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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第三章 王都編
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【八】 石客研究会

久しぶりにやってきた王立学院。

そこでディドリクは待ち合わせていたレレケと会い、石客研究会なるところへ案内される。

研究科・実験棟の一室にそれはあり、例によって護衛としてついてきてもらったレムリックは、その実験室前で待機してもらう。


5~6人くらいの人影があり、その中から一人、長身の金髪頭が近づいてきて、挨拶をする。

「殿下、ようこそおいでくださいました」

「いえ、まだ顧問を受けるかどうかは考えていないのですが」


「でも来てくださいました。そのあたりはおいおいと言うことでよろしいでしょうか」

と金髪頭がいい、室内にいたメンバーを紹介する。

それぞれ名を名乗った後、金髪頭が

「そして、私がこの研究会の会長を、一応まかされているゲルゴ・タタヒです」と言ってまとめた。

「一応、というのは?」

「単に私が最年長だから、というだけで、別に優れているからとかではないからです」

と、あっさりと言ってのける。


「習熟程度や研究分野もバラバラですものね」と、紅一点のギーゼラが付け足した。

「この中ですと、そうですね、シュタイガーとロートマンが一番研究熱心かな」とゲルゴが付け足す。


一番奥にいたエーデルヴォルフ・シュタイガーが、ゆらりと前に出てくる。

ゲルゴと同じく金髪だがかなりのクセ毛で、髪が踊っているようである。


「殿下、私も文法を研究しているのですが、この国には研究素材がほとんどなく困っておりました。そんな折、教員の方から卒業生の中にこの古典古代の文法を研究していた方がいる、と聞きました」

「今回のお声がけは、このシュタイガーの提案によるものなのです」とゲルゴ。

「それで殿下、いかがでしょうか、我々の研究に御助力いただけるでしょうか」とシュタイガーが訪ねてくる。

ディドリクは少し考えて、言葉を選びながら、

「正直、顧問という形では気が進まなかったのですが、協力という形でなら引き受けてもかまいません」と答え、さらに

「そこで皆さんにお聞きしたいのですが、文法研究をしてみたいと思われた動機は何なのでしょうか、差し支えなければお教え願いたいのですが」と聞いてみた。


「私の場合は単純に知的興味です」と、レレケ。

「古典古代の文法学は今日ほとんど廃れており、わずかに研究がなされているという帝都の文法学院でも細々と続けられているだけです」

ゲルゴとギーゼラも同じ動機だと語り、ゲルゴが言葉を受け継ぐ。

「帝都の文法学院ともう一つ、教皇庁の文典学院もありますが、あそこではもう研究はほとんどなされておらず、文献の保守に重点が置かれているそうです」

文化水準が高いと言われているこの二都においてすらその程度なので、他国、領邦ではほとんど顧みられることがないという。

ただ現代文法に関しては、学術の基本として残っていることもあり、そこから研究に入っていく者もわずかばかりいるという。


「私はもう少し野心的です」と、シュタイガーが身を乗り出す。

「理想を言えば、法術にたどりつきたいのです、殿下」と。

「聞くところによると、殿下は在学中に法術を使っていたとか、その道筋をご教示願いたいのです」


するとここでそれまで沈黙を守っていたブランケ・ロートマンが語り始めた。

「わたくしもいささか野心的です、しかし、正直なところ自分の目標が可能なのかどうか、はっきりしておりません」

シュタイガーの話に割って入った形になったことを詫びながら、続ける。

「エーデルヴォルフ、すまない。私の目標は、ズバリ魔法博士です」

ディドリクはその単語を聞き、少し動機が早まった。


ロートマンが語る。

魔法博士とは後世の呼び名で正確ではないのですが、便宜上、こうしておきます。

奇跡をおこなう三つの秘術、魔術、法術、妖術の全てにおいて頂点に君臨し、奇跡の技と学識を極めた者、それが魔法博士と言われています。

魔術、妖術に関しては研究が進んでいるものの、法術に関してはほとんど名前だけしか伝えられておらず、今や全貌はすっかり歴史の闇の中に消えてしまいました。

私は帝都、教皇庁に残る文献などもできる範囲で渉猟し、その歴史を陽の下に出したい思っています。

しかし法術は「忘れ去られた」と言うより、意図的に隠匿されたのではないか、とも考えていました。

そんなとき、この王立学院で若くして法術を使う方がおられると聞き、急ぎこの研究科に籍を置いたのです。


この話を聞きながら、ディドリクは幼い時に夢の中で数十年にも渡り第十四世と名乗る人物から文法学の、法術の、基礎と目標を叩き込まれたことを思い出し、考えていた。

この数十年にも渡る知的修練、しかし目が覚めてみると、それは一夜の夢に過ぎなかったのだが。


「そこまで私がお手伝いできるかどうか、わかりません」とディドリクがロートマンの話に答える。

「私は王族の立場を利用して、ほんの少しばかり、書籍を買い集めて、まったくの独学でやっていたものですから」

「そうですか」と残念そうにロートマンは肩を落とす。



「それでどうでしょう、殿下、古典古代の文法学については、何か教えていただけますでしょうか」とゲルゴが切り出す。

ディドリクがそれについては、と言いながら、この一週間でしたためてきた教則本を出してみせる。

「皆さんの知的欲求にこたえられるかどうかわからないのですが、自分がこれまでの足跡を文法学の教理としてまとめてみたものです」


ゲルゴを中心に、五人が顔を突き合わせ、一枚ずつその頁をめくっていく。

「これは・・・」とゲルゴが小さな声をもらす。

「すごい・・・」とシュタイガー。

「知らない文例ばかりです」とギーゼラ。


「こんなもので良かったら、お手伝いになるかと思いまして」とディドリクが言うと、ロートマンが不思議なものを見るような目で、

「私は帝都の文法学院にも行きましたが、ここまでの文典解説は見たことがありません。個々の文例は知っているものも多くあるのですが」


あまりに反応が大きかったため、ディドリクは

「申し訳ありませんが、これはこの研究室でのみ読んでください。搬出は禁止します」と付け加えた。

同時に、この程度なら、法術まで到達するには難しいだろう、とも考えていた。

一同、皆快く承諾してくれたので、ディドリクはついでに、という気持ちである疑問をぶつけてみる。


「フタネスさんからお話をうかがった時に聞くのを忘れてしまいましたが「石客」とはどういう意味なのでしょうか」

レレケ・フタネスが(あれ、言ってませんでしたっけ?)というような表情をしながら、答える。

「レレケでかまいません、殿下。こちらをごらんください」

と言い、実験室の奥にある扉を開けた。

そこには資料室のような小部屋になっていて、その中である物を見せてくれた。


「これはエーデルヴォルフが作ったものです」

それは卓上に置かれた、石細工のような人形だった。

高さは人間の膝くらいまでのもので、頭部と背部に術譜が張り付けられている。


「立て」とシュタイガーが命じると、その石人形がぴょこんと立ち上がる。

そして、飛んだり、うずくまったり、ゆっくり歩いてみたり、走ってみたりと、卓上でいろんな動きを見せてくれた。

「わたくしの家にはもう少し大きいものもあるのですが、ここにはこの小型のものを持ってきました。当初、これをこの会のシンボルにしようと思ったので」


それは魔術によるもので、法術によるものではないが、両者に見かけ上の差異がそれほど大きくないこともあり、知らない人が見たら、どちらともとれるものだった。

「皆さんは魔術に通じているのですか?」とディドリクが問うと、

「技術の高低や力の大小を不問とすれば、だいたい皆、魔術はこなせます」とゲルゴが答えた。



その後、元の部屋に戻り、歓談ののち次の会合日時を決めて解散となったが、ディドリクは最後に見た石人形に少しばかり心を囚われていた。

(応用ができるかもしれない)と。



レムリックとともに家路につくと、途中、アマーリアから首飾り通信が届く。

「にいさま さみしい」と。

「いまから かえるところだよ」と返信して、ディドリクはアマーリアの元へと急いだ。

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