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昼と夜の交わり  作者: 泡沫
揺らぐ正義と人の陰
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笑えない

 事情聴取の翌日、一家惨殺事件の犯人の逮捕が報道された。


 「少年は義務教育である小学校時代から通っていなかったそうですが、これについてどうお考えですか。」


 「そうですね。人との関わりが大事な時期に、同じような学年の人と関わってこなかったこと、ずっと一人でいたことは、彼の考え方に大きな影響を及ぼしていると思います。彼もまた被害者と言えるでしょう。十分な教育を受けられないと、曲がった考えをもち、悪い方向に進んで、非行に走るでしょう。彼が不登校と知りながら放置した周りの大人にも、責任があると思います。」


 「確かに、周りの大人の責任を見過ごすことはできなさそうですね。それを聞いてどう思う?」


 「そもそも、自分が嫌だと思うことは人にしてはいけないってことを分かっているのかな、って。確かに教育を受けられなかったのは可哀想だけれど、人の命を何だと思っているのかなって。それで、被害者の一家の未来が奪われてしまって。彼らは、輝かしい未来が待っていたはずなのに。」


 「被害者一家はとても慕われていたと聞きます。報われることはできなかったのかな、と思います。」


 「少年による虐殺、これが繰り返されることはないと信じたいですが。」


 「そうですね。彼のような人間を作り出さないために、やっぱり、しっかりとした、道徳・倫理教育をしていく必要があると思います。ただ、彼のように、義務教育を受けなければ、この対策もそれまででしょう。」


 「どうして、曲がってしまったのでしょうか。」


 「とても、悲しいですね。誰しもがたった一つしか持たない尊い命が奪われてしまいました。このようなことが二度とないように祈るばかりです。」


 未成年と言うことで少年という扱いだけれど、しっかりと非難されている。

 ワイドショーでも少年の幼少期の教育や環境が問題などの指摘がなされている。専門家が説明し、コメンテーターが付け加え、気をつけていこうと纏められた。




 容疑者から自白を引き出した刑事であると紹介された、被害者の遺族、つまり一家の両親の親兄弟からは泣いて感謝された。これで彼らも報われます、と。


 同じ課の人たちには対人恐怖症の少年からスムーズに情報を得たということで称賛された。


 「やっぱり、こういうのは女性の方が心を開きやすかったりするんだよ。」


 「お前の顔、怖えからな。」


 「なんだと!?でも否定できねぇ。」


 そんな会話が笑い声と共に聞こえてくるも私は顔が引き攣ってうまく笑えなかった。





 家に帰って、同じ警察に勤める父にも褒められた。


 父は夕食を食べながら、笑顔で話しだす。


 酒の進みもいいことから、彼がご機嫌なことが窺い知れる。いつもよりもずっと饒舌で、講説を垂れている。私は思春期を除くが、父の話がずっと好きだ。だから酒の勢いで饒舌に喋る時は自分も不思議と笑顔となる。まっすぐで正義感溢れる正しい彼の話が。


 「少年のうちからそういう犯罪をするのは情操教育に問題がある。義務教育も受けず対人恐怖症などと言い訳をして捻くれるからこうなる。人を殺すなどもっての外。自分の子供をそんな風にするんじゃないぞ。何より、そんな奴を反省させ、情報をはかせたお前はよくやった。最近のは悩んでるのが偉いかのように振る舞いおって、誰かに相談すればそんなことどうにでもなるものが。警察ってのはやはり真実を追求し、犯人を捕らえ、正しく罰するものだ。正義を突き通し、善悪をはっきりする。そしてこの世から犯罪を無くす。その為の組織だ。これからも誇りを持って責務を全うすることだ。今回の件父として誇りに思うぞ。どうした良恵?顔色が悪いようだが。」


 私は俯いている顔をあげて、父を安心させるように言った。


 「いえ、お父さんに誇りと言ってもらえると、嬉しいです。」


  歯を食いしばって、涙を堪えて、笑って父に告げた。


 「そうか。ほら、もっと食べろ。体を丈夫にしないと。」


 私はこの事件の真実を知っている。真実と言っていいのかは私にもわからないけれど。少なくとも少年から自白なんて引き出してはいない。彼らに伝わっているのは捻じ曲がった情報だ。それが当たり前のように信じられている。


 あの人の話が出鱈目だとしても、今皆んなが信じているようなこととは全く違う。そして何より、彼に事情聴取で打ちのめされて、何が正しいんだがわからなくなってしまった。いつも心地良い父の言葉も素直に聞き入ることができない。自分が壊されてわけがわからなくなって、混乱して。泣きたくて泣きたくて、たまらない。


 いっそここで父に全部話してみようか。


 そんなことを言ったら馬鹿にされるだろうか。真実を受け止められない、と言ったら、心が弱いと怒鳴られるだろうか。私は奴のことを正しいとは思えない。


 ......でも、もう、父の話も正しいとは思えないのだ。


 警察は正義なんかじゃなかった。真実を究明なんてしていなかった。


 嘘で捏ち上げた犯人を逮捕したら遺族に泣いて感謝された。仲間に称賛された。父に誇りと言ってもらえた。正義を追求し真実を告げることが喜ばれ称賛されると思っていた。なのに…。


 何より、死んだ時に悲しまれる人がいることは幸せだ、と言った時の奴の顔が忘れられない。脳裏に焼き付いて頭から離れない。忘れたくても、忘れられない。何故か涙を誘われる、印象的な顔だった。


 「御馳走様でした。今日は疲れているので、もう部屋で休みます。おやすみなさい。」


 私は挨拶をして居間を去った。


<次回>「じしんの崩壊」 9月11日投稿予定

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