタム、外相クーゲルスタムの末子を用意した。

外相同様外交省の官吏でもあり、ディドリクの部下という位置関係でもあった。

もっともディトリクよりも相当年長で、かつ妻子もいるため、一家そろっての赴任となるのだが。

これが表向きのメンバー。

一方ディドリクの真の狙いである、暗殺隊の調査、場合によっては戦闘も想定したメンバーも選定されていた。

ここまでで確定しているのが、ベクター、アマーリア、メシューゼラ。

さらに何人かに打診しにいく。


まずは王都にて王国内少数民族・黒檀族の常宿へと向かう。

既に故郷から来てもらっていたブロム・ギルフェルドと再会を果たす。

「殿下、外交省、ならびに文書課のトップになられたそうで、おめでとうございます」と、祝意を述べてくれるブロム。

「ありがとう、ブロム。それで以前から少し触れていた南方遠征の計画、いよいよ進めたいと思うので、手を貸してほしいんだ」

と告げると、

「そのお言葉、心待ちにしておりました」

と微笑んでくれる。

思えばブロムとは、最初の解呪に成功したあと、ともに二人の暗殺者と戦ってくれた間柄でもある。


続いて、王宮内からペトラ。

ノルドハイム王国へは相手方に拒絶されてしまったため同行できなかったが、今回は荒事も想定されるため指名した。

同時にリュカが出産して同行できないため、メイドとしても参加してもらうためだ。

「メイド仕事は自信ないけど、殿下の護衛なら、しっかりとやる」

彼女も帝都で暗殺隊と戦った経験者だ。

メシューゼラ担当のノラも参加してもらうが、これはもちろんメイドとしてであり、荒事担当ではない。


そして、ノルドハイム王国から輸送担当としての人員を、ヴァルターに選別してもらった。

ただし、最初はコロニェ、ニルル王国を経由していくため、一か月以上をかけた馬車の旅。

帰路と二回目以降をこの空陣隊で短縮したいからだった。

フネリック王国王都に開設されたばかりのノルドハイム王国大使館に行き、その旨の連絡を取ってもらった。

ノルドハイム王国の大使は、開設条件の一つである文官だったため、老齢の事務官が派遣されていた。

しかしそこは軍事国家ノルドハイムである。

武官としての派遣ではなく、既に老齢の身であっても、長身と爛々と輝く目は、その半生がどういうものであったかを語っていた。

「ディドリク殿下、我が国の空陣隊をあてにしていただき、我が主ヴァルターもいたくお喜びでした」

ということで、さっそくその人員が到達した。


ヴァルター麾下の三人は、既にディドリクとも面識があった。

キンブリー公国へ立ち寄ったときに同行したディオン・ブレヴェック。

メシューゼラに空の散歩をさせてくれたリカルダ・ゴルスメット。

そして成人式にジークリンデとともにやってきたヘドヴィヒ・メヒターの三人である。

身分としては、ディオン、ヘドヴィヒ、リカルダの順。

「もう一人、高速自慢の男をつける予定ですが、そいつは馬車の旅を嫌うので、当座は我々三人です」

と語るディオン。

「殿下、輸送役だけと言わず、戦になれば期待してください」

物騒なことを言うヘドヴィヒ・メヒターだったが、

「嬉しい申し出ですけど、フネリック王国随行員という名目ですので、ノルドハイム国民ということはあまり表に出さないよう、お願いします」

と釘をさしておく。

四大国はそれぞれ仲が悪いため、あまり前に出てもめごとになってほしくないのだ。

「お聞きおよびでしょうが、最初は馬車で入っていただきます。一気にジュードニアに向かうわけではなく、途中、コロニェ、ニルルを経由するためです」

と言って、だいたいの行路を説明した後、

「大使館の設営場所も、空陣隊が着陸できるスペースを取りたく思っていますので、相談に乗って下さい」

これに対してディオンが

「いつもは広場などを使っているのですが」と言うが、やはり専用の離発着できる場所があった方が良いだろう。


ジュードニア王国に飛ばした早馬の使者が帰ってきて、いよいよ南方行路のスタートとなる。


メンバーの顔合わせを行ったとき、やはり一番驚かれたのがベクターであった。

うっすらと壁の中から浮き上がるように現れた熊皮の男に、総員目が釘付けになる。

この中で知己があるのがアマーリアとブロムだけ、ということもあったが、ペトラなどは動じていない。

またヘドヴィヒは

「この方が殿下の言われていた『壁に溶ける男』ですか」と小声で聞いてきたりする。


一方、王国留守番組の内、イングマールとガイゼルに連絡用手段を渡しておくこととなった。

アマーリアに渡したものと言うより、メシューゼラに渡したものに近く、魔道具と言って良いものだったが、できればこれを使いたくないものだ、とも伝えておく。

ただメシューゼラは、自分と近い年齢の令嬢と婚約を決めたばかりの異母兄ガイゼルと連絡する気満々だったのだが。



馬車隊は出発する。

まずはコロニェ教会領へと向かい、ヒュッケルト司教と合流するためだ。


教会領ではいかにもいつもの行事、という感覚で南方行きの準備が整えられており、フネリック王国使節団が到着次第すぐさま伴っての出発となる。

ヒュッケルト司教がディドリクの馬車へ乗り込み、歓談。

「この度は同行していただきありがとうございます」とディドリクが言うと、

「いえいえ、話相手がいれば、退屈な旅も楽しくなるものでございます」とヒュッケルト司教。

フネリック王国にも教会は存在しているのだが、隣国にコロニェ教会領のような権威が存在しているため、ほとんど田舎の祭礼所のようになっている。

教会領は、もちろん教会を中心とする封建領土だが、教会のある位置以外は他諸国と大差ない。

市場があり、住宅街があり、商店街があり、少ないながらも農地もある。

領地経営の担当者もいるにはいるが、その大半が教会関係者。

警備や軍隊は傭兵が担当しているが、そもそも教皇領と教会領は帝国の精神的支柱なので、ここを攻めようという国はめったにない。

世俗的な意味での領土に対する不満、トラブルはたいてい教皇領に持ち込まれる。


そんなことを話しつつ、馬車は一路南方へと向かい、ニルル王国へと向かう。



ニルル王国に到着すると、諸手続きを行い、領内滞在・通過許可を認められる。

事前の準備もしていたためスムーズに入国したのち、王城へと向かい、謁見の許可をもらう。


国王ルカス二世との謁見控室に通されたフネリック使節団。

時間までくつろいでいると、懐かしい顔が尋ねて来た。

「ディドリク殿下、お久しぶり、王太子任命式依頼かしら」

朱の下地に南方の鮮やかな鳥が織り込まれたドレスを身にまとい、ベルベットが現れた。

王立学院時代の同窓生でもあり、在学中は模擬試合でも対戦した。

「ベルベットさんお久しぶりです」

挨拶を交わすと、目ざとく大使予定のローベルト・ブランドを見つけて近寄って行く。

「イングマール、よね? あなたが大使になったの?」と何やら勘違いしているもよう。

確かにイングマールと歳が近いこともあってか、顔立ちは良く似ている。

何年かぶりに会えば間違えてしまっても仕方ないかも、と思いつつ、ディドリクが

「ベルベットさん、こちらはイングマールの兄で」と言いかけると、

「ローベルト・ブランドです。イングマールは私の弟です」と、ローベルトがにこやかに微笑みながら訂正する。

「あら、これはたいへん失礼いたしましたローベルト様」こちらもにこやかに詫びた後、優雅に会釈して、改めて自己紹介。

「私はベルベット・サレルディ、ディドリク殿下やイングマール様と王立学院で席を同じくした者です」

あれ、たしかベルベットの苗字はラッヒェだったんじゃ、と思っていると、ローベルトが

「サレルディ、と言われますと、サレルディ公爵家の方なのですか」と聞いてくれた。

「はい、私は先年、サレルディ公爵家ヨハネの元に嫁ぎました」と教えてくれる。

ベルベットは王立学院時代から社交的で女性的でもあり、自身も王家につながる名門の出だったはずなので、、名門公爵家に嫁いだと聞いても納得できるところだ。

あとでローベルトに聞くと、サレルディ公爵と言うのはこのニルル王国最有力の貴族で、王統になにかあった場合、後継者を立てられる家柄でもあるらしい。


「ベルベット様、とお呼びした方がいいのかな」とディドリクが切り出すと、にんまりと笑みを浮かべて

「そんなことをしていただいたら、またイングマールに叱られてしまいますわ」と言って

「以前のように、ベルベット、と呼んでください。夫もそういったことにはあまり頓着しませんから」


ディドリクは、次いで二人の妹を紹介する。

「第一王女のメシューゼラです」と、優雅に、それでいて堂々と会釈する。

「第二王女のアマーリアです」こちらは少しおどおどしていたが、なんとかうまく自己紹介できたようだ。

「まぁ愛らしい」

こう言って二人の元に寄ったベルベットは、

「うちの夫も、帝都での皇帝嫡孫の成人式で、フネリック王国に赤髪の素晴らしい美少女がいる、と言ってましたのよ」

こう言うとメシューゼラは微笑みながらも丁寧に礼を言う。

「ありがとうございます」もうすっかり場慣れしているようだ。

しかし帝都での成人式ということは、あのニルル王国使節団の中に、そのヨハネなる人物もいたということらしい。

会えばわかるかな? と思いつつ、その他、主だった随行員を紹介していった。


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