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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第一章 王立学院
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【四】 王立学院

王立学院は三年ずつ、初等科、中等科、高等科にわかれているが、広く教育を施す目的であるため、年齢制限はない。

ただ在学期間がそれぞれ五年とされているだけだ。

従って、二十歳を過ぎた者が初等科にいたり、また十歳に満たぬものが高等科にいたりもする。

加えて、飛び級試験が設けられているため、貴族など家庭教師についているものは、早々に高等科へ上がってしまうこともある。

だが、最初は初等科一年から。

ディドリクもその試験を受けたのだが、あまりに簡単に合格してしまったので、王族だからだろうか、と怪しんでしまった。

だが後で聞くと、初等科の試験は、まだ文字も読めない者がいることを想定して、面接のみであるため、よほど変な児童でない限り入学できるらしかった。


学院には寮も用意されているが、ディドリクの場合、居住域から近いので、通うことにした。

徒歩でも十分通える距離だったが、そこは王族、護衛もかねて、馬車で通学することになる。

国王から付けられた護衛、レムリックが同行し、校内においても、授業以外はついてきてくれる。

まだ十五歳と若く、騎士団にも正式に加入できない年齢なのだが、腕と忠誠心は確かだ、と父から言われた。

「若、何かありましたら、すぐにお呼びください」と人なつっこそうな笑顔を向けてきた。


初等科の一年は文字の習得、簡単な四則演算から始まる。

この段階で既にかなりの差があるため、家庭教師についている者などはすぐに飛び級試験を受ける。

ディドリクもさすがに退屈すぎるので、すぐに中等科への飛び級試験を受けた。


中等科の試験はさすがに筆記試験もあったが、難なく合格。

中等科の授業も、既に十四世から基本を叩き込まれていたため、ほぼ既知の内容。

それどころか教師の粗さえ見えてしまうありさまだったが、しばらくはとび級試験を受けずにここにいることを決める。

というのは、座学ではなく、教練の大切さを感じたからだ。


王立学院図書館。

入学前の予想と違い、学院所有の書籍は学生であればあらかた閲覧できた。

研究科でないと閲覧できないのは、きわめて少数の禁書の類のみ。

これがディドリクが(しばらくいても良い)と思ったもう一つの理由だった。

そこで、古典古代の文法を学ぶ傍ら、「男児の病」についても調べていくと、興味深いことがわかってくる。

霊言文字の変化による奇跡の発現、魔法、妖術。

その中には、力、光、音(波)、電、熱、と言った大きな分類の他に、個別に合目的化された秘術があること。

その一つに、呪い、があった。

特定の人物に害をなすもので、その技法、種類については多岐にわたり、ほぼ術者の数と同じくらいあるらしい。

そしてその中で、高位の術者が操るものとして、広域の呪いがある。


広域の呪いは、術者を軸として、その範囲内である条件を満たす者に呪いをかけられるという。

その条件の中には、こども、男性のみ、女性のみ、等々に対して。

呪いの発現としては、即座に死に至るもの、ゆるやかな死をもたらすもの、死産、不幸な偶然と、さまざま。

王家の男児が次々と死んでいる状況と、なんと似ていることか。

ある時期から、この呪いがかけられているように感じる、というのも、上の世代では普通に生まれ、成長しているから。

最長子であるガイゼルから下の男児が、この現象に該当する...ように見えた。

しかしその中で、自身が健康なままであることにも気づく。

(なぜぼくだけ、影響を受けていないのだろう)

と思ったものの、それよりも今はその確認、対処法などについて考えねばならない。

当面の研究目標が決まり、しばらくはそちらに集中しよう、と考えた。



自身の古代文法力でできそうな個別魔法、それは祝福ではないだろうか、とディドリクは考えてみる。

文言を用いての回復、それは治癒術に似ているが、それとの決定的な違いは、害をなす術者が存在していること。

治癒術も個別化、細分化された魔術、奇跡の秘術だが、もっぱら物理的な傷に対するものだ。

それに対して祝福術は、呪いを施した者の術を跳ね返し、無効化するもの。

あるいは、術者の力の伝授、などにも応用できるが、治癒とは似て非なるもの。


こうしてディドリクは、授業に出るというより、もっぱら図書館通いと、教練の習得が中心となる。

そして一年が過ぎた。


研究の方は、霊言文字の応用により、ある程度までは習得できたように感じていたのだが、試す相手がいない。

そこでそろそろ進級しておこうと思い、高等科一年への飛び級試験を受け、難なく合格。

七歳の秋を、高等科一年から始めることになる。


レムリックに伴われて学院の門をくぐり、講義室へと向かう。

控室にてレムリックは待機して、ディドリクが入室する。

さすがに十代半ばのものが主流であるため、少し浮いたような感じになる。

だが周囲の者は自分が王族だと知っているからか、遠巻きにして見ているだけだ。

初等部、中等部でも似たような感じだったので、さして意識するでもなく、高等科の生活が始まった。


講義そのものは、高等科に入ってもディドリクの頭では幼稚に感じてしまうのだが、そこに波風を立てる必要もないので、しばらくはぼんやりと聞いていた。

だが魔術・魔法の実践講義などもあり、それは少し興味を惹かれる。

壇上にベルド講師が経ち、力場の実演を示している。

「大地に眠る大きな力場、私たちはその影響を受けています。力場の魔法は大地とは逆の方向に展開させるものです」

コロコロと石を床に転がしてみせて、その後、手を前に出し、詠唱する。

すると石は重力に逆らうように浮き上がり、やがて天井めがけて突き進む。

まるで「上に落ちる」かのように。

一部の者はこれを見て「おおー」などと驚きの声を上げている。

たわいのないことだ。

石の真上、天井に力場を作り、そこから石を引き上げているだけである。

ただ、力場の魔法使いは全体的に少ないので、こういったことがまるでサーカスの出し物のように見えてしまうのもまた事実。

古典古代の霊言文字とその文法からなる高位の魔術ではなく、自身の内にある魔素を効果的に発現させる術。

これは体内にある魔素の量にも左右されるし、また魔力発動に使えるほどの魔素を内に持つ者は少数でもある。


またある授業では、炎の実演をやらされたこともあった。

ビーデムという講師に指名されて、皆の前で炎を出すことを求められたのだ。

炎術というのは熱場の応用で、凍術と対になるものだが、見た目が全く違うので、高位魔術ではなく体内の魔素を使う場合、別物として扱われる。

ディドリクはこの時点で、高位術式を使い、ほぼ無詠唱で発現できるようになっていたのだが、古式文法を使うスタイルは隠しておきたかったため、体内の魔素で実演した。

掌上に小さな火球を作り、そこから教卓めがけて細い線状に炎を走らせる。

教卓に小さな穴をあけてしまったので、少しやりすぎた、と後悔する。

ビーデムは驚いて、しばらく言葉を紡げなかったが、しばらくして何事もなかったように、炎術の解説を行っていた。

(うん、でも先生、その説明は微妙に違うよ)

と腹の中で思いつつ、ディドリクは着席する。


年内に学院最高学年の高等科三年に移るつもりでもあった。

そんな生活が一か月ほど続いたある日の放課後、突然講義室である男に話しかけられる。

「王太子ディドリク様であらせられますね、少しお願いしたいことがあります」

長身痩躯のその男が、同じ教室にいたことは知っていたが、名前までは出てこなかった。

彼に限らず、そもそも目的が研究科と図書館書籍にあったこともあり、ほぼ他の生徒との接触は避けてきたからでもあったが。

生徒なのは間違いないのだが、その長身、そして何より全身を覆う漆黒の肌は、ディドリクとはまったく違う理由で目立っていた。

(黒檀族か・・・)と心の中でつぶやくが、ディドリクとても、実際の黒檀族に出会ったのは初めて。

返答が返ってこなかったのを見て、その男は、

「これは失礼しました、私は一年のブロム・ギルフェルドです」と名乗る。

そして自分がフネリック王国辺境の黒檀族と呼ばれる種族の出で、留学のような形でこの学院に通っていることを語る。

自分の名前を知っていたようなので、名乗らなくても良いか、という気も一瞬したが、そこは礼儀社会。

「こちらこそ失礼しました、ぼくはディドリク・フーネ」

「でも第二子ですから、王太子っていうのは少し違いますけど」

と当たり障りのない返答を返す。

「それで、願いとは?」

ブロムは、少し身をかがめて恐ろしことを言い出した。

「私とお手合わせしていただけませんか」と。


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