勝利の祝杯を
永井・水島・桜田の三人は高校の時から二十年近くつるんで楽しいことをやってきたが、これほど気分が上がったことはない。
廃工場で寛ぐ三人はソファーやテーブル、電気を持ち込み快適な空間を生み出していた。
誰のものか分からない廃工場、初めの頃こそ苦情がきていたが、ちょっと脅しただけで誰も来なくなった。
気晴らしに近所の不良を叩きのめし更生させてやったりもした。
自分たちが高校生の頃はこんなんじゃなかった、最近の若者は軟弱で優等生ぶってて気持ち悪いと言い放った。
今日なぜ彼らの気分がいいのか。
それは大儲けしたからだった。
「今日の酒は美味い。高い酒ってのはやっぱり俺たちに似合うよな。」
永井は髪を金髪に染めていて根本が黒い。黒いシャツとジャケットを着崩していて鎖のネックレスが見える。くつろぎやすさを重視しているようだ。ワインをジョッキに並々に注いで、一気飲みしてから言った。
「今回は大儲けだからな。相場より多く支払ったからアイツらめちゃくちゃ頭下げてくれんの。っつうかさ、売るところに売ればもっと儲かんのに馬鹿だよなアイツらも。」
笑いながら、煙をモクモクさせるのが桜田だ。
同じく着崩したシャツから桜の刺青が見える。顔が長い前髪とサングラスで半分隠れて、表情は読み取りにくそうだが今回は明らかな嘲笑だった。
「裏社会って言いつつも、実は馬鹿の集まりなんじゃないのかな。頭が空っぽでさぁ。」
水島は細い目をうっすらと開けて言った。
薄い色の髪と大きなジャケットが目立つ。
優男に見える彼は嗜虐趣味が見え隠れする顔を隠さない。
自分自身頭脳に自信はあった。作戦立案は毎回彼の仕事だった。
そう、今回、裏社会で手に入れた銃を利益率9割で売り捌いたのだ。
まだ銃は残っているにも関わらず、莫大な利益を手に入れていた。
顧客は言わずもがな金持ちだ。
金持ちはだいたい殺したい奴がいるもので、すぐに買ってくれた。
彼ら裏社会に出入りするようになって幾年かほど、ずっと相場を確認してきて相場が低いことに気づいた。
きっかけはふとしたことだったが、それは気にすることではない。
今回それを利用した大儲けを思いつき実行し、それが成功した。
興奮するなという方が無理な話であろう。
大笑いしながら、裏社会を見下し笑い続けた。
本当の悪というのは自分たちのような存在なのだと。
裏社会と言いながら悦に浸っている馬鹿や弱虫など自分たちの敵ではないと。
だから知る由もないのだ。
彼らに死期が迫っていることを。
<次回> 「蛙の戯言」 6月8日投稿予定