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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第五章 氷の王国
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【八】 空陣隊

翌日早朝、帰還の準備をしていたフネリック王国使節団の元に、二人の男女が訪ねてくる。

一人はノルドハイム王国王家末子のヴァルター、そしてもう一人がキンブリー公国のエルガ嬢。

この組み合わせに不思議な感じを抱いていたディドリクだったが、宿舎の応接間に通した。


「このたびは来てくれてありがとう、両国の関係が良い方向で発展していくことを願ってるよ」

「こちらこそ暖かいもてなしに感謝しています」

儀礼的な挨拶の後、ヴァルターがおそらく本題であったらしいことを、切り出してくる。

「ひとつ耳に入れておきたいことがあってね」


まずは昨晩の件。

ディドリクの報告に感謝しつつも、国単位として対ホルガーテ王国策は今のところはとれない。

しかしもたらしてくれた情報については感謝しつつも、ノルドハイム側にも気になる情報がある。

それはキンブリー公国のこと。


「公国でもここ数年で、若い男性王族に不幸が続いているのです」

この一言で始まったヴァルターの情報に、ディドリクは注意を引き付けられた。


戴冠式で出会ったキンブリー公国ラインホルト公王には五人の子がおり、うち二人が男性公子である。

二人とも既に結婚しているが、その公子たち、ラインホルトから見て孫にあたるその男性公孫たちが、次々と夭折しているのである。

二歳になる前に、次々と、それも突然枯れていくようにように死んでいくのだ。

病気でもなく事故でもなく。

そして今、最後の赤子が死に瀕しているという。

キンブリー公国の男系が、今まさに断絶しようとしている。


ここまで話をして、エルガ嬢が話を受け継いでいく。

「今回同道してまいりました公王は私の伯父にあたります」

こう語りヴァルターが語ってくれたことに重ねていく。

「昨日、ヴァルター様からディドリク様の解呪のお話を伺いまして、どうか我が国に立ち寄っていただけないか、と思い同行させていただいた次第です」

一昨日、エルガ自身の口から、彼女がラインホルト公王の妹の息女であることを聞いていた。

彼女から見て、従兄弟にあたる公子の子らが死んでいったということだ。


興味のある話だった。

しかも状況が驚くほど似ている。


しかし自分が公国へ寄り道するのなら、日程とか帰路とかをどうしたものか、と考えていると、

「日程について悩んでいるのなら、我が国自慢の空陣隊を使ってもらってかまわないよ」

ヴァルターがそう言ってディドリクの顔を見る。

「解呪そのものは大して時間はかからないんだろ? なら、日程を変更することなく帰還できるよ」

「空陣隊...ですか?」

ディドリクがそういうと、ノルドハイムの空軍と言っていい空陣隊についてヴァルターが説明する。


空陣隊は帝国内最強を誇るノルドハイム王国の空軍で、空を駆ける魔獣群により構成された魔術兵団である。

天馬、大魔鷲やらによるその部隊が存在することによって、人口の少なさを何度もカバーしてきたのだ。

帝国内で空挺部隊を有するのはノルドハイム王国とガラクライヒ王国のみ。

しかもガラクライヒのそれは規模も小さく、軍用というよりもっぱら文書類の高速通信に力点が置かれている。

それを使って移動しよう、と言っているのだ。


「旅程としては到達に半日もかからないし、公国内での活動を考えても、君のところの馬車隊が故国に帰るまでに、君をお返しできるよ」

「ヴァルターも同行してくれるのかい?」

「もちろんさ、話を持ってきたのは僕だしね」

少し考えたのち、ディドリクは申し出を受けることにした。

馬車隊にそれを伝えに行く前に、少し気になってたことを聞いてみる。

「なぜこの話を持ってきたのか、聞いてもいいかな」

「そうだね、こちらからのお願いなので、腹蔵ないところを言っておくよ」と説明する。


まず、ディドリク同様、キンブリーとフネリックに起こったことの類似性に関心があること。

ついで、キンブリー公国の立ち位置。

ノルトハイムの友好国(とヴァルターは言ったが、実質は衛星国)の危機に対して、解決できるものならしておきたい。

そして最後の一つ、ディドリクの解呪に興味がある、見ておきたい、ということ。

おそらくヴァルターにとって最後の一つが本命なのだろう、とは思ったが、回りまわって自国の危機ともつながってくる。

手段が同じだとすると、今後暗殺隊の呪術部隊に対してなんらかの策を持っているべきかもしれないから。



ディドリクが馬車隊に戻り、その旨を告げる。


自身のみが公国に招かれること。

ノルドハイムが空陣隊を出してくれること。

旅程に影響は出ず、帰路の途中、どこかで合流できること。

それらを語ると、一同の中に不安な表情が現われる。

するとそこへヴァルターとエルガの二人が来て、説明を補強する。


帰路はイングマールが指揮をとり、予定通りに進むことが決まった。

「どうか、お気をつけてください」とイングマールが心配気に言ってくる。

二人の妹もそれぞれに不安の表情が消えない。

「大丈夫、必ず途中で合流するよ」とディドリク。

ヴァルターがメシューゼラとアマーリアに

「私が責任をもって預かるから、どうか心配しないでほしい」と言うと、アマーリアがディドリクの足元に走り寄ってきて

「必ず帰ってきてね」と切なそうな声を上げる。

ディドリクはアマーリアの肩をキュッと抱きしめると、メシューゼラに

「今度はゼラがお姉ちゃんだから、アマーリアのことを頼むよ」と言うとそれまで不安そうな表情だったメシューゼラが

「ディー兄様、まかせておいて」と、表情をキリリと切り替える。

ディドリクは可憐な赤髪を胸に抱きしめながら、誰にも聞こえないように小さな声で

「もしもの時は、例のアレで連絡して」と言うのだった。

「はい」これまた小さな声で、メシューゼラは微笑んだ。



宿舎前の広場にヴァルターが出て、手を空に挙げて、魔術信号弾を放つ。

やがて北方から鳥のような一団が現われ、空を覆いつくす。

そして次々と魔獣、天馬たちが降りたってきた。

巨大な鷲、あるいは鳳凰が舞い降りてきて、広場を埋める。

カギヅメから頭頂まで、ヒトの三倍から四倍。

翼を広げると翼長は10mにも及ぶものもいる。

体格はぎっしりと筋肉で埋まっており、彼らが人を乗せて函車を運ぶのだ。

数十羽にも及ぶこの巨大な大魔鷲、鳳凰たちの脇に天馬隊がヒラヒラと舞い降りてくる。

天馬たちも相当に巨大なのだが、大魔鷲が側にいるせいで、小さく見えてしまう。

「天馬隊は護衛だ、我々を運ぶのはこいつらだよ」とヴァルターは言って、そのうちの一羽の足をなでる。


ディドリクはもちろん、フネリック王国の面々もこの初めて見る空陣隊の魔獣群に度肝を抜かれてポカーンと見ているばかり。

その中からいち早くメシューゼラが兄の近くに来て

「すごいわ」と言う、

「乗りこなせたら爽快でしょうね」とも。

だんだん肝が据わっていく妹を見て、少し笑みがこぼれてしまうディドリクだった。


ヴァルターがイングマール達の前にきて

「こいつらで行って、護衛もするので、安心してください」とにこやかに言う。

後で聞くと、ヴァルターこそが、この空陣隊の長でもあったのだ。

そしてメシューゼラに近寄って、

「機会があれば、お乗せしますよ、赤髪の麗しき姫君」と言って準備を始める。

函車は二台用意され、片方にキンブリー公国視察団、と言っても公王夫妻も含めて五人程度なのだが、それを乗せる。

そしてもう一台にディドリク、ヴァルター、そして空の魔術師ディオンが乗り込んでいった。


「あとでディドリク王子をお返しするため、来た道と同じコースで帰って下さい」と言ってヴァルターが最後に函車に乗り込んでいく。


天馬隊にまたがる魔術戦士の一人が手を挙げて合図をすると、空陣隊は次々と大空へ舞い上がっていった。



函車は頑丈な木組みで作られており、馬車よりは広かった。

壁面はほとんど無地で簡素な作りだが、ところどころにノルドハイムの紋章が貼られている。

積み重ねられた座布団の上に座り、ディドリクはヴァルターから空の旅の説明を受けていた。


「一応軍用ということで予算もさかれているけど、ガラクライヒ同様通信にも使うし、何と言っても時間短縮ができるのが大きいね」

「さっき半日もかからずに着く、と言ってたけど」

それを聞いて、ヴァルターはニヤリと笑みを浮かべる。

「ノルドハイムの王都フレゼリクゼーからジュードニアでも丸一日で着くよ」

それを聞いて、ディドリクは驚嘆した。

起点がノルドハイムより南にあるフネリックからだとしても、ジュードニアまでは馬車隊だと一か月近い旅程となる。

「窓でもスピード感がわかるよ」

と言うので、四面に一つずつ設けられている小さな窓から下を見ると、猛烈な勢いで景色が変わっていくのがわかる。

「まぁ、半日もかからないけどね」

と言って、ヴァルターは寛いでいる。


同乗していた空の魔術師と呼ばれるディオンによると

「王家や公爵家の客人を乗せていますので、これでも安全を考えて速度は落としているのです」と言うではないか。

「キンブリー公国は、行きもこれを使ったの?」と問うと、ヴァルターが

「そりゃ、こちらからの招待だしね、運ばせてもらったよ」と言う。

「フネリック王国もうちの海軍がお迎えに上がる予定だったのだけどね」と言うので、海軍について少し聞いてみる。

「いつかご覧にいれる機会もあるだろう、空軍と同じく海魔獣を手なずけた部隊さ」と言って、少し肩をすくめながら

「そっちはジークリンデ姉上の担当だけどね」ともいう。


半日どころか、ものの数時間で、キンブリー公国に到着した。

宮殿前の大通り公園を利用して、空陣隊が飛来する。

軽い衝撃を感じて到着を知ったディドリクは、ヴァルターに誘われるまま、函車を降りた。

そこは四大選帝王国ノルドハイム王国と、フネリック・コロニェの間にあるキンブリー公国であった。


朝出発して、昼の到着。

さすがにこのスピード感には驚かざるをえない。

周囲を見渡すと、葉を落とした木々が広場を包んでいて、その奥には、冬の山。

フネリックよりは北にあるものの、ノルドハイムよりはフネリックに似た風景。

晴れてはいたが、既に雪の季節で、路面にはその名残が残っている。


もう一台の函車から公王夫妻とエルガが降りて来るのを見て、ディドリク、ヴァルター、ディオンが合流する。

そしてそのままキンブリー公国の宮殿へと招かれていく。


出迎えた家臣たちはこの空陣隊を見慣れているのか、公王夫妻をてきぱきと迎え入れ、宮殿内の私室へと誘導する。

エルガも「それではまたあとで」と言って、着替えに向かう。

空陣隊は、このあとディドリクを送ることもあり、しばらく滞在する予定であることをキンブリー家臣団に告げている。


ディドリク達は侍従長と思しき老人に案内されて、客室へ移動する。


軽い食事がとられたあと、公王とその家族がやってきた。

「ディドリク殿、急なお願いを聞いていただき、感謝に堪えません」と公王。

「いえ、私の力が有効かどうかはまだわかりませんが」と言いつつ、急を要するため、挨拶もほどほどに、最後の男子公孫の場へと移動する。

状況は、かなり悪かった。


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