偽装の真実
どういうことか分からないが、容疑者が真実を話すと言ってきた。
信じるのもまたおかしな話だが、取り敢えず聞いてみることにした。
「まず、私は一家を殺害していないし、ここに揃っている証拠品は全て私達が用意したもの。そして荒井寛之は架空の人物だから存在しない。」
最初の少年の一言で既に崩壊していた。
わざと逮捕させるために証拠品を偽装し架空の人物を逮捕させたと言っているのだ。
ふざけるのも大概にしてほしい。
何故ならば、
「でも戸籍が!」
荒井寛之はデータベースに存在していて尚且つ戸籍だって確認済みだ。
そんなふざけたことができる筈もないのだ。
そんなことに警察上層部まで関わっていたら只事ではない。
「それも偽装、とは言わないけど、最初からその人物は存在していなかったね。そういう架空の戸籍をいくつか作ってあるんだよ。」
そんなことは不可能、いやしかし、政府までもが協力していたら不可能ではない?
しかし、そんなこと許される筈もない。
真犯人を国家ぐるみで庇うなんて。
「じゃぁ、犯人は…」
「そうだね。犯人なんていなかったことになる。単刀直入に言うと、一家は人間に殺されてなんかいないよ。」
明らかな虚言だ。
あの遺体から他者の意図が介在していることは明らかだ。
そんなことで丸め込まれる訳がない。
「事故でも自害でもなかったのよ。」
私が指摘すると少年はため息をついて馬鹿にしたように言った。
「人間には殺されてないって言ったろ?頭堅いね。」
ここまで明らかに舐められているのは初めてだ。
余りにも荒唐無稽すぎる。
「人間以外に殺された、とでも?馬鹿馬鹿しい。」
「その通りだよ。簡単いうと、普通の人間には見えないけど、人間やいろんなモノの負の感情が邪気となって自我のようなものをもったものを私たちは邪霊と呼んでいて、それが一家を殺した。」
幼稚園児にでも説明するようにゆっくりと少年は言う。
「揶揄うのもいい加減にして!」
私は机を両手で叩いて立ち上がる。
少年はムカつくことにそれに驚きもしない。
それどころか、大笑いしだしたのだ。
「あははははっ!涙が出てくるよ。真実を教えろというから言ったのに。だから言ったんだ、人間は信じたいものを信じると。君が滑稽でならないよ。」
少年は手で涙を拭う。
その仕草すら私の怒りに燃料を焚べるものでしかない。
「最初から教える気などなかったのね………」
最初から分かっていただろうに、しかし私は期待してしまったのだ。
少年が本当のことを話してくれると。
そんな思いでその言葉を漏らすも、少年は意に介さない。
「だから教えてるのにさぁ。あぁ、笑いが止まらないねぇ。ありえないほど凄惨な遺体見たでしょ?狂った人間でもあそこまでやらないよ。狂っているならひたすら同じもので嬲り続ける可能性が高いしね。あんなに手間のかかることやらないよ。」
狂っている人間の嬲り方については聞くところがあるが、やはり、奴は私を揶揄うためだけに物語を創りタメて話したのだ。
私は拳を握りしめる。
そんな中、少年は持参したリュックサックの中を漁り、メガネケースを取り出し、その中の眼鏡を取り出して見せた。
「これさぁ、その邪霊が見える眼鏡。私も普段見えていないから、必要な時は使うんだけど、見てみるかい?」
何を巫山戯たことを、と思ったが、その作り話にのってから、叩き潰そうと思ったので眼鏡を受け取りつけてみる。
するとグロい生き物が沢山視えた。
最近、痛いと感じていたお腹には蛇のようなものが巻き付いていた。蛇はその体で私の腹を締め付けている。蛇にも触れることもできたが、ヌメヌメしていて気持ち悪い。殴ってもそこから動く気配はない。何かの映像技術かとも思ったが、眼鏡に何らかの仕掛けは見られなかった。何より、触覚にまで作用する眼鏡なんて考えられない。
それでも映像技術や洗脳を疑うしかない。
明らかに人智を超えたものだ。
「何かの映像技術とか…」
震えながら問うも、何事もないようにスルーされる。
「街も見てみたら?」
少年はそんな提案をしてきた。
これ以上のるのも癪だが正直興味を持っていたので窓から外を見る。
色々なものが人に憑いていたり場所に留まったりしている。
特にここから見える病院なんておどろおどろしい何かで包まれている。
「人に憑いていたりするのが…」
自分の声が震えるのを自覚した。
自分の常識が崩壊する音を聞いた。
「そうだねぇ。やっと信じられたかい?まあ頑なに信じないならそれでもいいんだけど。」
少年はどうでもいいと言いたげにダラダラする。
私はこれ以上見ていられなくて眼鏡を外す。
冷や汗が止まらない。
「それが本当だとして公表すれば…」
この邪霊とやらが事実だろうとそうでなかろうと、映像技術や洗脳技術どちらであろうと、革新的なものだろう。
叡智を結集すべきでひとりが搾取していいものではない。
「貴方だって信じられないんだろう?それに科学的な根拠もないものはすぐに切り捨てられるよ。私たちの存在意義も証明出来ずに、何が証明出来ないものは存在しないなのか。それに、その眼鏡も数が限られているんだ。」
私の意見を一瞬にして吐き捨てた。その上で私に尋ねてくる。
「貴方は言えるかい?貴方の家族は邪霊に殺されました、なんて。」
私は何も言えない。
邪霊を信じたわけではないし、そんなモノに殺されました、なんてたまったもんじゃない。
そう考えているのを見透かすように少年は続けた。
「遺族の立場じゃぁ当然、納得もできないだろうね。」
何も言えなくなってしまった。
ただ一つ、今回が初めてではないということが容易に想像できた。
「いつもこうして隠してるんですか。」
私はなんとか言葉を絞り出した。
少年は、まだ大した年齢じゃない。当然働くような年齢じゃないし、河合さんという人との態度も違和感がある。
少年には何かあると考えて間違えないのだ。
「今回は特殊な例だね。邪霊は遺体を残したし、此方が隠蔽するよりも先に遺体が見つかってしまった。そこからなかったことにするのは流石に苦しいだろう。」
なんでもないように答える。
つまりそれ以上に邪霊の被害があると言っているのだ。
今回は報道陣までも騙すために大掛かりなことをした、と。
「その為の犯人の捏ち上げだと。」
「如何にも。」
少年は鷹揚に頷く。
その仕草が年齢に合っていない。
「それを警察は推奨していると。」
私が河合さんに目を向けて確認する。
「そうともいえる。私は末端だから、こうして手引きくらいしかできない。」
彼が末端とは恐ろしいものだ。
彼は警察でも上層部に含まれるだろう。つまり、それだけ優秀なのだ。それを末端って…。
「私にそんなことを聴かせてもいいの?」
ふと不思議に思った。
このまま口封じに消されたりするのだろうか。こんな警察のスキャンダル持ち出せるはずがない。
「聴いたところで貴方に何かできることがあるか、といえば否だ。それを誰かに言ったところで都市伝説程度だろう。精々、警察上層部が殺人犯を釈放した、程度じゃないか?」
それに対しても問題ないと言い放った。私に力がないことを見越して。悶々とするが、事実だ。
「それもそうね。私は未だに信じられない。そもそも人殺しの意見なんて信じられるわけがない。それを警察が守っているなんて…。だけど、それを誤魔化す言い訳にしては荒唐無稽すぎるわ。」
そう、荒唐無稽すぎるのだ。
もっといい言い訳なんていくらでもあるだろうに。
それも叡智を結集させれば。
「これで納得してもらえたかい?」
私の頭は混乱していて何も処理できない。
それでも本能的な恐怖からか体は震え、冷や汗がダラダラと流れている。
目の前にいる少年の存在がとてつもなく大きく見えた。
<次回> 「子供の悩みは大人より軽いのか」 7月31日投稿予定




