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昼と夜の交わり  作者: 泡沫
昼に生きる夜の蝶
17/63

黒猫と歯車



 ----私は体に浮遊感を感じて目を開けると真っ暗闇に放り出されていた。


どうやらうまくいったようだ。

まぁ、うまくいくも何も、こうも日常的にやっていれば失敗なんてあり得ないけれど。


 真っ暗で前も何も見えない。

この空間は強いて言えば宇宙に近いかもしれない。私は宇宙に行ったことが無いのでなんとも言えないのだけれど。その中で数多の光がぼんやりと見える。その色はそれぞれ異なっているが、純粋に綺麗な光というのはほとんどない。少なからず濁っている。私の籠の中に入っている三つも同じだ。平均より少し濁っているくらいだろうか。



 暫く周りを見ていると、遠くで光が一点に飲み込まれる場所が見えた。私はそこに向かって飛翔する。とは言っても、地面もなく翼もない。ここでは意思の力で進むしかないのだ。集中して向かう場所をイメージすると不思議と移動できる。空気抵抗も景色もないから動いている実感なんて殆どないけれど、自分が目指しているものに近づいているのはわかる。不思議な感覚だ。私はひとときの移動の感覚を楽しみながらそこに辿り着いた。


 光が呑み込まれていく場所は謂わばブラックホールだ。恐らくはその表現が一番近いと思う。全てのものを飲み込む大きな穴。しかしながらその先がどこに繋がっているのかは見えもしない。


 その周りには光が飲み込まれる大穴の引力に引かれない者たちが複数人いる。

 自分のように黒い耳と尻尾を生やしたもの、黒猫、そして骸骨だったり少女だったり、人間の形をとっているものなど、様々だ。殆どが死神、そしてそれ以外はその助手のような者たちだ。


 少し冥界と黒猫の話をしようと思う。


 黒猫は生来、死神の助手とされる。黒猫は死を呼ぶ不吉の象徴だという俗説は意外と正しいのだ。

 だから、黒猫に関わりの深い()()()()()()()()()()()はここ、()()に立ち入り活動すること、そして冥界に干渉する権限を持っている。同じ猫又でも黒猫でなければ不可能なことだ。蛇足だが、白猫(猫に限らず白き生き物)は神々に仕えるという話がある。きっと、黒猫同様、何かしらの特権なのだろう。


 死んだ魂は彷徨いながらこの世界に行き着き、フラフラと彷徨いながら突如として現れるブラックホールに呑み込まれる。

 おそらくはその後転生なりなんなりしているのだと思われる。私たちはその中に入ることはできず、入ったモノの感想を聞いたことがない。故に、その中に地獄がある可能性だって否定できない。しかしながら、転生することだけは確かなので、"その先で転生に関する何かが行われている"というのが冥界に関わるモノの共通認識で、一番答えに近いのではないかとされている。



 冥界は宇宙にかなり近しいと思う。

 真っ暗闇に地面も重力も空気抵抗も上下もない。

 そこに突如として現れるブラックホールのような大穴。


 しかしながら、それだけではない。


 恒星が光るように、

 惑星や衛星が回るように、

 彗星が旅をするように、

 何かしらが動いている。


 冥界に生きるモノたちがどこからか調達した何かで作り出した人工的な住む場所。賑わいこそないが、訪ねれば誰かが住んでいたり、物々交換したり、買い物ができたりする。

 冥界に何かが住んでいるのかは分からない。実際、私も冥界に干渉できるが、実際のところ、所属は所謂地球である。此処に生まれ、住むわけではない。そして、誰かに尋ねることもできない。互いに素性を詮索するのはタブーとされているのだから。


 ひとつ、特殊な星のような島のような場所がある。

 目印のようなトコロで、思い描けば見えずとも、辿り着くことができる。通称「役所」。尚、この通称は私が勝手に呼んでいるので正式名称ではない。


 話によれば、遥か昔からこの場所にだけ絶えず別の空間への入り口があって、そこを多くの冥界に関わる者が目印としていたそうだ。より分かりやすく快適にするためにこれを創った、らしい。

 どうやって創ったのかとか、誰が創ったとか、気になることはいくらでもあるけれど、そういうことだ、としておく。


 その通称「役所」については、割愛するが、今回の話題はその別の空間への入り口の方だ。

 この入り口を取り抜けると、たくさんの()()がある場所へと出る。無数の()()はそれぞれ噛み合いクルクルと回り続ける。これが本当に()()なのかは分からない。恐らくは、私が視ようとすると、私の記憶の中で一番近しいものに置き換えられるのだろう。本来なら見えないものを視ようとしてしまった結果が()()なのだろう。

 この歯車は魂のあるモノたちの運命とかそれに類するものとされている。その歯車の中で、噛み合わせがズレていたり狂っているもの、壊れているものが偶にある。自らの行いや他の外的要因によって狂わされた歯車は最初は小さなズレだったとしても時が経つにつれて段々と大きな狂いとなる。それが自らの運命にも反映される。そしてその運命は死のうとも何度生まれ変わろうとも逃れられるモノではない。 

 もしも、沢山の業を背負っているのだとしたら、もしかしたら、前世、否、もっと昔のツケを払っているのかも知れない。そう思うとゾッとする。

 狂う原因は分からない、でも、できたら狂わせたくないものだ、と私は常々感じている。どれが誰の歯車か、どれが自分の歯車かなんて分からない。





 だからきっと......


私は鳥籠の中の三つの光を見る。

 彼らは大した悪人ではなかった。威張り散らしたり、怒鳴り散らしたり、迷惑なことはしたけれど、決定的なものは最後のものだけだった。少し、魔がさしただけだろう。

 だからきっと、まだ取り返しが着くのではないだろうか。

 「君たちの歯車は少し狂ったかもしれないが、おそらくはまだ、修正可能だろう。後悔の無いよう、よき旅路を。」

 少しばかり行先を案じて、私は、籠の中に話しかけた。

 私の声など届いてはいないだろう。同情するつもりはないし、心を揺らすつもりもない。彼らが狂おうが私には関係のないことだ。しかし、願わくば......

 私は籠を開けて、光を解き放った。三つの魂は他と一緒にブラックホールへ吸い込まれていき、そして、見えなくなった。

 暫くして、ブラックホールは姿を消した。また別の場所で大きく口を開けるのだろう。


 私は仕事を軽く息をついた。

 そして、「役所」を目指す。再び飛翔して、心の中に「役所」を思い描く。


 不思議な飛翔が終わると、目の前には「役所」があった。

 私はその中に入って、歯車がある間への入り口を通って、歯車の間に辿り着いた。

 幾多の歯車が噛み合い回り続けている。その中の幾つかの歯車は噛み合いが悪く、またいくつかの歯車にはヒビがはいっていた。歯車の隙間には元々は歯車であったであろう残骸が散らかっている。

 

 私は冥界を訪れた時、必ず、此処に訪れることにしている。


 歯車を見て、己を律し、自分の後悔のないように生きることができるように。自分の責・業を負う覚悟をするために。


 正義も善悪も分からない。全ては何処かの誰かが考えたモノだから。

 世間一般に言う善い行いが自分の歯車を狂わす可能性すらある。


 気を引き締めよ。


 後悔がなくなることはない。しかし、後悔せぬように生きねばならぬ。


 私は、先程、人間を嬲った。姐さんが殺すのに同意し、止めなかった。

 私は、仕事で必要ならば、人を殺すつもりだ。それが親であったとしても友であったとしても必要ならば、避けられぬのなら、殺すことを厭わない。拾われ、警護社に入った時から、そう決めていた。

 私はその業を背負わなければならないだろう。

 それと同時に、世間一般で言う、人助けもまた業だと思う。

 何かを成すならば、それが善行と呼ばれることであっても、最後まで、その先まで責任を持たねばならないと思う。


 正しかろうとなかろうと、私は私である。


 全ては因果応報。

 因果応報は全自動ではない。

 短い目で見た場合はそう云えるかもしれない。

 因果応報は絶対だ。

 長い長い目で見た時、それは当人の死をも超越して当人に降りかかる。

 その生が終わるまでに因果応報は為されないかもしれない。

 故に復讐を望むものはそのモノに報復が降りかかるのを見ることができないかもしれない。

 だから、復讐も否定しない。

 たとえ、自分に報復がおとずれなかったと、自分の生を終えたとしても、その事象を忘れてしまった遠い未来に必ず降りかかる。それを避けることはできない。


 己を律せよ。

 業を背負う覚悟をせよ。

 我は必ずしも正しくはない。

 正しいこともわからぬ。

 覆水盆に返らず。

 後悔先に立たず。

 己が行く道を淡々と背負って進め。


 それだけが、私にできること。それしか、私にはできない。されど、恐ろしく難しいこと。


 私はこの光景を目に焼きつけて、体の力を抜いた。

  私はその空間を出て、「役所」の窓口へ向かった。


 一般的に想像する窓口とあまり変わりない。どちらかというと、アンティークだろうか?事実は分からないが、木製の重厚な造りだと感じる。変わっている場所があるとするならば、パソコンも紙も何もないことだろう。金銭の授受も基本的にはないから、金庫等も必要はない。そもそもパソコンも紙もない。仕組みについては私もよくわからないし、誰が運営しているのかも皆目検討がつかない。


 空いている窓口にはフードを被った()が立っていた。いくつか宝石のような装飾品を身につけている。


 「道具ありがとうございました。助かりました。」

 

 私は鳥籠を返却した。これは借り物なのだ。私が鳥籠を返却したその相手は一見、人間のように見える。ただその目は人外であることを物語っている。敏感な人が会ったならば背筋が凍り、何かに勘づくに違いない。


 「又のご利用、お待ちしております。」


 丁寧な応対をして、私が持っていた鳥籠を預かった。


 彼なのか彼女なのか、その声は確実に私たちの世界のそれではない。

 しかしながら、意味は伝わってくる。言語が異なろうとも思念というか意思で会話が成立する。



 冥界、そこでは殆どが意思と思念によって成立する。

 数多の世界から訪れるモノたちが混在するその世界では。


<次回>「浦島太郎は身近に潜む」6月18日投稿予定

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