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昼と夜の交わり  作者: 泡沫
憲法第零条 国民の定義
51/63

社長の正体

 (株)ドラゴコーポレーション代表取締役社長兼CEOである龍崎(りゅうざき)美琴(みこと)は私用のスマホの電源を切った。



 彼は建物の最上階である七階の社長室の社長用の椅子から立ち上がり、窓の外を見た。青空が広がっていて白い鳥が群れで気持ちよさそうに空を翔けている。


 龍崎は徐に窓を全開にした。


 すると、一人の小さな女の子が窓から跳んで入ってきた。

 彼女は器用に窓に脚をかけて入ってくる。

 それに合わせてか、ドアでもないところから別の部屋への道がつながりゾロゾロと人が現れた。


 龍崎はそれに対して特別な反応をすることもなく、窓の外を見て何かを発した。


 すると、窓の外で飛んでいたはずのたくさんの白い鳥たちが窓から勢いよく入ってきて社長の机の上に真っ白な葉書サイズの紙として積み上がっていった。


 龍崎が窓を閉めていると、この部屋でただ一つのちゃんとした扉がノックされた。

 龍崎は「入れ。」とだけ言うと、ロングヘアの綺麗な女性がスーツを着て入ってきた。


 何故、社長と秘書の二人しかいないのに社長室が広いのか。


 それは、二人しかいないのではないからだ。


 「園咲(そのざき)、ちょっと頼まれゴトだから、方針決めて指示出さないと。予定調整してもらえる?」


 龍崎は先ほど扉から入ってきた秘書にそう言うと、彼女は笑顔でお辞儀をして「承知しました。」と言った。

 その所作は美しく、只の一礼とっても見惚れるものだ。


 「今回はどうしたんですか?」


 彼らの中の纏め役である亀久(かめひさ)(かおる)が一番に龍崎に聞いた。

 彼は応接用のソファの背もたれに腰をかけている。

 彼はのんびりとした雰囲気で目はなんだか眠たそうだ。尚、これは先天的なものである。


 「私的といえばそうなんだが、結果的には、利があるから、仕事かな?簡単に言うと、一人、引き摺り下ろす。」


 社長用のデスクに腰をかけた龍崎は世間話をするように軽く告げた。

 彼のグレーのサングラス越しに見える目は細く笑っていたように見える。


 「ウチらが得意なヤツね。」


 何故か天井にある鉄棒に逆さにぶら下がっている菱川(ひしかわ)真澄(ますみ)が笑顔でシガレットチョコを食べている。ハッキリとした短い前髪の短髪の女性だ。


 「で、誰ですか?」


 碓氷(うすい)は秘書のデスクに勝手に自分のノートパソコンを置いて我が物顔で座って必要なデータを探しながら問いかけた。


 「民自党の幹事長。」


 全力の笑顔で龍崎が応じた。


 「ソレって、ネタはもう掴んでたよね。」


 先程窓から入ってきた少女、時雨(しぐれ)は先ほどまで無かったはずのハンモックに腰掛けて足をぶらぶらさせている。


 「あぁ、遅かれ早かれ使うだろうってさ。何がトドメだったんだ?」


 時雨の後ろから彼女の髪をいじりながら金髪の癖毛をもつ見るからにチャラそうな長谷部(はせべ)宏一(こういち)は尋ねると、今度は無表情になった龍崎が答えた。


 「ソイツが玲ちゃんを侮辱したらしい。」

 「あぁ・・・」


 そこにいる全員がその一言で察した。

 いや、察してしまったと言うべきだろうか。

 彼らから漏れ出る呆れたような声が彼らの心情を素直に表現している。


 「そりゃそうなる。」


 ここまで一言も発していなかった黒髪ストレートで目元の黒子がチャームポイントの村瀬(むらせ)瑞稀(みずき)が前髪を書き上げながら呟いた。

 余りに様になっていてイラッとするが、この場にいる人に撮ってみたら日常なので誰も何も言わない。耐性のない人がいたのなら、この色気だけで腰を抜かしている。

 だが、そんな間抜けな人はこの中にはいない。

 尚、彼にその気はない。


 「自殺志願者?そんな怖いこと俺には無理。ねぇ〜?」


 「うん。あと、コウ、いつも言ってるけど、見た目子供っぽいからって子供じゃないんだからね。」


 長谷部宏一は時雨の髪を二つに結って、ぴょこぴょこさせながらご機嫌だけど、彼女はちょっとご機嫌斜めのようだ。


 その瞬間、そこにいる全員の端末が鳴った。


 龍崎はニヤリとして労をねぎらう。


 「流石、速いな。いつも助かるよ。」


 彼の称賛の対象、碓氷は少しだけパソコンから目を離し、四角い眼鏡越しに龍崎を見て


 「当然です。褒められることでは…」

 「いつもだけど、受け取っておきなよ。照れ屋なんだから。」


 碓氷の言葉を遮って亀久馨がそう言って端末の通知音を止めた。


 「隊長!なんです?その通知音は。」

 「そんなコト、君の声に決まって」

 「そーじゃない!なんでそれを!」

 「それは、僕が毎回録音しているからに決まっているじゃない♪」

 「何処から、何処から突っ込めばいいのか!」


 碓氷は頭を掻きむしっているが、亀久馨は終始穏やかな笑顔でのんびりとしていた。

 言い合いに収拾が付かなくなっていたところでパンパンと手を叩く音がした。


 「ハイハイ、そこまでにしな。アンタらの言い合い聞いてたら朝になっちまうよ。」


 菱川真澄は鉄棒から降りて新しいシガレットチョコを金庫から取り出していた。

 サバサバした彼女は皆の姉貴のような立ち位置にいる。


 「真澄さん、今、朝ですよ。今、十時半。」


 村瀬瑞稀は的外れなことを言っている。


 「アンタは諺を覚えな。」


 新しいシガレットチョコを口に咥えながら指図した。


 「さて、馨。ここにあるネタで引きずり下ろせると思うから、それとなく情報流してもらえる?週刊誌とかで構わないから。あとは、これでもしがみ付いた時のために警察が介入できそうなネタを探せ。この感じだとあるだろう。どちらかというと、詳しく合法的と納得できる証拠を集める感じかな。一手目で引くなら其処で止めてやろう。ただ、そうでないなら、慈悲はいらない。」


 龍崎は小さな喧嘩という名の恒例の茶番の間に全ての資料に目を通していた。そして、方針を指し示した。


 「うん。承知しました。」


 馨は右の拳を心臓に当てた特殊な礼をした。


 「じゃぁ、後は頼んだ。報告は私にのみ。最後に、合図するまで、誰もこの部屋に入るな。いいね?」


 龍崎の言葉に全員が無言で特殊な礼をして部屋を片付けて撤収した。

 碓氷はノートパソコンを持って、真澄はシガレットの金庫を閉めて、宏一と時雨はハンモックを片付けて去っていった。


 最後に園崎が正規の扉から出て行こうとしたら、扉を後ろから抑えられた。


 「私は君には命じていないよ。」


 龍崎は園崎を後ろから確保して笑顔で囁いた。


 「(かすみ)、君は『(ふくろう)』の人間じゃない。それに、今は秘書の園咲でもない。」

 「秘書(ひしょ)園崎(そのざき)は仕事がしたいです。」


 固まりながら懸命に答えるも、龍崎は彼女に構わず、クツクツと笑って耳元で囁いた。


 「キミに免じて五分あげるよ。仕事、してイイよ。ココでね?」


 龍崎は彼女をデスクまでエスコートして座らせた。

 とてもご機嫌な龍崎は彼女のデスクから離れる気はないらしい。


 株式会社ドラゴコーポレーションの社長室が何故広いのか。


 それは、社長と秘書以外にあと六人、合計八人の仕事場だからだ。



 株式会社ドラゴコーポレーションの社長のもう一つの顔は特殊夜間諜報情報局の諜報統括長だ。

 彼の直轄の諜報部隊『梟』はこの社長室を拠点に誰にも知られず活動をしている。


 特諜局 諜報統括長 龍崎美琴

 特諜局 諜報統括長直属 諜報部隊『梟』

                    隊長 亀久 馨

                   副隊長 碓氷 慎

                   副隊長 菱川 真澄

                    隊員 村瀬 瑞稀

                    隊員 長谷部 宏一

                    隊員 時雨

 特諜局 協力者 園崎 霞


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