表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第四章 帝都編
45/165

【十一】 ロガガ

茂みから出てきた小柄な男は、ディドリクの前に進むや、降参の意思を示した。

「僕たちの負けです、どうかお願い」

と言いつつ、その人物は跪いた。

「呪いを...解呪してください」と。


まだ戦おうと思えば戦えるのに降伏してきたのは、マルタンが契約呪術により朽ち折れるように死んでしまったのを見てしまったからだろう。

そして同時に、ペトラにかけられたタケロの呪術をディドリクが解呪していたのも見ていたのだろう。

だがタケロの黒斑術と違い、マルタンに仕掛けられていた黄斑術については初見だった。解呪できるかどうかはわからない。

思いつくのは発現したところを修復していくやり方だが、術者の術式が不明なので、一か八かになる。


その術式について考えていると、「助けるかどうか迷っている」と判断したためだろうか、ロガガが涙をこぼし始める。

「お願いです、どうか、あなたの奴隷になってもいい」と言い始める。

ペトラを見ると、こちらも懇願するような目になっている。

先ほどの戦いの中、ペトラはタケロ、プロイドンとともに、ロガガの術を知っていた。

おそらく普段から交流もあったのかもしれない。プロイドンとタケロは躊躇なく殺してしまったが。


「やってみよう」と言い、ディドリクはロガガに目を閉じ、力を抜くように言う。

一般的な術式を組み立て、そこに相反するものが顕現したとき、それを解析していくやり方だ。

「契約術式を組み込まれた時、どこを触られたか?」と尋ねると、右の手首だと言う。

そこに基本式を編み込んでいく。

右手の甲に印章のようなものが浮き上がり、それが黄変してあふれかえろうとしている。

(妖術ではない、魔術の契約印だ)と判別し、その魔術式を読み込んでいく。

「時間がかかるかもしれない、何があっても動揺しないように」と声をかける。

実行形式は妖術かもしれないが、起点が魔術式だとすると、希望が見えてくる。

そして、わかった。


まず魔術印を凍結させ、それごとぬぐい取っていく。

媒体としてペトラにマルタンの衣装の一部をはぎ取ってきてもらい、ロガガの手の下に置き、そこに落としていく。

手の甲の印がうごめきまくり、その下に置いた布が褐色にそまっていく。

目には見えない褐色の汁が滴っていくように。

「キィィィィィ」という断末魔のような声が聞こえて、印がボトリと布の上に落ちる。

同時にロガガの右手甲、印核のあった場所から血が噴き出す。

「ペトラ、止血を!」と言い、自身はその落ちた印核を布で包む。

「地獄へ帰れ」と命じるや、青緑の炎に包まれて、布が燃え散っていく。印核とともに。


「ありがとう、ありがとう」と小さな声でいいながら、ロガガは頭を地面につける。

出血はまだ続いているが、止まりつつある。

「王子様、ありがと、私からも礼、言わせてほしい」

やはりペトラとロガガは旧知の関係だったようだ。

思えばロガガの「虫」も、それほど積極的な攻撃はしてこなかった。

ペトラとは戦いたくなかったのだろう。


「しかし、少し面倒なことになったかもしれない」とディドリクが言うと、ペトラがそれについて尋ねる。

「契約の印核をつぶしたことで、施術者にわかってしまったから」と答えると、

「もう街区七番には戻れないね」とロガガが寂しそうな顔をする。

よく見ると、小柄な男ではなく、まんま少年だったようだ、しかも自分やメシューゼラよりも若い感じである。


前日、ペトラが言っていたことと少し矛盾しているような気がして、ペトラに尋ねてみる。

「裏切リハソレホド大シタ悪徳ニハナラナインダロ?」とアルルマンド語で。

「ソレハ仲間同士別ノ契約ニナッテイルトキダヨ。契約ソノモノヲ裏切ッタラ、嫌ワレル」とペトラの答。


ふむ、どうしたものか、と少し考えていると、ペトラが

「王子様、ロガガ、一緒に連れていく、ダメか?」と恐る恐る聞いてきた。

するとロガガが希望を見出したような顔で、

「もしお許し頂けるのでしたら、移住許可がほしいです」と言ってきた。

ペトラも、懇願の瞳でお願いしてくる。

「迷惑なら、王宮、入らない、どこか町のすみで生きていく」とも。


「僕の一存では決めかねるので、あとで同行している官吏に聞いてみてあげるよ」

それを聞いて、笑顔になる二人だったが、

「ただし、言葉はちゃんと覚えてほしい」とも追加しておいた。


さて、ロガガの一命を助けたあと、ディドリクは結界を破る準備をする。

結界そのものは周囲に情報をもらさぬもので、強度も弱かったが、これを破ると仕掛けた側に全てが露見する可能性がある。

そこでディドリクはロガガを捕縛したことにして、ペトラに管理をまかせる形にする。



結界を解くと、既に夕刻となっていた周囲から、人の声が押し寄せてくる。

当然、死体となった襲撃者たちに驚いている声だ。


もちろん三人は現場から遠く離れた場所へ移動していたが、同時にまだもう一人、自分たちを監視している視線に気づいた。

千里眼と呼ばれる術は、結界と組み合わせることにより、使い勝手が上がる。

だがそれを逆探知するのはいささか難事ではあるのだが、結界を起点にして、施術者の追跡はできる。


いた。

しかし少し離れた位置。

相手も自分が察知されたのがわかっているかのような警戒の仕方。

ディドリクがロガガに問う。

「ジャスペールという人物がプロイドン以下に命じた人物は、君を入れて五人だったかい?」

「いえ、もう一人、グレゴールという従者がいました。監視役とも言ってました」

おそらくそれだろう、とは思ったのものの、なぜ立ち去らないのかが不気味だった。

まさか事の顛末に気づいていないとは思えない、ということは、自分で始末しようと考えいるのだろうか、と考えていると、そこに可愛い声が飛び込んできた。

「にーさまぁ」

メシューゼラが何人かを連れて戻ってきたのだが、それを見てびっくりした。

イングマール以下、フネリック警備団の一隊とともに来ていたのだが、その中にジークリンデもいたからだ。

そちらに気を取られた瞬間、監視者がディドリクの感知圏から消えた。



監視者グレゴールは、事態の把握にとまどっていた。

結界を張り、外に情報が洩れないようにしてフネリック第二王子を暗殺、その後死体を処理して速やかに撤退、のはずがプロイドン以下、あっという間に倒されてしまった。

上司ジャスペールから法術使いというのを聞いていたが、こんなにも強かったとは。

しかも結界を破り、結界を張った自分をすぐに感知してしまったようである。

(どうする、自分だけでるか? それとも報告を優先すべきか?)

迷っていたら、その隙に、別の魔術師に背後をとられていた。


「帝都で大胆なことをするね」とその人物は言った。

こいつも強い、と判断して、グレゴールは逃走を決意し、茂みの中へ逃げ込む。

だが、金髪の少年は引き離されない。


人工池の向こう側に出て、二人は対峙する。

もう庭園は抜けたし、あと一歩のところで外に出られるのだが、この追手を振り切れない。

「小国とは言え、一国の王子を暗殺なんかしたら、どういう政治問題になるかわかっているのかい?」とその少年が言う。


少年の背後から、火玉のような光の珠が打ちあがる。

それがパッとグレゴールの顔を照らした。

「しまった」と思ったが時既に遅く、グレゴールの顔がこの少年の脳裏に刻み込まれてしまった。

対して少年の方は逆光ということもあり、顔が見えない。

だがかろうじて金髪ということが分かったので、北方系であろう、という推測はできたのだが。

まともに戦ってはとても勝機がない、と判断してグレゴールは逃げることに専念する。


少年の影から無数の黒い蔓が伸びてくる。咄嗟に身をかわすグレゴール。

だがいったんは空を切った黒い蔓が角度を変え、グレゴールにおそいかかる。

グレゴールは必死によけるが、黒い蔓草は影から影から現れて、包み込むように襲ってくる。

そしてついに、庭園の境目となる壁際に追い詰められた。

(ダメだ、もうこうなっては奥の手を使わないと、逃げ切れない)

そう判断してグレゴールが術の体勢をとる。 

それに気づいて少年は、一斉に周囲から黒い蔓草で巻き取ろうとする。


バシッ!

確かに手ごたえあった!

そう思い少年が近づくと、そこにはグレゴールの衣装だけが残されていた。

「へえ、変わった術を使うな」と少年は感心して、その衣服を手土産に、姉たちの元へ戻る。



ディドリクがメシューゼラやイングマール達にガラク語で、そしてジークリンデにはノルド語で説明していた。

ジークリンデ達が来たのは、メシューゼラが立ち去り際のヴァルターの言葉を思い出し、急遽ノルドハイムの宿舎に向かい、助力を求めたからだった。

するとそこへもう一人、近づいてくる影があった。

ジークリンデがその人影を認めて問う。

「ヴァルター、首尾は?」

「姉上、ディドリク、すまない、怪しい人影がこちらを見つめていたので追跡したんだけど、逃げられてしまった」

と、ヴァルターは監視者を追った時のことを語った。

「しかし、顔はしっかり見たし、こいつを残してくれた」と言って、グレゴールの衣服を見せる。

「もう一度会えばわかる?」と問う姉に、もちろん、と答える。


先日面通しした時に、そうとう力のある魔術師だ、とは感じていたが、こんなに早く行動し手がかりを持ち帰ったきたことにディドリクは感銘を受ける。


「ジークリンデ様、ヴァルター様、ありがとうございます」そしてメシューゼラの方を向いて

「ゼラもありがと。咄嗟の気転、見事だったし、助かったよ」とも。

えへへ、と少し安心したメシューゼラが得意顔で兄に抱き着く。

そしてイングマールに向き直り、ペトラとロガガを紹介する。

「暗殺者達の近くに住む者で、助けてもらった。でもそのことでそこに住めなくなってしまったんだ、フネリックへの移住手続きをとってほしい」


そのやり取りを聞いていたのだろう、ジークリンデが剣を抜き、ロガガの鼻先へ突きつけた。

「おまえ、ムシゴの民だな?」

「ムシゴの民」については、第二章【十】アマーリアの誕生日会、参照。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ