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邂逅列車  作者: MITT
7/15

邂逅列車⑦

『1GHz超えとか、ついこないだまで夢だったんだんだけどなぁ。けど、普通に高性能グラボとかCPUが出回ってるから、UOもだいぶサクサク動くようになったよ。ただ僕としては、通信速度もうちょっと頑張れって思う。デジタルの64K束ねた128kっても、56kのアナログモデムと大差ないんだもんな。まぁ、こんなでも調べ物するにはなかなか色々調べられるしね。大学とかのPCとかに入ると色々面白いよ』


『……俺は良く解らんのだが、お得意のネットで調べるって奴かい? インターネットっても、国内はまだまだって感じだからなぁ……俺もホームページとか作ってみたけど、カウンター1000人とかで一喜一憂してる有様さ』


『いやいや、このインターネットは今後世の中を大きく変革させる技術だと思うよ……? 携帯電話も多分、もっと進化すると思うよ。まぁ、少なくとも僕は君よりもこのインターネットに関しては、使いこなせてる自信があるよ。ここは情報の宝庫なんだ……図書館よりも楽しいかもしれないね』


 アーミー……正体を明かしたことで、前より文体がナチュラルになってるなぁ。


 とりあえず、持ち物は財布と缶コーヒーと、携帯にタバコっと。

 上着は……モンベルのライトシェルジャケットで十分かな。


 富士五湖とか行くのに、それだと相当寒いけど、平塚の方なら、それで十分だった。

 

 車のいいとこは、携帯のバッテリーとか気にしないでいいってところ。

 シガーライター給電で、いくらでも充電出来るから、携帯の電池の持ちの悪さとか全然気にならない。


 それに、以前だったら複数台で同じ目的地を目指すとかやると、大変だったけど。

 各車に一人、携帯持ちがいれば、はぐれても簡単に合流できる。


 待ち合わせも以前は、伝言板とか使ってたり、時間指定とかやってたけど。

 今は、携帯一本で済む。


 オヤジが自動車電話使ってたから、携帯の便利さは解ってたけど。

 ここまで便利だったとは思わなかった。


 今回も携帯無かったら、孤立無援の状況で訳の判らん怪異に挑む……とかなってただろうし、姉さんも訳の解らないまま、行方不明になってた可能性が高い……。


『じゃあ、そろそろ俺は車で出るから、調査の方はよろしく。しっかし、こんな真夜中でも色々調べられるもんなんだな』


『むしろ、夜中の方がやりやすいんだよ。テレホタイムならつなぎ放題だし、インターネットも早い。昼間とか海外につなげてみると解るけど、すっごい遅いんだよなぁ……。それに、管理者とかも皆、寝てるからね』


『……そんなもんなんだ。けど、確かにそうかも知れんな。それではまた後ほど』


『うん、いってらっしゃい!』


 ICQをオフラインにして、回線オフ……PC電源もオフにする。

 後日、アーミーのやってたことはハッキング以外の何物でもないと気付くのだけど。


 この1999年当時はオンラインセキュリティなんて、一般には全く普及してなかった。

 

 コンピューターウイルスも、フロッピー経由で感染するとかそんな調子で、セキュリティソフトもウイルスバスターだのノートンなんかは、90年代にも存在してたけど……。

 

 あくまでウイルス対策ソフトと言う位置づけで、2000年代に入って、ブロードバンドが流行りだしてから、本格的なファイアウォール機能やらが付くようになった。


 ちなみに、大学やらは結構前から、インターネットの前身アルファネットってので、相互接続を果たしてたのだけど。

 

 セキュリティと言っても、シンプルかつ原始的なもので、管理も割と杜撰なところも多く、サーバーなんかでも、ちょっと知識があれば簡単に侵入できてたらしい。

 

 なんとも、おおらかな時代ではあった。


 ……当時の俺の愛車は初代マツダ・デミオ。

 今は、マツダ2とかそんな名前になってしまったのだけど、当時の愛車がコレ。


 98年の春までは、日産シルビアS13に乗ってたのだけど、冬にエアコンが焼き付いてぶっ壊れると言うトラブルに見舞われた。


 焼き付いた直後は、山奥で自走すら出来ない状態だったのだけど。

 携帯での親父様の助言でコンプレッサーベルトを切って、なんとか無事に戻れた。

 

 その状態で、まだまだ動いてはいたのだけど、98年は猛暑の年で、6月の時点で早々とギブアップ……。

 東京の夏はエアコンレス仕様で乗り続けられるほど、甘くなかった。

 マフラーにも大穴が空いてて爆音仕様になってて、問題あるところを全部直して車検通すとなると、軽く50万コースなんて見積もり出された。


 そんな中、たまたま実家の店のすぐ隣のマツダの中古ディーラーに、新古車でMT仕様のデミオなんてのが流れてきてて、どうしようかと悩んでるうちに、他の店に流されそうになってて、慌てて買い取った……そんな経緯があった。


 元々、デビューの時近所のマツダディーラーで大々的に宣伝してて、小さくて軽くて、荷物も載せられて……最強かよって感じだったから、目を付けてはいた。

 

 購入検討してくれるなら、流すの差し止めますよーとか言われて、ほとんど迷わず買った。


 ちなみに、このデミオ……当時、大ヒットを記録して、バブル崩壊の余波で傾きかけていたマツダを一気に立て直したなんて逸話ある知る人ぞ知る名車なのだ。


 まぁ、それからこのデミオは北は仙台、関越超えて新潟遠征だのあちこち走りまくって、岡山も何度も往復して、最終的に15万キロくらいまで乗り続けて、以来、今に至るまで延々マツダ車を乗り継ぐことになるのだけど、それはまぁ……別の話。

 

 さて、町田から平塚。

 ソロドライブだから、出発前にルートを頭に叩き込む。


 今どきは、カーナビなんて当たり前で、スマホカーナビとかもあるから、こんな真似はしなくていいけど、この頃はカーナビなんて贅沢品、誰も持ってなかった。


 かつては、複数台でドライブとかやると、大抵バラけたり、道に迷ったりで、行方不明車両が出て、そりゃあもう大変だった。


 その対策として、待ち合わせ合流ポイントとして、ルート上の目立つ自販機コーナーやら公衆トイレの近くとか、コンビニやらを事前に設定しておくとか、必要だったのだけど。


 携帯のおかげで、そこら辺も楽になった。

 と言うよりも、今までは何だったの? って言いたいくらいには便利になった。


 もっとも、このルート選定は基本自前で調べていくか、道を覚えるのみ。

 行ったことない場所にソロでいくともなると、どっかで止まってルート選定ってのが必須だった。


 友達送ってく時とかは、そいつのナビ頼み。

 車に縁がないやつだと、道案内と言ってもかなり怪しいから、大雑把に近くまで行って、駅前とか知ってる所から、道案内させるってのが基本だった。

 

 今は、ナビシートの奴は、隣に座ってるだけで居眠りしてても問題ないけど、この時代は、ナビシートに座ったやつは地図見て、道案内は当然。

 高速乗る時もETCなんて無かったから、小銭を用意したりと結構忙しかったのだ。

 

 女子だろうが、助手席に座った以上は仕事しろってのが、常識だったんだよな。


 とにかく、ルート選定。

 16号出てから、橋本五差路で129号を南下。

 ……以上っ!


 昼間だったら、どっちもめちゃくちゃ混むから、裏道行くところだけど、夜だと空いてるから、そこら辺は気にしなくていい。

 

 246と129の合流点、金田陸橋とか通り抜けるだけで一時間は覚悟するところだけど、平日の夜だから問題ないだろう。


 まぁ、平塚方面は釣りとかで何度か行ってるから、道は問題ない。

 厚木駅付近を一周りして、一之宮公園とやらの様子を見に行く……多分、それで夜が明けそうだった。


 時間は早くも3時が近い……アーミーとのICQで随分時間を取られてたらしい。

 姉さんからの連絡はあれっきり無い……なんとなく急いだほうがよさそうだった。


「ちょっと、かっ飛ばすか」

 

 そうひとりごちで、俺は愛車デミオのアクセルを吹かした。


 ……30分後。 

 俺は小田急厚木駅に着いていた。


 本厚木駅の方は、それなりに栄えていて、ロータリーや駅ビルなんかもある神奈川西部最大の都市って感じなんだけど、元祖厚木駅の方は……何もない。


 ちなみに、この駅……厚木駅と言っておきながら、住所的には海老名市に属する。

 千葉にあるのに東京の名を冠する某ランドのようなもの……といえば、解りやすい。


 二車線道路走ってると、道を跨いでホーム階があって、小田急の駅の出入口も小さな掘っ立て小屋みたいな感じで、油断してると軽くスルーしてしまう。


 ……と言うか、相模線の厚木駅ってどこなんだか。

 地図だと小田急の駅と重なってるんだが、良く解らん。


 車置いてちょっと歩きまわって見るべきか……と、自販機の前で車停めてたら、笑顔の警察官が助手席の窓をノック。

 

 よく見ると、後ろの方に派出所が……。


「……こんばんわー! お兄さん、こんな時間に車停めて何してるの? 道にでも迷った?」


 フレンドリーな様子の警官。

 40代くらいの如何にもベテランって感じで、太めながらも、柔らかい雰囲気の気の優しそうな警官だった。

 

 他県の多摩ナンバーが缶コーヒー買って、車の中で地図広げてたから、迷子と思われたか……。

 もしくは、思いっきり不審者扱いでの職質か。

 

 まぁ、後者っぽいな……これ。

 

 けど……ここで無視して、急発進とかやらかしたら、パトカーで追い回された挙げ句に、とっ捕まるだろうし、こちとら現地情報収集に来てるんだからな。


 警察なら、色々と地元情報とか持ってそうだし、むしろ、願ったり叶ったりだった。


「ああ、遅くまでご苦労さまです。良かった、ちょっと道でも聞こうかなって思ってたんですよ」


 車から降りて、そう言うなり感心した様子の警官。

 コイツ解ってんねーって感じ。


 ちなみに、警察に職質食らった時は、第一声で「ご苦労さまです」と言うと、向こうは割ときちんと対応してくれる。


 この「ご苦労さま」と言う言葉は、相手を労うと同時にこちらが目上なんですよと言う意味も含まれている。


 警察相手だと、こう言った時点で一般市民である自分達の方が本来、立場は上なんですよと知らしめる効果がある……警察ってのは上下関係に厳しいから、この言葉を聞くと向こうが勝手にそう思ってくれるのだよ。


 そもそも、俺自身別に悪さもしてないし、反抗的でも無い。

 

 メガネに黒髪の如何にも優男って雰囲気で、背も低いから威圧感ってもんがない。

 必然的に、初対面で与える印象も悪くないらしい。

 

 ここまでの条件が揃ってると、向こうは友好的にならざるを得ないのだよ。


 まぁ、深夜……街中をバイクや軽四で走り回るような仕事やってれば、自然と警察とも付き合いが出来るから、実は警察対応はお手の物。


 従業員が事故ると、真っ先に現場の応援に行ったりするし、酔っぱらいが道で寝てて、警察呼んだりとかもあるし、裏道走ってて、パトカーにちょっとそこの車止まりなさーいなんて、よくある事。


 タクシー、新聞屋、警察……この三つの職業は、深夜街中をウロウロしてると言う意味では共通してて、お互いなんとなく親近感を持ってたりもする。


 ちなみに、新聞屋なんてやってると、怪談話もよく聞く話ではあったが……まぁ、それは別の話だ。

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