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昼と夜の交わり  作者: 泡沫
昼に生きる夜の蝶
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隠し事




 「こんばんは、梢の姐さん。」


 電話口から久しい生意気な声が聞こえてくる。掛かってくると思っていたから、さして驚きはしない。


 「久しいのぅ、風見。今日の仕事をサボった謝罪かぇ?」


 用件は想像がつくが、わざととぼけてみせた。


 「ふふっ。相変わらず手厳しいね。報告は聞いたよ。私の部下はうまくやったみたいだね。」


 その台詞は想定内だったのか軽く躱され、話は奴の部下である、橘に移る。


 「そうじゃのぅ、貴様より遥かに礼儀がなっていたのぅ。なぁ、風見。」

 「礼儀はともかく、ちゃんと裏の存在に気づけたみたいで何よりだ。」


 その言葉に少なからず違和感を覚えた。最初から気づいていた、そんな言い回しだ。奴のことだから、気づいていたこと事態には驚くことはない。しかし、


 「何だ、貴様。最初から知っておったようだが、情報を渋ったな。」


 眉間に皺を寄せ不満を露わにした。電話は表情は見えないが、伝わっていることだろう。


 「それは其方じゃないのかい?マフィアは()()()()()()()()()。」


 風見の口振りに少々驚いた。それは()()だが、最高機密。首領派の最高幹部や幹部など必要最低限のモノにしか伝えられていない。それなのに何故彼は知っているのか。鎌掛けのつもりだろうか。

 しかし、奴なら有り得ると気を取り直し、警戒を強めた。


 「何が言いたい?」

 「直球だね。ならば此方も単刀直入にいこうか。マフィアの近況と今後の対策について教えてよ。」


 自分の立場は分かっているだろうに、飄々と情報を求めてくる。

 風見の頭の中は分からない、だからこそ恐ろしい。


 「貴様に教える筈が無いじゃろう。()()()()()()()()()の貴様に。」


 風見は元マフィア最高幹部だった。

 とてつもなく頭が回り戦闘能力が高くないにもかかわらず幹部に上り詰めた男。

 そしてマフィアを抜けて裏切った男。


 個人としては、彼に対して人間として好感を持っているし、その能力故敵対したくないと思っている。しかし、情報は渡せない。


 「そうだろうね。この件はきっと大きなヤマになる。ここまでマフィアが解決できていないことからも想像がつく。今回の事件でタチバナちゃんが一緒だったことで裏の存在が共有されることになった。」


 彼の言葉に溜息をつきたくなった、いや、溜め息をついた。


 「それが貴様の目的か。ならば妾はまんまと乗せられたわけじゃな。」


 のせられた方としては面白くない。不愉快に応じると、おどけた声で返事が返ってきた。


 「いや〜、タチバナちゃんがちゃんと育ってくれてよかったよ。これで良くも悪くも多くのヒトを巻き込めたわけだ。それに、姐さんが黙っていることについて私も調べる必要がある。」


 部下の成長を喜んだ声は巫山戯ているようだったが、すぐに声色が代わり真剣なものになった。彼は真剣だ。


 「貴様がそういうなら遅かれ早かれ…。じゃが、妾から貴様に情報を漏らすことはない。覚えておくといい。」


 自分に聞いても無駄だとはっきりと拒否を示すも相手が落胆する様子はない。

 これも想定内と思うとフラストレーションがさらにたまる。しかし、それを全面に出すような素人ではない。


 「そう、覚えておくよ。でも、きっと姐さんは情報を教えてくれると思うよ。」

 「妾は貴様と違って裏切らんぞ。」


 自分が情報を洩らすだろうという予言めいた言葉に苛立ちと、それ以上の疑問を覚えた。平静を保つのが本来の交渉で目指すところ。が、理由を探るためにわざと語気を強めた。

 すると、電話越しに風見の息遣いが聞こえる。少し笑ったのだろうか。


 「それは深和さんを、でしょう?マフィアをじゃない。情報を話すことが深和さんの方針にあうなら姐さんはそうするさ。」


 自分がマフィアにいる本当の理由を知る人は限られている。風見もそのうちのひとりだ。だからこそ彼は自信を持って彼女に情報提供を求めたのだと。

 だが、今はまだその時じゃない。首領に何も言われていないのだから。


 しかし、その話を持ち出されて、面白く愉快な気持ちになった。


 「はははっ。それは事実じゃのぅ。マフィアも一枚岩ではない。貴様も知っての通りじゃ。」


 自分や風見はそのために動いたこともある。

 一枚岩でないこの組織を首領が纏め上げるのに苦労したのも記憶に新しい。


 「私も理解するところだ。また連絡するよ、姐さん。」


 今回の電話の目的は達成したようだ。

 風見は裏切り者で警戒すべき男だが、個人的には嫌いな人物じゃない。

 だから、情報は話さないまでも伝えたいことがあった。


 「今回の敵は実に厄介じゃ。貴様も警戒を怠るでない。」


 彼の能力なら心配ないのかもしれないが、それだけの強敵なのだ。あるいは彼でさえも…。


 「心配ありがとう。私も警戒を強めておくよ。」


 風見はその気持ちを汲み取ったのか感謝してくる。それを確認して自分も電話の目的は達した。


 「ふむ。ではな。」


 電話での会話は穏やかに終わった。




<次回>「全ては彼の思い通りに」6月25日投稿予定

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