表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昼と夜の交わり  作者: 泡沫
昼に生きる夜の蝶
20/63

意地が悪い上司


 私は再び警護社のオフィスに戻った。

 まだ明かりがついているなんて珍しい。普段は誰も残っていない時間帯だ。誰かが残っているのか、それとも電気を消し忘れているのか。


 オフィスの扉を開けると、そこにいるのは伊藤さんと風見さんだった。伊藤さんはともかく風見さんは私を見捨てて帰って寝ていると思っていたので意外だ。というか、不思議でならない。


 「どうしたのタチバナちゃん?なんか驚いているみたいだけど。」


 風見さんは私に尋ねた。口角は上がっているが目は笑っていない。背筋が凍るような冷気を漂わせるその様は完全に私の心を読んでいるようで恐ろしい。


 「驚いていませんよ。気のせいじゃないですか。」


 恐怖で震える自分を抑え込みなんでもないように彼に応じる。彼の癖毛を後ろから点される明かりが縁取っていて、彼の顔は影になっている。黒いシャツも高そうなジャケットも恐怖を煽る材料でしかない。恐るなという方が無茶な話であろう。私は風見さんに完全に恐怖を叩き込まれてしまっていた。


 「ほんとうに?」


 目を細めた風見さんが近づいてきて腰をかがめて私に目線を合わせてきた。凄く距離が近くて怖さが割増だ。少女漫画などでよくお見かけするドキッなんてない。違う意味で動悸が速くなる。


 「っほ、ホント、で、す…。」


 冷や汗ダラダラのなかなんでもないを突き通す。よくやったと自分を褒めてやりたい。

 尚、目の端で伊藤さんが苦笑いしているのが見えた。目を合わせようとしたら目を背けられた。助けは期待できない。

 ガタガタと震えながら風見さんの出方を待つ。私の顔は真っ青だっただろう。


 「ふぅん。そっか。それなら()()()それで構わないよ。」


 目を更に細めて私の耳元に口を寄せて囁き、耳の後ろをそっとなぞられた。それで許してもらえたのかは分からないが兎に角なんとかなったようで何よりだ。しかし、其れによって私が腰を抜かしたことは誰にも責められないと思う。


 風見さんは腰を抜かして立てなくなっている私にしゃがんで目線を合わせて「で、報告は?」と聞いてきたけど、報告(それ)が遅れたのは貴方のせいだと思う。ジトっとした目線を向けるも気づかないふりをして見つめ返された。また何かされないだけマシだと思って、腰を抜かしながら報告を始めた。


 「依頼は終わりました。しかし、この事件の裏に何かがいてその目的はまだ達されていないということで後日対策を立てることになりました。会談とかがあるかもしれません。」


 氷室さんに話した時よりもざっくりと大まかに、どうせ自分が報告書を書くのだから、裏にいる誰かの対策を立てるという重要なことだけ伝えた。


 (やはり、裏があったか。だが、今回は少々、嫌な予感がする。)

 風見さんは少し考えるような仕草を見せた。

 彼の考えはわからない。


 「今日はもう終わりにしようか。もう日も昇る、寮に戻って休むといいよ。」


 風見さんは立ち上がってそう言った。

 しかし、報告書はどうするのだろうか。

 風見さんはいつも書いていないし、何より、その分を私に回しているからそんな無責任なこと言えるんだろうけど、そう思って伊藤さんを見た。


 「報告書もまた今度で構いませんよ。一週間以内に出して頂ければ問題ありません。」


 伊藤さんも微笑んで許可してくれた。


 それならやらなければいけないことはない、か?


 余りに簡単に許可が出てしまって唖然として固まっていると風見さんが恐ろしいことを口にした。


 「おや。まだ動けないのかい?それとも抱いて運んで欲しいのかなぁ?それなら私が運ぶよ〜。」


 その言葉に意識を引き戻され、私はすぐに立ち上がり、近づいてくる風見さんから急いで距離を取った。


 「では、今日はこれで上がります。失礼しました。」


 入り口で一礼して走り去った。




 「残念だなぁ。」という風見さんの声が背後で聞こえた気がするが、気のせいだと思うことにした。


<次回>「風見の意図」6月21日投稿予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

関連小説


日時不明

「人魚の愛」

清水蓮日向浩輔が登場。


2008年4月3日

「すべてはあの桜花のせい」

瀬川悠凩緋彩糸瀬和馬龍崎美琴園咲霞清水涼などが登場。


2014年12月25日@特諜局

第2篇「たとえロマンチックじゃなくても…」

清水玲日向浩輔ほか特諜局の面々が登場。


2014年12月30日@要人警護社

第7篇「要人警護社の年越し(壱)」

瀬川悠凩緋彩風見紫樹遠山雛タチバナほか要人警護社の面々が登場。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ