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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第九章 死霊術師
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【十八】 空中戦と封印戦

機械仕掛けの鳥、とでもいえばいいのだろうか。

それは鳥の形をした金属人形。

だが、金属の翼でありながら、その機械仕掛けの鳥は宙に舞い、自由自在に動きまわっている。

おそらく物理的な浮力だけでなく、体内にあるエーテル体を介して、魔術による浮揚式を備えているのだろう。

しかもそれ一羽だけでなく、無数の鳥が宙に浮き、動き回っている。


魔鷲ほど巨大な体躯のものはいないものの、それでも翼長2mは越えるかと思えるものも何羽かいる。

浮揚し、動き回ることを主眼としているため、大した武器は装備していないが、金属翼の縁は鋭利に磨かれており、それが武器として機能している。

魔鷲の筋肉を切り裂けるほどの威力はないが、木製の装備程度であれば切り裂ける。

最初は魔鷲や天馬に襲い掛かっていたが、金属翼で切り裂けないとわかるや、目標を函車に移した。

金属のからだをぶつけてくるドスン、ドスンと響く音に続いて、金属翼が木製の壁を切り裂いていく。

金属鳥の攻撃目標が変わったことを知って、函車を抱える魔鷲を操っていたズデーデンシーバーが、着陸態勢を急ぐ。

函車の外壁に金属鳥の切り痕が次々と入り、壁面は破損寸前。

着陸と函車の破壊はほとんど同時だった。

大地に投げ出されたディドリク達だったが、それぞれ自身の魔術、あるいは法術の力場などで、大けがには至らなかったものの、それぞれ転がるように地上に降り立つ。

態勢を立て直す間もなく、そこにあの死体が襲い掛かる。


空に魔鷲隊と天馬の、金属鳥、大型の金属蟲との戦い。

地に立った彼らの前には不快な臭いをたてる死霊術師の死体の群れ。

いち早く反応したのがヴァルターで、まだ死体が接近する前から炎陣を展開し、立ち上がろうとするディドリク達の周囲に展開。

迫りくる死体の群れの足を止めさせ、その上で、一体ごと燃やしていく。

「聞いてた通りだな。しかし炎には弱いようだ」

と、ヴァルター。

するとそこへ、以前戦ったヒトガタの金属人形が炎を乗り越えてくる。

「ヴァルター、あれが金属人形です。私たちの炎術は通用しませんでした」

メシューゼラがこう告げるや、ヴァルターが次の指示を出す。

「わかった。メシューゼラは炎陣を維持して死体の寄せ付けないようにしてくれ。僕が一体ずつ試してみる」

そう言って、詠唱を始める。

ヴァルターの十八番、青焔術だ。


「クレエムヒルト、核の位置は?」

「腰のあたりです」

クレエムヒルトの認知結界と透視術の合わせ技を受けて、ヴァルターが狙いを絞る。

炎陣を飛び越えてきた一体に、青い焔が直線状に放たれた。

人形は焔を受けつつも、剣を振り上げヴァルターに迫るが、目前で動きが止まる。

死臭とは違う、焦げた金属のいやなにおいを立てて、バランスを失って倒れる。

腹部に穴が開き、その中にあったと思われる核石が焼き切られたのだ。

「さすが殿下です」

今回ヴァルターとともに随行していたクレーベルが駆け寄り、言った。

「なんとかなったけど、一体倒すのに時間がかかるな、やはり操縦者を探す方が効果的かもしれない」

この言葉を受けて、クレエムヒルトが炎陣を越えて、広域に索敵・認知の結界を張る。



一方、ディドリクとアマーリア、ペトラは、炎陣から出て、死体を焼きつつ、死霊術師を探していた。

「兄様、あそこ!」

二人に守られつつ索敵を続けていたアマーリアが、木陰の方を指さす。

同時にディドリクが炎弾を撃ち込んだ。

木陰から一人の中年女が飛び出して、その炎弾をよける。

「ネキシントンか?」

ディドリクの問いに、その女が答える。

「今回は死んだばかりの新鮮な死体を用意したからな」

不気味な言葉を吐きながら、剣を抜く。

死霊術師ネキシントン。

おそらく「彼」は、自身の魂魄を死体に移し替え、次々と違う肉体をまとっているのだろう。

それゆえ、その身体の戦闘能力は、死体の筋肉量がどれくらい残っているかに左右される。

だが、カラダの限界を考える必要はない。

筋肉がその荷重に耐えられなくなったら、そのカラダを捨て、別の肉体に乗り換えればいいのだから。

つまり、このカラダを焼いても、倒したことにはならない。

仮にこの男の本来のカラダ、本体と言っていいものが別の場所にあったとしても、意味はないだろう。

それが焼かれたとしても、単に本体が焼かれただけに過ぎないのだから。

戦闘においては、実質不死身の肉体をもっていることになる。



大空では天馬にまたがった三人と、魔鷲を操るズデーデンシーバーが、数を頼みとして攻めてくる金属鳥と対決していた。

武器らしい武器はその鋭利な翼だけだったが、数が多いこと、空陣隊の翼獣と同じ程度の速度で駆け回るため、戦いは膠着している。

「ほんとにこの数の鳥を、一人の魔術師が操っているのか?」

フリューダイクは群れを成して飛ぶ金属鳥のかたまりを躱しながら、こうもらした。

だが魔鷲を操るズデーデンシーバーは、金属鳥の動きを観察し、あることに気づいた。

「コーベルイ、私と変わってくれ」

こう言うや、空中で天馬と魔鷲を交代する。

浮遊術を使いながら、コーベルイが駆っていた天馬に移ると、ズデーデンシーバーは金属鳥の真っただ中へと突っ込んでいく。


「ヨーン、無茶だ」

鞍に移ったコーベルイがヨーン・ズデーデンシーバーに呼びかける。

ズデーデンシーバーはその天馬を操りつつ、金属鳥の群れに向かい、巧みにかわしつつ、森の上空へと移動していった。

金属鳥だけでなく、金属製の大型昆虫、魔獣形態のものも、ズデーデンシーバーに釣られるようにその渦の中に入っていく。

「うん?」

ヘドヴィヒも同様に、ヨーン・ズデーデンシーバーの華麗な空中での手綱さばきを見ていたが、あることに気づき始める。

「そうか、あの人形魔術はおそらく」

こうもらすと、魔鷲に乗るコーベルイ、天馬に乗るフリューダイクにも注意を促す。

「見て。あの金属鳥、たぶん個別に人形魔術が施されているわけじゃない」

「どういうことだ? まさか魔獣たちのように、自律的に動いているとでも?」

「そうじゃないわ。あの鳥たち、規則的すぎるもの」

ズデーデンシーバーを追い回す金属の鳥、魔獣たちは、突っ込んできてはひらりひらりとかわすズデーデンシーバーの天馬に引き寄せられ、ほとんどすべてがそちらに向かっていた。


空中で舞うように追いかけっこをしていた高速の空中魔術師ヨーン・ズデーデンシーバー。

今まさに勝負を決せんと、これまでとは方角を替えて、森の中へと突っ込んでいった。

急に方向を変えた天馬の動きに一瞬とまどった動きを見せた金属鳥たち。

再びひとかたまりになり、ズデーデンシーバーを追う。

それを見てヘドヴィヒが二人に言う。

「ヨーンのしようとしていることがわかる?」

「森の中に誘導しているらしいことはわかるが」

「あの鳥人形、一体ごとに動かしているんじゃなくて、全体で動かしているのよ。いかに優れた魔術師と言えども、あれだけの数を個別には扱えないってこと」

フリューダイクは「あっ」と、ようやく気が付いた。


森の中へ突っ込んでいったズデーデンシーバーと金属鳥たち。

だが高速で木々の間を飛んで行ったものだから、次々と枝に引っかかって動きがとれなくなっていく。

一体ごとの操作ではないため、個別の対応ができずに、かたっぱしから引っかかっていく。

それを見てヘドヴィヒがチェーンを取り出し、枝や幹に嘴や翼をひっかてしまっている金属鳥を一羽ずつ打ち付けていく。

飛ぶことと切り裂くことに特化した人形であったため、地上の金属人形ほどの耐久力、防衛力もなく、翼を切り落とされていく。

フリューダイクとコーベルイもその後に続き、ひっかかった空飛ぶ金属人形の翼を切り落としていった。



地上ではクレエムヒルトが索敵を続けていたが、前回のように操縦者の姿をとらえることができない。

前回とは比較にならないくらいの数の人形を、空に、地に、と出してきているはずなのに、近くにその気配が感じ取れないことに、少し焦ってきた。

「何か対策をたてられてしまった、と言うこと?」

空を見ると空中戦は決着がついたようだ。

ヘドヴィヒ達が次々と着陸し、こちらに加勢に来てくれるものの、金属人形を貫けるのがヴァルター一人。

それも一体を仕留めるのにそこそこの時間がかかってしまう。

手が増えたのはありがたかったが、なかなか倒せないため、早く操縦者を見つけなくてはいけない。

空に舞っていた金属鳥達は、視覚器が取り付けられているような感じではあった。

しかし、いま目前で戦っている金属人形は前回と同じもので、感覚器らしきものはついていない。

必ずどこかで操縦者が戦いの場を見ながら操っているはずなのだが。


メシューゼラも金属人形に襲われ、炎陣を維持することができなくなっていく。

だが、醜悪な死体の群れは、それほどの数ではなくなっている、

見ると死体の群れは、ディドリク、アマーリア、ペトラのいる方向へと集結し始めていた。

そちらへかけつけようとするが、金属人形が手ごわく、身動きがとれない。



中年女の死体に自らの魂魄を移しているネキシントンの姿を確認したものの、ディドリクは死体戦士に邪魔されて、そこへたどり着くことができない。

だが、死体が集まってきつつあることを意識して、ある計画に入ることを決め、アマーリア、ペトラに目で合図を送る。

ペトラが兄妹の元に集まり、二人に襲い掛かる死体を切り伏せる。

死霊術師が呼び出した死体は、手に手に剣を持ち襲い掛かるが、人形遣いが操っている金属人形ほどの力強さや、正確さはない。

ただ無限にも思えるその数がやっかいなのだ。

一体ごとであれば、それこそ幼年軍学校の学生でも切り伏せられるだろう。

しかしそれが数十の大軍で襲い掛かってきたら?

策がなければこの数に絶望してしまうところだ。

しかしこの法術兄妹には何か策がある、と信じて、ペトラはダガーを振るい、一体ずつ斬り落としていく。


三人が集結したことを見て、アマーリアがある詠唱に入る。

同時にディドリクも炎陣を展開。

だが魔術師として成長を続けるメシューゼラに比べると心もとない。

炎陣を展開しても、法術師が放つ魔術炎ゆえそれほど高温でもない。

身を焼かれながらも死体剣士は炎を乗り越えてくる。

そのときアマーリアの詠唱が完了した。

拡大フェアグレーセルンク!」


この発動により、炎陣の炎は一瞬で高温化し、火勢も天にも届かんばかりに巨大化する。

さながら、三人を中心にした炎のドームが出来上がったかのように。

乗り越えつつあった死体剣士だけでなく、その周囲で様子をうかがっていた死体達も、一斉に火葬にされてしまった。

炎のドームを中心にして、周囲にいた死体剣士達にも高温の塊が襲い掛かってきたためだ。


一瞬の炎の拡大に驚いたネキシントンだったが、彼もまた他の死体とともに炎にまかれていく。

声を出す間もなく、一瞬で炎に包まれていく器としての死体。

すぐにそのボディを入れ替えねば、と思い、焼かれる死体から脱出しようとするのだが。


炎陣の中心で、ディドリクの詠唱が終わった。

封緘バンネンジーゲル!」

術が発動し、ネキシントンの魂魄移動が封じられる。

必死で燃える死体から脱出しようともがくが、ままならない。

声ともうなりともつかない音を出して、死霊術師は炎の中に消えていった。


「見事です、姫、若君」

ふだん、滅多に表情を崩さないペトラが感激して二人を称えた。

炎の中に崩れていく、死霊術師が憑依していた肉体が、魂魄もろとも焼かれ、灰になっていく。

焼かれつつあった死体も、ただの物体になっていき、対死体剣士戦は終ったかに見えた。

だが!


炎が収まりだすと、すぐにヴァルター達の元へ加勢に加わろうとしたディドリク。

だがそこに、新たな死体の群れが現われた。

「え?」

驚きの声を出すアマーリア。

確かに死霊術師は滅びたはずだ。

それを見てディドリクも驚きの言葉をもらす。

「死霊術師がももう一人いる?」

森に続く木立の木陰から、一人の男がゆらり、と出てくる。

「まさかネキシントンがやられるとはな」


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