じしんの崩壊
廣瀬は自室に戻り、ベットに入って毛布を被った。
部屋のドアに鍵を閉め丸まった彼女は声を押し殺して涙を流す。
泣く理由なんてわからないけれど、泣かずにはいられなかった。涙は止めどなく、堰き止められていた濁流が押し寄せるように止まらない。考えても考えは纏まらずに、自身の常識や存在意義が崩れていく音が鳴り止むことを知らない。少年の言葉も、同僚の言葉も、遺族からの感謝の言葉も、父の言葉も、自分の名前さえ信じられない。廣瀬は知らぬうちに意識を手放していた。
次の日になっても、気持ちの整理がつかず、彼女は有給を利用して休みを取った。彼女の両親は心配していたけれど、本当に休みたい理由なんて言える筈もなく、ただ寝たきりで過ごすのみ。自分の意思も考えも纏まらず、反応は殆どしない、生きた屍のようで、泣き疲れたのか涙も枯れ果て、泣くこともできないようだ。
一週間ほど仕事を休んでも消えることのない自分自身への疑念に考えることを放棄することもできない。アイデンティティーを失った彼女は脆弱で鬱々としている。これ以上は休むことができぬと仕事へ向かうも気を逸らすこともできなかった。
一つの正義を突き通そうとした彼女は自身のアイデンティティーの崩壊により壊れてしまった。助けに手を伸ばすこともできず、ただ植物のように生きている。それを見かね、彼女は休職を余儀なくされ、出世の道は絶たれた。
<次話>「意趣返しの結果」同日投稿




