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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第二章 妖術対法術
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【五】 ワントブーフとグロック

時間を少し戻して、ガイゼル成人式の前日。

バルティアの森、とある炭焼き小屋。

小屋の外に、貴族が乗ってきた馬車と従者が待機する中、三人の男が密談をしている。

「解呪した者がわかったのか?」

黒いローブをまとう長身の男が貴族風の男に聞く。

「わかった、というか、まだ推測の段階なんだが...」

「それでもいい、話せ」

「第一王子の呪いが解かれた場所は、第一王子が居住する離宮の一室だったらしいのだが、現場にいた者は王家の者とその使用人に限られていた。したがって、誰が呪いを解いたのか、なかなか漏れてこなかったのだ。おそらく緘口令が敷かれたのだろう。」

髭面の小男がいやみったらしく言う。

「二年もかかった言い訳か?」

貴族風の男がムッとして

「仕方ないだろう、私は王家の血縁ではないのだし」

「まぁいい、それで?」と黒いローブの男。

「ただ現場にいた面子はわかった。その中に、王立学院の学生が二人いたのだ」

「学生? それが関係するのか?」と髭面。

「ああ、そのうちの一人が、学院でかなり奇妙な魔術を、けっこうなハイレベルで使っていたらしい。現場にいた人物の中で、魔術に関わりがありそうなのがその人物だけなのだ」

「魔術と妖術は体系が根本的に違う。文法家ならまだしも、この国では法術はほとんど研究されていないはずだし」

黒いローブの男は、貴族風の男から目をそらし、少し考えるようなそぶりになる。

「で、その人物が誰かわかったのか?」と髭面。

「ああ...王家の第二王子、ディドリク・フーネだ」


「なに?」と黒いローブの男が顔を上げる。

「王族が学院に籍を置き、なおかつ魔術研究をして、さらに解呪に成功した?」

最後の方は小さな声になり、相手に問うというより、自分に尋ねているようだった。

「よくわからんな、王族は学校などに行かせず、家庭教師をつけて国王教育するものだろ?」と髭面。

「ひょっとしてその第二王子に優れた魔術教師がついていたのか?」と黒いローブの男。

「いや、その第二王子は正室の子ではなく、側室の子で、魔術教師がついていたとは聞いていない」

ここまで聞いて、髭面が何か思い出したように、黒いローブの男を見る。

「側室の子で...第二王子、おい」と話しかけると

「ああ、そうだ」と黒いローブが答える。

「呪いが発現しなかった方...か」


「それはどういうことだ」と貴族風の男が説明を求める。

「私は貴方の要望に従って、呪いをゆっくりとかけた。幼児にはすぐに効くが、既にある程度成長している男児には速攻で効果が出ると、貴方の立場があやうくなるかもしれない、ということだったから」

「う、そうだったな、急にバタバタと死なれると、暗殺が疑われるし」

「十年前から呪いをかけ、既に立って歩いていた嫡子ガイゼルを衰弱させ、以下の幼児たち、それから生まれてくる者たちに順番に仕掛けていった。

都合六人の男児のうち、一人がその嫡子で衰弱死へと向かわせ、残りのうち四人を幼児のうちに始末した。だが一人だけ、発現しなかった子供がいた、それが第二王子だ」

ここで言葉を切り、少し考える。

「当時は弱く呪ったため、個体差で効きが弱すぎたのか、と思ったのだ。嫡男の没後、もう少し強めの呪いを後でかければいい、と思ったのでね、その後、別の男児が生まれてきたこともあったし」

「ま、まだ確定じゃないがな」と貴族風の男が少し及び腰になり、言う。

「引き続き、調査を頼む」と髭面が言い、貴族風の男から、解呪の時に部屋にいた人物のリストを受け取る。

「そろそろ再開していい、ということかな? それとももう少し貴方の調査を待った方がいいのかな」と黒ローブ。

「瑠璃宮からは急がなくてもいい、という話だったが」と貴族風の男が告げると、

「かといって百年も待てませんぜ」と髭面が言う。

「そうか、じゃ再開してくれてかまわない、ただし、足はつかないように」と男は小屋を後にした。


貴族風の男が出ていったあと、髭面の小男グロックが黒いローブの男ワントブーフに問いかける。

「どう思う?」

「第二王子はまだ十歳だったな」

「第一王子を解呪した時点では八歳だったはずだから、そうなるか」

「古くから、優れた魔術師、魔法博士、文法家などは、五~六歳でその力に目覚めた、と言われている」

少し考えたあと

「もう少し情報を待った方がいいかも知れぬ。確実にやりたいしな」と付け加えた

「明日、第一王子の成人式だ。そこで王太子の任命式があるらしい」とグロックが言うと

「ふむ、そういうことなら少し潜入してみるか」とワントブーフ。

「この前、離宮にも入ろうとしたのだが、妙な気配を感じたので、やめた」

「妙な気配?」

「うむ、なんというか、ゆるい結界が張っているような、索敵網が仕込まれているというか」

「今まではなかったのか?」

「ああ、先週からだ」


しばらく沈黙のあと、ワントブーフが重ねて言う。

「ともかく、明日、潜入してみるが、対策を打たれているようだったら、すぐに戻る」



時を戻して、ティドリクの誕生祝い、その翌朝。

目覚めたディドリクは、左腕にしがみついている妹からゆっくりと腕をはずし、のびをする。

アマーリアはまだ心地よさそうな寝息を立てながら、眠っている。

昨夜のことを思い出し、どうしたものか、と考えてしまう、兄。

そこへメイドのヴィヴィアナが朝の掃除にやってきたので、母がどうしているかを尋ねてみた。

すると、ついさっき起床したところだという。

特に、娘がいなかったことには気にしてなかったらしい。


ディドリクはしばらく妹の寝顔を眺めていた。

触れるか触れないか、といった軽さで、髪をなで、頬に触れる。

生まれた頃からしっかりと感じられる、このやわらかさ。

いつまでも時間を忘れられるくらいだったが、ハッと気が付いて、身支度を始める。

リュカを呼んでもらい、アマーリアの世話をお願いし、王宮へ行く旨も、同時に伝える。



三つの離宮は広義の王城内にあるが、離宮に隣接する狭義の王宮は、正妃とガイゼルの離宮に隣接して存在する。

4つの宮城を城壁が守り、その外側すぐに王立学院が、そしてさらにそれを囲むように、城下町や職人街などがある。

とはいってももともと少ない人口なので、それほどの規模ではないのだが。

王城側が少し高台にあるため、王宮へ向かう途中、その城下町を眼下に収められる。

王宮門に到着し、父王と兄ガイゼルへの面会を求める。


待つことしばらく、門衛から許可をもらい、王宮の中へ。

いくつかある謁見の間のうち、いちばん狭いところで待つことになった。


ほどなくしてブランドが従僕を伴って現れ、

「若、いかがなさいましたか」と尋ねてくる。

「陛下は午後からネロモン商会のトートルキア様とご会談の予定ですので、それほどの時間はさけませんが」

「ブランドも同席してほしいけど、それ以外は人払いをしてほしいんだ」とディドリクは言って、そっと耳打ちする。

「呪いの件についてなんだ」と。

少し顔色が変わったが、すぐに取り戻したブランドは頷いて、王、王太子の出番に備えた。

かくして、エルメネリヒ王とガイゼルが現われ、ブランドも交えて卓を囲んだ。


儀礼的な挨拶を交わしたあと、ディドリクが切り出した。

「呪いの件についてなのですが、内通者がいる可能性があります」

そして、離宮周辺に仕込んでいた鉄釘とその異常、王太子任命式でのことを語った。

「それが内通者がいることになるのかい?」とガイゼル。

「ええ、鉄釘に関しては、離宮内部、及び境界の地理についての知識がないとそこを通ってくるのは無理だと思いますし、成人式の侵入も、警備のうすいところからやってきました」

ブランドが結論を待ちきれないという風に、

「その内通者を調べてほしい、ということですか?」

「いえ、今の段階ではその程度の証拠では探し出すのは無理ですし、内通者がいる可能性がある、ということだけ知っていれば、という段階です」

王が続きをうながす。

「そこで、呪いをかけた者がまだ領内にとどまっているのなら、あぶりだして退治したいと思っています。内通者の件はその後で」

ディドリクのこの言葉に、一同に緊張が走る。

「ただし、さきほど述べたように、王宮内に内通者がいる可能性を考えて、当面は父上、兄上、ブランド、それにイングマールにのみ情報を限定しておきたいのです」

「それで具体的な作戦は、兄上とイングマールに伝えて詳細を詰めるつもりですが、もう一人、父上に、協力者が王宮内に滞在する許可をいただきたいのです」

エルメネリヒ王が訪ねる。

「その人物は信用できるのか」

「はい、学生時代の友人で、成人式でも黒檀族の代表として参列してもらいました」

「ふむ、あの黒檀族の勇者か」と頷き、許可した。

「わかった、おまえの身辺警護というのも兼ねるのであれば、黒檀族なら安心でもあるしな、おまえにまかせる」

「本当は近衛騎士隊や警備隊にも協力を仰ぎたいのですが、内通者に漏れるのを避けたいので」

そこでブランドを見て

「大事にならないように片付けるつもりですが、もし大事になったときに、騎士隊や警備隊への対応をブランド卿におまかせしたく」

ブランドは「おまかせあれ」と胸をたたいて見せた。

「経過はできるかぎり報告します」

と言って、ディドリクは退席する。

謁見は、数分で終わった。

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