良いことを恵んで
奴と河合さんは部屋を出て行った。
調書などは既に完成されていた。
完璧すぎたら私が疑われそうと思ったが、完璧なまでに私の調書にそっくりだった。調書を見て癖を盗んだのだろうか。自分は読点をよく使うがその癖も完全にコピーされている。河合さんは相当、優秀なようだ。そんな人までもが協力して、隠蔽するなんて。こんなに優秀な人でも末端だなんて。
私はひとり部屋に座って考えていた。
小学校低学年の頃、自分の名前の由来を両親に聞く授業があった。
「私はなんでヨシエっていうの?」
「ヨシエはこうやって書くのよ。」
母は紙に良恵と書いた。
流石に良恵と書くことはできるとムッとしたが、母は話を続ける。
「良はいいこと、恵はめぐみという意味なのよ。良いことを色んな人に恵んであげられる人になってほしいなと思ったの。」
母は微笑みながら私に説明した。
「うん!私はみんなに良いことしてあげるね!」
私が元気に返事をすると、母の笑顔はますます明るくなり、私が生まれた時の感動を語ってくれた。
そして父との馴れ初めに父のいいところ、惚れたところを話してくれた。
私は次第に父みたいになりたいと憧れを抱くようになった。
父は警察官だ。
誰よりも正義を貫き、善悪をはっきりとさせる人だ。
だからこそ善いことを迷いなく行う父はかっこよくうつった。
お年寄りを助け、犯人を躊躇なく捕らえる。迷子の子供に道を教え、私が悪いことをしたら叱る。
父の話はいつもわかりやすく明快で聞いていて心地よかった。
思春期は少し鬱陶しくも思っていたけど、結果自分も警察官になって父の言葉は頼もしいものだった。
善悪に対して詭弁をあげつらう人もいたけど、理解してくれる人の方が多かった。正面から否定する人なんてほぼいないのだ。
なぜならそれが正しいから。
だから自分は偉いんだ、エリートなんだ、正しく生きているんだってそう自信を持っていた。
自分の名前に恥じぬように生きてきた。
それが全て偽りなのだとしたら。
私はどうして生きてきたのだろう。
私はどうして生きていけばいいのだろう。
私は独り考え続ける、未だ答えは出ぬままに。
<次話>「正義は鋭利な刃物のように」同日投稿




