アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ 番外編~特別な日のお祝い~
その日、その時間帯、その場所。空から見て、2つの『0』の字が連なった外観を持つ建物の中。彼女たちはその中に設営された、大規模なパーティー会場に集まっていた。並べられたテーブルや飾り付けはいずれも白を基調とし、パーティー料理も潤沢に用意されており、この会場をより華やかに彩っている。誰もがこれからはじまる事に胸を躍らせていた。
「……へへ。なんだよなんだよ、ステージまで貸し切ってもらっちゃって。大げさだね。いったい何がはじまるんです?」
黒髪のお団子ヘアーで赤いチャイナドレスを着ている女性に対し、そう訊ねたのは、輝かしい金色のドレスを着てここに来ていた、紫がかった黒髪と、蜂蜜色をした切れ長の瞳の女性、蜂須賀蜜月だ。眉毛をハの字に下げて生意気に微笑んだかと思えば、次の瞬間には凛々しく吊り上げてドヤ顔をする。
「まあまあ、見てなって」
チャイナドレス姿の女性・ムーニャンは蜜月にそう告げ、彼女の注目を真正面の舞台上に向ける。スパンコールが雪や星々のごとく散りばめられた、煌びやかな青と紺色のドレスを着た金髪碧眼の女性が上がり、会場内にいた参加者全員が彼女に注目する。彼女の背後のスクリーンには何らかのロゴが描かれていた。
「……皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。司会を務めさせていただく、アデリーン・クラリティアナです」
舞台に設置された壇上で自身に満ちた笑顔と佇まいをして、アデリーンが一礼する。参加者のうち、浦和竜平に梶原葵、蜜月やムーニャンといった馴染みのある者たちは「ひゅー、ひゅーっ!」とめでたいムードをさらに高めた。
「本日は【アデリーン・ジ・アブソリュートゼロ】がハーフアニバーサリーを迎えた、特別な1日。ここまで続けて来られたのも、ひとえに応援してくださった皆様のおかげです。これからも応援……よろしくお願いいたします」
拍手喝采の中で彼女は、感謝の言葉を告げる。暖かみのある笑顔をして、また一礼すると、横からシルバーホワイトのドレスを着た女性が上がってきた。黒いメッシュ入りの銀髪を結い、アイスブルーの瞳をした端正な顔でスタイルも良い、社長令嬢の虎姫・T・テイラーである。彼女とともにお辞儀をしたその時、会場中がまた惜しみない拍手を送った。
「社長……失礼、虎姫お嬢様。私、いたく感動しております……。お嬢様がアデリーンさんのような、素敵なご友人と知り合えたことを……光栄に思っております」
「タマキさん。そこまで思ってもらえて私も嬉しいわ……! ありがとう!」
「よしてくれないか2人とも。照れるだろう……」
ステージから降りた2人の美女を待っていたのは、虎姫の秘書を務める磯村環だ。いつもスーツを着ている彼女も、今日はパーティー用の黒いワンピースドレスを着こなしており、普段とはまったく違う印象を与えた。
「アデリーン、お疲れ様。娘の晴れ舞台を生きているうちに見ることができて良かった……本当に良かった!」
「そんなオーバーな。やめてよー、父さん」
「オーバーなこと無いわよ。母さんも父さんも、アデリーンがスポットライトを浴びて張り切ってるところを見られて、幸せだったんだからね?」
「そうだよ、姉さん。姉さんは私たちの誇りだよ」
「自慢の姉様だもん。もっと胸を張っていいんですよ!」
「ありがとう。嬉しい……!」
「こんなに大きくなって、司会まで任されて……。『お姉ちゃん』、感慨深くなっちゃったなあ」
「『カタリナ』お姉ちゃん」
「わたし、アデリーンやパパとママと、もちろんエリスやロザリアと、もっと一緒にいたかったんだけどね。今日くらいは水入らずで楽しんでいきましょ」
そうしてあいさつが終わり、アデリーンがいったん義理の両親であるクラリティアナ夫婦や、姉妹であるエリスやロザリア、そして、1日だけ蘇ることのできた義理の姉……ハニーブロンドの長髪と瑠璃色の瞳のカタリナがいる位置に戻ってからは、皆が思い思いに語らい、味わい、時には絡み合い――それぞれの時間を過ごした。
「かんぱーい!」
司会を務めていた、青いドレスのアデリーンは蜜月たちのいる方向に向かって合流。輪の中に入れてもらうとグラスを取り、浦和綾女や蜜月にムーニャン、メロニーにたちとハーフアニバーサリーを祝って乾杯してから注がれたシャンパンを味わう。未成年である竜平と葵は、シャンパンの代わりにジュースをもらっていた。どちらもおめかししており、葵は水色のドレスを着ていたが、竜平の反応を見るによく似合っていたようだ。
「アデリンさん、司会お疲れ様! トークなかなか良かったよ! 良きかな良きかな!」
アデリーンを褒めちぎり、落ち着いた色合いのピンク色のドレスを着ていた彼女が浦和綾女だ。赤い長髪で髪型はワンレングス、瞳は紫色、肌は色白でこれまたスタイルの良い女性だった。竜平の実の姉にして、アデリーンとは互いに敬愛しており、血の繋がりは無いが姉妹に当たる。当然仲も良い。
「またまた。アヤメ姉さん、褒めたって何も出ないわよ……」
「でも事実じゃない。ねっ、メロさん」
綾女からあだ名で呼ばれたメロニーがアデリーンに突然絡み出し、アデリーンはもちろんだったが、そばで見ていた蜜月とムーニャンも驚いて抱き合ってしまう。メロニーは緑の髪に淡い紫の瞳を持ち、高身長かつ豊満すぎる体型をしていた。……とくにバストは、服の上から見ても目立つほどの大きさを誇る。
「綾女さんの言う通り。みんな、アデリーンさんと知り合えて本当に良かったってそう思ってるわ。私もね」
「メロちゃんさん……」
2人は恍惚した笑顔を浮かべ、熱い抱擁を交わす。彼女たちを見守っていた者たちは、尊さを感じずにはいられなかった。
「……ワタシらも、あんたも、まだまだこれからだし、めでたいことだっていっぱいあるんだからさ。お互い頑張ろうぜ」
「もちろん、そのつもりよ。ミヅキ」
抱き合うことを終えてから、蜜月がニヤつきながらアデリーンへそう励ましの言葉を送る。蜜月からの想いを受け取ったアデリーンは彼女と手を取り合い、その後、綾女を連れて竜平と葵のいるテーブルに移動。2人の母親である浦和小百合と、梶原春子とも会釈を交わす。どちらも着物姿であり、小百合は黒を基調としたものを、春子は白を基調としたものを着ていた。
「イチャついちゃって。一応私の晴れ舞台だったんだけど」
「あ、アデリーン!? かっこよかったよ~。それにとっても綺麗だったし! な!」
「そうですよ! アデリーンさんはいつだって、わたしの憧れ……」
「じゃあもう一度乾杯だね。アデリンさん!」
竜平や葵と肩を組み合う――ことはせず、アデリーンはグラスを差し出した。気になるその中身は、まだお酒を飲めない2人に合わせてか、コーラを注いでもらっていた。
「ええ。……みんな、これからもいろいろあると思うけど、末永くよろしくね」
既に親しい者も、これから親しくなっていく者たちも――。彼らの前で、アデリーンはとびきりの笑顔を見せて、再び乾杯。それからも全員で盛り上がり、このパーティーを大いに楽しんだのだった。