月城光橘
一人静かに信号待ちをしている彼女は月城 光橘、都立十六夜中高一貫校 高等部一年 選抜クラスに所属する俗に言う優等生だ。
厚い前髪に、低い位置でひとつに纏めた髪、細長く角が丸い眼鏡をかけて学校指定の制服をネクタイまできちんと身につけ、第一ボタンをしっかりと閉めているその姿は真面目な優等生と言う他どう形容したら良いだろうか。
夏服から秋冬服への移行期間でも灰色のジャケットとベスト、膝丈のスカートを身につけて、完全にマニュアル通りの着こなしをする彼女は見目をあまり気にしていないようで、他の高校生達からはかなり浮いていた。
それでも、静かに淡々と日々を過ごす彼女は級友から敬遠されつつも一定の尊敬を受けていた。成績は優秀で真面目でしっかりものだ。運動が苦手でも、運動以上に酷い家庭科を見ても、彼らの尊敬は変わらない。それだけ彼女が纏う気品は優れたものであった。
そんな彼女は部活動をしている生徒が多い中、授業が終わるとそのまま下校する。友人もいない彼女はそのまま家に直帰すると思われた。多くの人もそう思っていることだろう。
しかし、駅に辿り着くと、彼女は朝使った定期券とは別の定期を取り出し改札を通る。家とは異なる方向の電車に乗り、暫くして降りる。
彼女は改札を通り抜けると人通りのない路地裏に向かった。
<次回> 「タチバナと要人警護社の日常」 6月3日投稿予定