真実と向き合う覚悟
会話も順調に進んで、廣瀬という刑事さんが絶句した時、ドアがノックされた。
「失礼します。そこまでにしてください。」
入ってきたのは河合さんだった。
まぁ、打ち合わせ通りなので驚きもしないが。
相変わらずキチンとした服を着ていらっしゃる。
河合雅昭さんは警察でも公安に所属している。かなり上層の方だったと思う。年齢は五十代半ばでかなり優秀、いや凄く優秀な人だ。流石の貫禄。スーツに渋いネクタイが似合っている。
河合さんは特諜局の局員ではないが協力者なのだ。
だから今回の隠蔽作戦にも協力してもらっている。
「失礼ながら、あなたを存じ上げませんが、どんな用でしょうか?」
廣瀬という刑事さんはどうやら彼のことを知らないようだ。
まぁ、偉い人全員知ってる訳じゃないし仕方がないのだが。
正直、彼女が河合さんに対して失礼だと思うのだが、そんな失礼にも丁寧に接する河合さんは本当に紳士だ。
実際、かなり階級が離れているだろうしね。
「申し遅れましたが、公安の河合です。時間ですので取り調べを切り上げるために参りました、そこにいらっしゃる…」
私のことをこの場でどう呼ぶのかで迷っているようだ。そんなに気にしなくても構わないが。
しかしながら、気を回してくれる河合さんに好感を抱くのも事実だ。
だから彼が気にしなくていいようにフォローにまわろう。
「周りに貴方と彼女以外いないのでしょう?なら、余計な気を回さずいつも通りでお願いします。」
私は椅子に座ったままで河合さんの目を見て微笑む。そうすると、緊張が解けるかと思ったが、そうもいかないようだ。何があったのだろうか。
「承知しました、羽月さん。羽月さんこそ、いつも通りにしてくださらないと、此方が萎縮してしまいますよ。」
「あぁ、それはすまない。」
失念していた。
この場の雰囲気というか貫禄に合わせて敬語を使っていたが、それが気を遣わせることになったようだ。
申し訳ない。
私が謝罪すると明らかにホッとしたように笑った。
彼は特諜局の協力者なのに対して、私は特諜局の局員、それも特別待遇だから立場としては私の方が上なのだ。ただ、特別待遇なのは偉いでも実力があるでもなく、ちょっとした特殊事情によるものだから、丁寧な扱いを受けると恐縮してしまう。しかし、経験を重ねるにつれて、局員以外の人にちょっと偉そうに接するのには慣れた。頑張った。貫禄を出すのにとても苦労をした。そう考えると、皇族や王族って凄いなぁ。
「ちょっと待ってください。何で容疑者と話をしているんですか。それに、容疑者の名前は荒井寛之では…」
余計なことを考えていたら、彼女を忘れていた。確か私を荒井寛之だと思っているのだった。
「あぁ確かに、それは私の名前ではないね。」
これからどうするか検討はしているが、確定ではないので否定するに止める。
そうすると河合さんが刑事に指示をし始める。
「捜査一課の廣瀬、この事情聴取で荒井は自供し、無事逮捕・送還されたということで報告書を書いておくように。」
簡単に無駄なく簡潔に命令する彼は流石はできる男だ。
これで納得してくれればいいのだが。
恐らくは...
「どういうことです?そこの容疑者はどうするっていうんですか。」
うん、しないね。
この刑事はするわけがなかったな。
断固抗議の意思を示してくれちゃってるし。
「この方は釈放します。上でそうすることに決まったんです。」
河合さんは上層部が決めました作戦に出る。
日本人は縦の命令というより上からの命令に従う傾向にある。
波風立たせぬ主義だな。
しかし、ここまでの会話を考えるに、不可能だね。
「人殺しを見逃すっていうんですか?真実はまだ何も明らかになっていないのに。」
案の定、抗議を止める気配を見せない。
ドラマとかで上からの権力に抗うってあるけど憧れているのかね。
「真実は知らないほうがいいこともある。」
河合さんが忠告した。
どっかのドラマで聞いたことがあるような台詞だけれど、実は楽しんでたりするのか?
「そんな!知らないほうが幸せって傲慢でしょう!知って、その後自分の中で悲しんでもそれが大事なんじゃない。」
あぁ。大事だろうね。
それでも、知ったことにより動けなくなる人が続出して国が回らない事の方が私としては問題だ。
「都合のいい自分の信じたいことを信じたほうが…」
河合さんは精一杯刑事のために忠告している。
優しいねぇ。
そうとしか思わない。あくまで他人事なので。
「それが傲慢なんです。事実だって受け止めればきっと乗り越えて…」
「全員が事実を受け止めて乗り越えられる人間だというのかい?堅物刑事さん?」
河合さんじゃこれ以上は可哀想だと思ったので言葉を引き継いだ。
彼も言い負かすことはできるだろうが、秘密をどこまで明かすかで考えていたのだろう。
「羽月さん!」
「大丈夫。心配ありがとう。もしアレなら何とかするから。」
河合さんは心配してくれるが、何かあれば自分の力を使う、と自分の顳顬を指でトントンとした。
「わかりました。人払いはしてあります。念の為ですが、鍵をかけておきますね。」
彼はそれで理解したようで私の考えを先読みして必要なことを済ませてくれる。
「助かるよ。で、刑事さん?全員にその事実を受け止める資質があるというの?」
私は刑事に向き直り問いただす。
「全員じゃなくてもそういう幸せを押し付けられて嫌な人は沢山います。私だって嫌です。」
流石に全員とは言わなかったな。
全員と言ったらとんだ馬鹿だね。
しかし、自分に資質があると言った。
ならば、やることは一つだ。
「そう、じゃぁ、君は受け止めてみるかい、真実を?」
もう一度その覚悟を問う。
「貴方は真実を知っているというの?」
信じられないものを見たというように、目を見開き、その後、疑いの目で私を睨んだ。面白いね。
「無論。」
挑戦的な目で相手を煽るように私は言った。
「真実である根拠は?」
「説明できるかと。」
私はこれを告げた後の刑事の反応に心躍らせながら、説明をはじめる。
面白いものを魅せてくれるのかそれとも期待外れか。
私の中で彼女を玩具と認めた。ならば遊び潰すのみ。
遊んでいる間に壊れてしまわないことを祈りながら。
しかし、もしも、真実を受け止めて、それでも尚、真っ直ぐでいられたのなら、もしかしたら...
希望を一抹抱きながら。
それでも私は過度に期待したりしない。
そんな複雑な感情の中、この人私の事まだ少年だと勘違いしていないか?という疑問が消えることはなかった。
私は
特殊夜間諜報情報局 所属
羽月璃孤
私は羽月璃孤だ。
<次話>「偽装の真実」同日投稿




