邂逅列車⑤
アーミーは調べ物してるらしく、反応がなくなってる。
まぁ、姉さんから聞き出せた情報でも出してみるかね。
『姉さんから聞いた情報。乗り合わせた車両にあった運転台の日付は昭和20年2月17日……乗ってたのはキハ1001って車両だったらしい。この日、厚木で何かがあったんじゃないかって……姉さんも気にしてたみたいだけど。これで何か解る?』
『日付まで解ってるんだ……しかも、如何にもフラグって感じじゃないか。奇しくも今日と同じ日付……となると、やはり起こるべくして起こったイベントってとこかな。なら、調べようがありそうだ……案外タイムリーイベント系なのかな? だとすれば、似たような事件とか起こってそうだし、なんとなくタイムリミットなんかもありそうだね……。こりゃ、モタモタしてる暇はないかも知れないな』
俺は手を出してないのだけど、アーミーはこの頃、流行りだしていたネットゲームをやってるらしい。
タイトルはウルティマ・オンライン。
ペンティアム2の200MHzが最上位CPUの時代に、266MHz以上を推奨とかパッケージに記載してたと言うご無体なゲームだ。
……ウルティマ自体は有名だから、普通に知ってた。
海外版ドラクエみたいなもんで、かのウィザードリィと並ぶ洋RPGの金字塔だ。
ウルティマ3なら、MSX版をやったことがあったけど。
クリアした覚えはない。
割とやりたい放題出来るゲームで、店のアイテムかっさらったり、街の人を惨殺とか出来る。
まぁ、それやるとクソ強い衛兵が町の外まで追いかけてくるので、ダンジョンもぐったりしたりして、振り切る……なんか、攻略とか全然進めないで、そんな事ばっかりやってるうちに飽きた。
衛兵とかはやり方次第では殺せるんだけど、王様のロード・ブリティッシュがクッソ強くて、どうやっても倒せなかった事を覚えてる……。
5のパソコン版は日本でもそこそこ売れたらしいけど、徹底していい人プレイやらないといけないので、ストレス溜まるんだとか……。
おまけに、これが出たのは1988年……。
87年に和製ARPGの金字塔イース1が出て、皆そっちに気を取られて、洋ゲーなんて見向きもされず、SFC版なんかも出たらしいけど、完全に空気だった。
ウィザードリィみたいに、RPGの代名詞となることもなく、むしろパクリ後発だったドラクエにお株を奪われる形で、日本ではマイナータイトル止まりに終わったある意味、不遇な作品だった。
まぁ、要するにそれのオンラインゲーム版らしい……。
ちなみに、やっぱり悪いことすると衛兵が湧いてきて、ボッコボコにされたり、同じプレイヤーに殺されて、身ぐるみ剥がされたり、ただ町中歩いてただけなのに攻撃魔法の標的にされて死んだりとか、なんとも殺伐としてるらしい。
話だけ聞いてると、全然楽しそうに思えないんだが……そう言うのも含めてが、オンラインゲームの魅力なんだとか。
ほどほどにしようなーとは言ってる。
アーミーとICQでチャットしてると、良くそのウルティマ・オンラインで使われるゲーム用語やらが出てくるし、一緒にやらない? ってお誘いも受けてるんだが。
俺のネット回線は、親が大量買いしてた商売用の電話回線のひとつで、電話代も店持ちと言う代物でテレホ未加入……なんで、あまり使いすぎると文句言われる。
その辺もあって俺は、非常時接続を余儀なくされていた。
ネットゲームで何時間も回線繋ぎっぱなしとかそんな贅沢はとても出来なかった。
『やっぱり、日付に意味がありそうだよな……。さすがに、2月17日って日付の意味までは俺も解らん』
『それがヒントのつもりなんだろうね。さすがに今のままだと、手がかりがなさすぎて、お手上げだったから、助かるっちゃ助かるけど。けど、相模線については、オカ板でもちらほら反応来てるんじゃないかな? そっちでも見てる? ローカル線みたいだけど、首都圏沿線だけに、意外と噂ってあるもんだね。この短時間で三つくらいレスが付いてるよ』
確かに、色々な噂話が書き込まれてる。
真夜中に線路を横切る人影の噂とか……。
電車の怪談の定番、深夜に走る無灯火の列車を見たとか。
先頭車両に乗ってたら、運転手が信号青で、何もいないのに急ブレーキをかけたって話も来てる……。
会話盗み聞きしてたら、前方で人が横切ったように見えたとか話してた……そんな落ちがついてる。
まぁ、この手の話は全国どこでもある……。
ちなみに、回送で深夜、無灯火走行してるような電車ってのは割とよく見かけるし、線路の点検で走るメンテナンス車両なんてのもあるので、その手の車両の目撃事例に尾ひれが付いてってパターンもあるらしい。
俺らも昔、小田急町田駅前にあるレンガ広場ってところで朝までダベってたりしたけど、深夜二時に真っ暗な回送電車が走ってるのをたまに見かけたもんだ。
深夜なのに、いきなり踏切が鳴り出すってのは、意外とビビるんだが……。
田舎なんかじゃ、遮断器も警報機もない踏切ってのはよくあるらしく、オヤジなんかも深夜、踏切渡ろうとしたら、目の前に黒い壁があって、なんだこれ? って思ったら、無灯火の貨物列車がノタノタと走ってるところだった……なんて話も聞いたことある。
『見てるけど、これ……単に相模線つながりってだけじゃないかな? 正直パッとしない話ばかりだけど……。平塚の住宅街で起きた音だけの列車の話は……なんとなく、ガチって気がするなぁ』
『うん……この話、伝聞っぽいけど、なんとなく本当の話っぽいよ……作り話特有の落ちを付けようとか、怖がらせようって作為的なものを感じない……。ただ見た事、聞いた事を淡々と語ってるって、そんな感じだね。こう言う情報ってのは、下手な主観を交えてない分、信憑性も高いんだよ』
……高校生とは思えないようなスラスラとした説明。
相変わらず、こいつどう言う頭してんだろ? こんな調子でバカ高校とか通ってたら、苦労してんだろうなぁ……。
『お前もそう思うんだ……。まぁ、面白そうな話じゃあるけど、場所も遠いしなぁ。他は……割とどうでもいい話ばかりだね』
『そうだねぇ……。とにかく、僕はこの平塚の音だけの電車の話が気になる。これ、多分……本人の体験談かそれに近い人の話じゃないかな? 今夜もブレーキ音みたいなのが聞こえて、霧が出て来てて気持ち悪いとか言ってるから、地元の人っぽいね』
『ああ、それは俺も思った。けど、厚木と平塚は結構距離あるよ? 昼間だと、厚木まででようやっと半分ってとこだね……。そこまで離れてるとさすがに……この話は今回の件とは関係ないんじゃないかな』
なお、厚木周辺って、昼間はめちゃくちゃ混む。
夜だと、海まで一時間もあれば着くけど、昼間だと軽く三時間はかかる。
内訳としては、厚木までが二時間で、そこから海までが一時間。
『そうかな? この話多分繋がってるんじゃないかな? 過去へと向かう列車と、音だけ聞こえる誰も見えない幽霊列車……列車ってのは線路が繋がってる限り、それは閉ざされたひとつの世界とも見なせる。これが列車の怪異で、それの作り上げた異空間だったとすれば、この平塚の幽霊列車は姉さんを拉致ってるのと、少なくとも同類とかお仲間なんじゃないかな? 現地に行けば、案外何か解るかもしれないよ』
『……軽く言うなよ。平塚なんて、3-40kmはあるからなぁ……。夜でも軽く一時間コースだぞ?』
『30kmなんて、こっちじゃちょっとコンビニ行ってくるって感覚なんだけどなぁ……。ジャスコまで110kmって看板あるのって知らない? ここらの距離スケールって基本的にそんな感じ』
『……110kmか。まぁ、山中湖とか行く感覚かな。そう考えると確かにスケールデカいな。ちなみに、ここらじゃ100kmは泊まり旅行の距離らしい。まぁ、俺は軽くドライブ行ってくるかって感じだがね。日帰り余裕です』
ちなみに、俺の感覚だと沼津や諏訪湖あたりなら日帰り圏内。
その辺りなら、往復してガソリンも無補給でも余裕で持つから、そんな大した距離だとは思えない。
距離感覚としては、200km圏内は日帰り圏内なんだが、この感覚は相当おかしいらしい……。
原因は、多分うちの親父のせい。
岡山、東京間を8時間かけて一気に行くってのが、我が家の帰省だったのだから、しょうがない。
富士五湖とか、芦ノ湖あたりは、親父の気まぐれ日帰りドライブ圏内だったから、そんなもんだと思ってたけど、世間一般の家庭では、その辺は宿を予約して泊まりで行くようなところらしい。
自前で車持つようになって、あちこち行ったけど……。
その辺は、軽くドライブ圏内だよなーってのが、俺の認識だった。
『君なら、北海道来てもむしろ余裕って感じかな。暇があったら、遊びに来るといいよ。その時は、助手席で道案内くらいはしてあげよう。ちなみに、免許持ってるなら、飛行機で来てレンタカー借りるのがおすすめかな』
……なんと言うか。
ICQのチャットってのは、携帯のメールと違って一通いくらとか、お金かかる訳でもないから、こう言うとりとめのない話が延々続くってのが定番じゃある。
けど、アーミーのおかげで、こっちも大分気楽にはなってきた。
明らかに年下じゃあるんだが、こんな深夜にこんな胡散臭い話に付き合ってくれるのだから、ありがたい話ではあった。
しっかし、北海道か。
夏だったら行ってみてもいいなぁ。
けど、助手席で道案内とか、割と大胆な事言ってるんだが……コイツ解ってるのかな?
……なんにせよ。
この調子だと、有意義な情報っても大した情報も得られそうもなかった。
インターネットで、昔の新聞やら昔の地図やら、過去の歴史やらを参照できれば良いんだが……。
この当時のインターネットは個人のHPやらが乱立していて、検索エンジンも発展途上で、相互リンクで辿っていくってのが定番でもあったのだけど。
まさにカオス状態で、訳が解らない状態だった。
今と違って、インターネットだけでの情報収集ってのは、かなり無理があった。
その点、ニフティあたりはまだ情報が整理されてるし、割とリアルタイムで専門家が直接返信をくれたりしてたから、情報収集に関しては、ニフティのログ漁りが一番早くて、濃かった。
その手のネット上の情報が統合されて、自在に参照できるようになるのは、グーグルの自動リンク収集ボットによる無人検索エンジンの登場や、Wikipediaの誕生を待たなければならないのだが、それはこの時点では未来の話……2000年代を待たなければならなかった。
なんにせよ、ここで出来ることはあまりありそうもなかった。
現地行ってみれば、なにか解るかもしれないし、ここでパソコンの前にいても解決しないと思う。
この時期、夜明けは6時台……軽く4時間近くはある。




