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昼と夜の交わり  作者: 泡沫
憲法第零条 国民の定義
47/63

守り手たち

@特諜局


 特諜局のオフィス、参謀の机の周りで三人が屯っていた。


 「全く、虫唾が走る。何故、奴らの相手をしなければならないのですかねぇ。」


 氷室は、椅子に座り、髪をかきむしりながら舌打ちをした。


 「会話にすら、ならなかったけど、実は聞こえていないのかな。」


 玲は最大級の皮肉を感情を込めずに言ってのけた。彼女は壁に寄り掛かって天を仰いでいる。


 「二人とも、苛立ちすぎだよ。もっと、穏やかにさぁ。あんな低俗な奴らに怒るだけ、エネルギーの無駄遣いだよ。」


 浩輔は机に腰掛け、二人の苛立ちを懸命に宥めていた。

 しかし、政治家たちを無意識のうちに笑顔で貶していることには気づいていない。


 「玲への言葉で、一番怒っていた奴に言われたくはありません。」


 「そうだね。あれは、私が軽く流せばいいだけ。気持ち悪いけど、実害はないし。」


 彼らは浩輔がまるで自分は苛立っていないように上から宥めてくるのに文句を言った。


 お前が言うな、と。


 「実害なんてあってたまるか。そんなの潰す対象でしかない。いや、逆に実害を出してくれた方がいいのか。」


 しかし、浩輔はモノともせずに、踏ん反り返って言ったと思ったら、眉間に皺を寄せながら、検討を始めた。


 「浩輔も大概、過激だよ。」


 「ここにいる連中で、本当に世でいうマトモな奴なんていないだろう?」


  玲からの批判も、浩輔はなんてことなく笑顔で躱した。


 「それを笑って言われても......」


 「そもそも、自分のことならまだしも、仲間を侮辱されたら、許せないよね。」


 浩輔の額に青筋が浮かんでいる。

 口角が上がっているのがまた怖い。今、生卵を握らせたら握りつぶすだろう。


 「まぁ、僕も貴方が先にキレたから踏みとどまっただけですし。」


 意外にも氷室は浩輔に同意した。

 氷室はメガネをメガネ拭きで丁寧に磨いている。


 「アンタら、いい加減にしなよ。まぁとはいえ、奴ら、頭弱いんじゃないの。」


 溜息をつきながら玲が言った。

 端的に、だが、最もストレートに嫌味を言うのが彼女の特徴だ。


 「こらこら、きっと全てを知らないんだからさ。」

 「想像力の欠如。」


 浩輔が宥めるも、全く意味をなさず、寧ろエスカレートさせる結果となった。


 「まぁ、確かに。我々がいなかったら、何度日本が滅びているかという話はしたくなりますよね。理解できないでしょうけど。」


 それに氷室もノってくる。

 そうすると最早止められまい。


 「アンタら、大概酷いぞ。」


 何とか宥め役をしている浩輔が止めても、痛くも痒くもないらしい。


 「事実だ。」

 「右に同じ。」


 浩輔は頭を抱えてしゃがみ込んで長い長い溜息をついた。


 「はぁぁぁ。まぁ、汚職の尻拭いなんて、やる必要ないよな。というか、汚職するなよ。」


 その呟きは皆の心を代弁している。

 今回、政治家が要請してきたのは、週刊誌に流れた汚職の揉み消しだった。


 特諜局は政治家の味方ではない。


 ましてや汚職の尻拭いだなんて、貶されるにもほどがあるだろう。


 そんな愚痴を延々と続けていると、玲が思い立ったように呟いた。


 「あぁ。もし、愚痴がしたいなら、早めに。今日は環、学校が短いらしいから。」

 「マジかよ。」


 浩輔と氷室は更に頭を抱えた。

 環は特諜局の一員の女子だ。

 彼女が特諜局の引き締め役と言っても過言ではないので、愚痴を言っていると、仕事をしろと言われてしまうのだ。

 謂わば、"みんなのお母さん"。


 氷室は机の上で頭を抱えて蹲っていた。


 「環さんも一度出ればわかるでしょうに、愚痴る理由が。そうだ、環さんに次の会合出てもらいましょう。」


 氷室はパッと顔を上げて笑顔で言った。

目が狂って逝ってしまっている。


 「名案だ。」


 その提案に浩輔が笑顔でノる。


 「はははははははははははははははは。」


 「愉快愉快。」 


 彼らのテンションは馬鹿になってしまい、よく分からない次元に飛んでいってしまった。

これをハイと言わずして何と表現したら良いだろうか。


 しかし、彼らの平穏は長くは続かなかった。


 「せっかく現実逃避しているとこ申し訳ないけど、急に変えられないし、何より若すぎるっていう批判がくるよ。環まだ十四なんだから。」


 「・・・」


 沈黙がその場を支配する。


 「年齢なんて関係ないさ。現に環だって働いているし。」


 浩輔はボソッと呟く。


 「奴らには関係あるんだよ。チッ。」


 玲は低い声で、吐き捨てるように言った。


 「はあぁぁぁぁ。一気に現実に引き戻されました。あと、玲さん、舌打ちは駄目です。」


 静かに氷室が注意して、彼らはゆっくりと仕事に戻っていった。




 これが彼らの至ってよくある日常である。


<次回>「依頼」10月21日投稿予定

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