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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第一章 王立学院
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【三】 異母兄

驚いたのはエルメネリヒ王だけではない。

その場にいた侍従も少し動作がとまってしまった。

王立学院はその名の通り、王室の財政で運営されている学院で、広く国内外の貴族、大商人、有力市民の子弟に学びの場として提供されている。

だが、王族は別だ。

通常の場合、王族には個別の家庭教師をあてがわれ、王室教育を施すからだ。

エルメネリヒ王には正室が産んだ嫡子ガイゼルがいる。

つまりディドリクの異母兄なのだが、彼もまた王室内で個別の教師の元で高い教養を与えられている。

「それは、おまえもガイゼルのように家庭教師をつけてほしい、ということか?」

「いえ、そうではなく、王立学院の研究科に進み、学びたいことがあるのです」

ディドリクの答を聞き、しばし国王が沈黙する。

代わって、侍従ブランドが口をはさむ。

「陛下、ディドリク様、よろしいでしょうか」国王が頷いたのを見て、ブランドが語る。

「ディドリク様、王族は王立学院ではなく、個別の家庭教師をつけられて学ぶことはご存じですよね」

ディドリクが「はい、知っております」と言うと、続けて、

「もちろん国王教育という面もありますが、何より警備面での理由が大きいのです」

この言葉にしばらく黙ったあと、ディドリクが口を開く。

「それでは、自身の力で身を守れればよいのですか?」


六歳の少年が発する言葉の意味を理解できずに、しばらくきょとんとしていた国王と侍従。

「その証拠を見せたく思いますので、お人払いを」と言うに及び、侍従はまだ部屋に残っていた数名のメイド、警備兵を退室させた。


ディドリク、国王、侍従だけになったのを確認した少年は、二人のいる方向とは逆の方に手を挙げた。

肩口からまっすぐ前に伸ばされたその右腕に、パチッという音が響いたのち、稲光が手を包む。

だがそれも一瞬のこと。

手から放たれた稲光がまっすぐに飛んでいき、卓上の花瓶を粉砕する。

いきなり六歳の少年が発した電光に、二人は固まってしまった。


「申し訳ありません、花瓶を壊してしまいました」

少年の言葉に、我に返った国王が

「い...今のは?」と言うと、少年は応える。

「古典古代の魔法術式からの応用です。独学で習得しました」

(厳密には独学ではないけど)と脳内で謝罪しながら、ディドリクは重ねて言う。

「警備のお手間はとらせません、むしろ、そういった者なく学院で一人の生徒として学びたいのです」


「あれを独学で?」とつぶやく侍従を見て

「ブランド殿、なにとぞこのことはご内密にお願いしたく」とディドリクは語る。

「私はガイゼル兄上のお力になりたいのです」とも付け加えて。

「私自身に御懸念があれば、兄上、もしくは私の成人の儀で、継承権を放棄し兄に忠誠を誓うこともやぶさかではありません」

この言葉を国王が慌てて、制する。

「待て、待て、そこまで考えなくともよい、別にわしはお前があの力で王位簒奪を目論んでいるなどとは考えてはおらぬ」

(それにそんなことになれば、マレーネが怒り狂うのではないか)とも懸念してしまう。

エルメネリヒは三人の妻を抱えてはいても、それは血統の維持のため、という意識の方が強く、正室、側室、それぞれに恐妻家の側面を持っていた。

一方ディドリクの方は、この王国に忍び寄る危機について、ぼんやりとした予感を持っていたため、自身がその材料の一つになることを危惧していた。


「わかった、許可する」

「ただし、いくつか条件がある」とも。


寝室に戻ったディドリクは父王の出した条件を反芻していた。

学院への入学試験をただ一度のみ認める。

その試験に落ちた場合はあきらめること。

さすがに警備なしと言うわけにはいかないので、一人つける。

入学後、3年以内に飛び級試験で最高学年まで進むこと。

研究科は高等部の上にあるため、研究科で学ぶためには初等科、中等科、高等科を経てようやくたどり着けるのである。

だが、学院には飛び級試験制度が設けられており、それを使って高等科最高考学年まで上ってこい、と言っているのだ。

かなり厳しい条件を突き付けられたが、ディドリクはたぶん可能だろう、と考えていた。


試験日は一週間後。

次の日、準備を進めるべく文書部にいたディドリクはそこからの帰り道、異母兄に遭遇する。

東屋でクッションを敷いた椅子に深々と身を静め、まるで眠っているかのように、目を閉じて陽光を浴びていた。

周囲には護衛を兼ねた従僕が二名、メイド一名。

病弱な兄が外に出ているのは珍しく、ディドリクは声をかける。

「兄上、おからだはいかがですか?」

ゆくりと目を開けたガイゼルは異母弟を見て

「やあ、ディドリクじゃないか、うん、今日はかなり良い」と、ぎこちなく微笑む。

「ブランドから聞いたよ、学院へ行くんだって?」

「いえ、いくつか厳しい条件を出されましたので、それを越えなければなりませんから」

「そうかい、がんばって」とささやくような声をかける。

年はディドリクより三つも上なのに、同い年に見えてしまう、小さな異母兄。

病弱であるけれども、弟を思いやる優しい心根は、ディドリクも最近理解できるようになっていた。


父王には正妃の他に、自分の母を含めて側室が二人いる。

だが、男子は今のところ、この病弱な兄ガイゼルと自分の二人だけ。

ディドリクの母マレーネは、ディドリクのあと、男子を二人産んだが、いずれも夭折。

正妃にもガイゼルのあと、一人男児がさずかったが、夭折。

そういえばもう一人の側室にも、娘はいるものの、男児は夭折している。

なぜか男児ばかりが、夭折したり、あるいは病弱だったりしている。

そのことをあらためて思い返すディドリク。

ものごころついてから、自身が病に倒れることがなかったため、そこにはあまり注意がいっていなかった。

何か、ひっかかるものを感じて、

(これも研究対象としておこう)と考えるのだった。

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