風見の意図
バタバタと大きな音を立てていた足音は遠くなりやがて聞こえなくなった。
オフィスには静まり、時計の秒針が時を刻んでいた。
「......最後の、わざとですよね、風見さん。」
橘が飛び出していった後のオフィスに残された伊藤は風見に尋ねた。
「最後のってなんのこと?」
伊藤の質問に対して、風見は知らん顔をして椅子に座り、机に足をかけてだらけている。
仕事をするつもりがないのが側から見ていて明らかだ。
伊藤は答えを躱されても質問を続けた。
「タチバナさんを早く帰らせるために言ったのではありませんか?彼女が他の仕事を思い出してしまわないように。」
数秒、沈黙が流れる。
風見は目も合わせずに「気の所為じゃないの?」と言って、書類で作った紙飛行機を投げた。
その紙飛行機は少し宙を舞ってゴミ箱の前で墜落した。
伊藤は彼の照れたようなその反応に少し微笑んで、ゴミ箱にあと少し届かなかった紙飛行機を拾い上げた。
風見は天を仰ぎ無言を貫いた。
伊藤は拾った紙飛行機を拡げると、先程からずっと探していた書類だったことに気づいた。目を見開いて彼を見るも、彼は微動だにしない。気づいてもいないようだ。
伊藤は、ちょっとイラッとした。文句の一つも言ってもいいだろうか。
しかし、今日だけは彼に何も言わないことにした。微笑ましくて、不器用で、捻くれた彼を可愛らしく思ってしまったから。
しかし、伊藤は気付いていない。
それはいつも通りだということを。
そして、風見の思惑にハマっているということを。
風見はスッキリとした気持ちでダラけていた。
オフィスに響くのは時計の秒針の音のみ。
静かに夜明けを待つ。
<次回>「また明日」6月22日投稿予定




