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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第二章 妖術対法術
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【九】  瑠璃宮の魔人たち(一)

神聖帝国...その副都ベルシノアには、帝国を構成する血統貴族、選挙候、大司教らの私邸、あるいは出先機関が集中している。

帝都にある各正邸とは別に、私的性格の強い私邸、機関が連なっているが、そのさらに内奥、ある司教座の別邸があった。

その別邸は一名、瑠璃宮とも呼ばれ、秘密司教院が置かれている。

大きな宗教的議題の前段階の調整などが行われる表向きの姿とは違い、皇后一族とその息のかかった者達が集う場所であった。


その瑠璃宮の一室に集う六人の魔人と七人の従者たち。

童女から少年、青年、中年、老婆に至るまで、不統一な面々。

「とりあえず、連絡をしておこうと思う」

六角卓の上座にいた、中年の小男が口火を切る。

「フネリックに放った呪術師が倒され、呪いが打ち消された」

「ノトラの手の者でございますか?」

第三席の中年がつぶやくように口を開き、第一席に座る男の傍らを見る。

「あんな小国に、呪いを防げる者がいるとは思えませぬ」と、その第一席の青年。

その傍らに従者のように控えていた老婆が、しわがれた声でつぶやく。

「いかにも、わしが放った者じゃ...だがそれなりの力はあったはずなのじゃが」


上座の男が言う。

「まだ詳細はわからぬ」一同を見まわしながら、

「フネリックで調略した者の何人かはまだこちらの手駒として生きている」と続けた。

「つまり、その呪術師のみが倒された、と?」と、第三席の中年。

さよう、と言い、上座の男が続ける。

「だが、意外と面倒なことになるかもしれぬと思い、そなたらを呼んだ」

第二席の老人が、この上座の男に次を促す。

「面倒なこととは?」

その問いには直接答えず、上座の男は連れてきた童女を前に出す。

「シシュリー、お前が感じたことを皆に話しなさい」

まだ十歳にも届かぬであろう少女が、上座の男の傍らに引き出され、怯えるような小声で語る。

「・・・向こうにも、鬼眼師がいるよ」


一瞬の沈黙ののち、第五席の青年が立ち上がる。

「ばかな!」と。

「鬼眼師は一世代に一人じゃないのか?」と、上座の男が連れてきた童女を睨みつける。

その幼女シシュリーは、その視線に怯え、上座の男の背後に隠れようとする。

動揺が広がる中、老婆ノトラが

「そんなに小さな子供を睨みつけるものではありませぬぞ、ジャスペール殿」と言い、少しだけ解説を入れる。

「過去に、一世代に複数現れたこともある。そしてまったく出現せず、数世代を経たこともありますのじゃ」


しばしの沈黙ののち、老婆が続ける。

「で、ゲム様、我々にその鬼眼師を殺しにいけと?」

上座の小男ゲムは、右手を上げて静める。

「いや、そうなるかもしれぬが、何分まだ情報不足だ」

そして少し声を落として続ける。

「確たる証拠もなく大々的に動けば、いかに小国が相手と言えども、政治的にややこしいことになりかねない」

そもそもここに呼び寄せた五人の魔人連は、それぞれ帝国内の諸邦に配下を放ち、情報を集め、時に暗殺、煽動もしている面々である。

すぐに動員できるわけでもなかったのだ。


「とりあえず、ルーコイズに潜入隊を放たせた」

するとゲムの後ろからもう一人、初老の紳士然とした男が現れて、補足する。

「五名ほど放っております」その初老の男ルーコイズが続ける。

「まず鬼眼師が本当にいるのか、いるとして誰なのか、調略可能かどうか」


それを受けて第二席の老人が言う。

「たしかにルーコイズ殿の隊なら、隠密裏に運んでくれましょうな」

ゲムが言葉を続ける。

「おぬしたちの誰かに出撃命令を下すとしても、もう少し先になるだろう。しかし、現状を耳に入れておいた方が良いと思い、召集した」

当分の間は、それぞれの任地での仕事を優先してほしい、と続けて、この会議、というよりも報告を終えた。

五人の中にはすぐに任地にとって返す者もいるため、ここで会議は終える。


一同、無言のままに立ち上がり、出口へと向かう。

彼らを見送ったのち、ゲムはつぶやいた。

「たしかに、面倒なことになった」

ゲムは傍らで怯えて震えるシシュリーに

「ジャスペールは血気盛んな男だ、おまえの言葉を疑ったり、ましてや悪意をもって言ったのではない、安心しなさい」となだめる。

そしてルーコイズに向かい、

「本当は暗殺も視野に入れてほしいのだが、当分は無理だな」とも。

「フネリック王国は、優先順位としては低いのでございましょう?」

「そうだ、フネリック王国は領地こそ広いのもの、人口も資源も少ない上、現状では帝国に従っている。我々の手を汚さず、ゆっくり衰退させていけばいい、という目論見だった」

「しかし呪いを破る術者が向こうにいた、と」と、ルーコイズが不敵な笑みをもらす。


「強大な魔術師、妖術師、法術家が出てくるとなると、話は別だからな」と、ゲムは言う。

「しかし、魔術戦となれば、むしろ...」と笑みを抑えきれないルーコイズを見て、

「おまえはその方が嬉しかろうが、そのお膳立てをしたり、尻ぬぐいをしたりする我々の事情も考えてほしいものだ」とゲム。

「仮に、強力な鬼眼師がいたとして、それを我々が利用できれば、その方が好都合、となることもあるしな」と、付け加える。

ルーコイズはこれを聞いて、肩をすくめる。

この話はここで終り、ゲムの関心事は財政問題に移っていった。



メシューゼラの誕生日会が開催され、ディドリクや父王も参加させられた。

パオラの出身地・南方州タゲフルの野菜や穀物が使われた多彩な料理、そして着飾ったメシューゼラ。

赤、黄、青、などの原色を取り入れたドレス、スカート。

腰紐や飾り紐には、金糸、銀糸などが織り込まれた、目にも鮮やかな装束。

参加者は王家の身内と従者、数人の知人、というだけなのに、パーティのような華やかさになっている。


ディドリクが、母マレーネ、妹アマーリア、そして身の回りの世話としてつけた二人のメイド、ヴィヴィアナとリュカを連れて入場すると、メシューゼラは駆け寄って

「参加ありがとうございます、マレーネ様、ディー兄様」と言い、身を屈めてディドリクの傍らにいるアマーリアにも

「ようこそ、アマーリア、楽しんでいってね」とにっこり微笑みかける。


ガイゼルの成人式とはまた違った華やかさに、目をパチクリさせていたアマーリアだったが、すぐにこの楽しさに気づいて

「メシューゼラ姉様、お呼ばれ、ありがとうございます」と言った。

「ゼラで良いわよ、ディー兄様や、ガイ兄様もそういってるし」


「ゼラ、すごくきれいなので、びっくりしたよ」とディトリクが言うと、

「この前来てくださったとき母様の郷土料理をほめてくださったので、今年はもう盛大に郷土色で攻めようってことになって」とメシューゼラ。

そのパオラは? と思って見渡すと、父王エルメネリヒ、正妃イングリットと何やら歓談中で、マレーネもその中に入っていった。


子どもたちは子どもたちで集まって、食べたりおしゃべりをしたりして、楽しんでいた。

「ガイ兄様、あちらに加わらなくても良いのですか?」と皮肉っぽくメシューゼラが言うと、

「おいおい、まだ私はこちらにいたいよ、せめてパーティのときはね」と、既に成人式を終えているガイゼル。

「まるで兄妹会議ね!」とメシューゼラが言うので、次の会議やアマーリアの誕生日会について話題がふくらんでいく。


ガイゼルが「ディー、ちょっと」と言って、ディドリクをベランダに誘う。

「正式発表はまだなんだけど、ディーには伝えておきたくて」と小声で話しかけた。

「なんです?」とこちらも小声で返すと、デイゼルがさらに声音を落として

「母様が懐妊したみたいなんだ」と伝える。

「え」と少し驚いて声を上げてしまうディドリク、それを聞きつけてメシューゼラがすっ飛んでくる。

「なに?なに? 兄様達だけで内緒の話、ずるーい」

「おまえはおしゃべりだからダメだ」とガイゼルが引きはがそうとする。

「ゼラ、次の兄妹会議で伝えるからさ、ちょっと落ち着こう」とディドリクが言うと、メシューゼラはディドリクにも矛先を向けて

「ディー兄様まで! 共犯なの!?」とまくしたててくる。

「私の誕生日会なのに!」と大声を上げ始めたので、やれやれ、という感じでついにガイゼルが折れて、こっそり耳打ちする。


「え、すごーい! 弟? 妹?」と大声を出してしまい、列席者一同に、すぐにバレてしまった。


その頃アマーリアは、リュカに椅子に座らせてもらいながら、タゲフル名物のキルタル芋の芋煮をもしゃもしゃと食べていた。

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