浦島太郎は身近に潜む
目を開けると件の廃工場にいた。しかし、周りには彼らの死体や血痕などは残っていない。飲み終わった酒の瓶などが割られて散乱していた。
私は冥界から元の世界に戻ってきた。
呼吸する感覚と重力と周りの景色が私が元の世界にいるということを存分に感じさせてくれる。
暗いだけでなく空は色を変える。街灯がたくさん並び、今では明るくない夜などあり得ない。人工的な構造物がたくさん並んでいる。あぁ、帰ってきたんだって何度だって感じる。
私が帰ってきたのは、私が冥界に移動した時の場所である。
当然のことながら、私の能力は万能ではない。冥界に向けて発った所にしか帰って来られないのが不便な点だ。できないものは仕方がない。しかし、もしそれができたのなら、ワープのような移動手段が可能となる。それはそれで大変便利なので少々研究してみようと思った。できた暁にはいろんな使い方ができるだろう。色々な創作物のようなことが可能になる。ドアなんて介する必要はない。冥界を一度通る必要がある、それを差し引いても便利だろう。
思い立ったが吉日、私は仕事用のスマホにメモしようとロック画面を見て気づいた。
私は向こうに二十分ほど滞在したと思っていたが、どうやらこちらでは一時間ほど過ぎていたようだ。
時間の流れが異なるのは厄介なことだ。
ある、有識者によると、世界毎に時間の概念が異なることはよくあることだそうだ。この世界に近いほど、その差は小さく、遠いほど大きいかもしれない、と。根拠はないらしい。
周辺の様子を見渡して、死体がなかったのも当然のことだろう。
一時間も過ぎれば後始末も終わっていて痕跡など何一つ残っていない。彼らの備品も片付けられていてあたかも引っ越ししたかのようだ。しかしながら、所々に残骸が残っており、立つ鳥跡を濁さずをしていないところが彼ららしさを出していてポイントが高い。言うまでもなく渓さんは優秀なお方なのだ。
しかし、そんなことを気にしている場合ではない。夜明けは近い。早く報告を終わらせなければならない。
私は明日も学校があるのだ。
私は息を吐いて変化を解く。ヘッドホンを付け直して今度は脚だけを変化させる。
一通り準備を済ませると最速である場所を目指す。その場所は内閣府だ。
人目につかないように気をつけながら、私は再び上空を舞った。
<次回>「友人に思いを馳せて」6月19日更新予定




