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邂逅列車  作者: MITT
2/15

邂逅列車②

「さすがに、そこまでは期待してないよ。もっとも、これは私一人じゃ手に余りそうだ……。ちなみに、携帯も普通に圏外ってなってたんだけど、何故か君から着信があって、慌てて出ようとしたらワンギリされちゃってね。ダメ元で折り返してみたら繋がったんだ。こんな時間にかけてくるなんて、なにか虫の知らせでもあったのかい?」


 ……俺からワンギリって……。

 知らんぞ? そんなもん。


「いや、俺は知らんよ。姉さんがいきなりかけてきたんじゃないのかい?」


 着信履歴を見ても、一目瞭然、前の発信は一週間くらい前の日付……。


 携帯を持ったのはいいけど、元々人付き合いが多いわけもなく、自分から積極的に電話を掛けると言う使い方はあまりしてなかった。


「そうなのかい? 確かに君の名前がディスプレイに出ていたんだがな……。君からかけてないとすれば、ある種の啓示かあるいは、私への助け舟かな? まぁ、それはどうでもよそうだ。とにかく、君と私とで繋がりが出来ているのは事実のようだ。こりゃ、君がこの世界からの脱出の鍵になるのは間違いなさそうだ……さすがだね」


「さすがって、言われても良くわかんねぇな……。けど、俺に出来ることなんてあるのか?」


「前にも言ったろ、非日常や怪異には滅法強い……それが君なんだ。無意識に危険を回避し、危機的状況でもその場の最適解に辿り着き、迷わず実行する。……あれは、ある種の異能の域に達してる。私も怪異とは積極的に関わりたいとは思わないが、ヤバい所に行くって解ってて、誰か一人を相方に出来るってなったら、迷わず君を選ぶかな」


 まったく、この人は……。

 嬉しいこと言ってくれるじゃないか。


「ありがとう。まぁ、どこまで出来るかわからないけど、可能な限り支援するとするよ」


「こちらこそ。なんにせよ、君という助っ人を得られたのは私にとっては間違いなく僥倖だよ。多分、私は境界線に居るんだろう。下手を打つとこのまま、戦前日本にでもタイムスリップ、或いはこの異世界のモブにでも成り下がるか。いずれにせよ、出来れば御免被りたい……何かいい手はないかな? 当然ながらネットも使えない……君が頼りじゃある」


「解った……。とりあえず、こっちで出来るだけ調べてみる。今いる場所は推定厚木駅? 時間や時期、日付なんかは解るかい?」


 この手の異世界のようなものには、大抵なんらかの意味があるらしい。

 実際、以前似たような事に巻き込まれたことがある。


 要約すると、姉さんは、ドッペルゲンガーを見たことがあったのだけど。

 ある出来事がきっかけて、それがドッペルゲンガーではなく、未来の自分だと確信して、つじつまを合わせる必要があるとか言い出して……。

 

 要するに過去の世界に行って、過去の姉さんに姿を見られてきたって話。

 

 なお、理屈とかは全然解らん。


 厳密には、過去でも現在でもない狭間の世界で、過去の自分も恐らくそこに迷い込んでたのではないかと。

 

 曰く、ピンスポット的に過去と未来が繋がるのは珍しくないだの、世界の辻褄合わせとか、そんな風な説明をされたけど。

 

 意味がわからない事には変わりなかった。


 まぁ、特徴としては、誰かに会うことはまずないって事と、時間の流れがめちゃくちゃって事。


 実際の所、知らず知らずに迷い込んで、訳も分からず出てしまう……なんてコトもよくある事らしく、気付いていないだけで、かなり多くの人々がそんな体験をしてる可能性もあるんだとか。

 

「そうだね。多分、この空間には意味がある……何者かの作為のようなものを感じるよ。ひとまず、場所は厚木駅で間違いないと思う。本厚木駅は昔は無かったはずだからね。時間は……どうも昼間って感じだな……。橋本の時点で日付変わってたし、その様子だとそっちはまだ真夜中……。まぁ、こう言う異空間では時間なんて当てにならないからね……数日居たつもりが、現実に戻ったら一時間も経ってないとか、逆に一時間くらい居たつもりが数日経ってたとか、そんなのもザラだ」


 ……そんな異空間の豆知識みたいに、サラッと言う辺り。

 やっぱり、この人尋常じゃないな。


 あの時も、過去の世界に飛んでても別に驚いてなかったし。

 俺が知らないだけで、こう言う体験も何度もやってるのかもしれない。


「ちなみに、今の時間は、深夜2時15分ってところだ。いつもなら、仕事に行く時間だな……」


「うん、そういえばそうだったね……。そういえば、こないだバレンタインデーなんてやってたね。せっかくだから、無事に戻れたら、渡しそびれていた義理チョコでもあげよう」


 なんとも呑気な話をしだす姉さん。

 まぁ、日常を忘れないってのも異常事態に際した時には有効って言ってたしな。


「アンタ、毎回コンビニの板チョコとか、そんなだよね……」


「正直、その手のイベントって興味ないからねぇ……。職場でもチロルチョコ配ってお茶を濁したよ。まぁ、それはともかく、この日差しの感じだと時期はこっちと同じく冬っぽいな。運転台の日付表は昭和20年2月17日ってなってるよ……。なるほど、日付は今日と一緒ってことか……だとすれば、この日付に意味があるな。時刻は13時……昼過ぎ。時期的には、終戦の半年ほど前か。戦時中……厚木。あ、これ……ちょっとまずいかも……そっちにもこの音、聞こえてる?」


 耳を澄ますと、遠くからウーウーとサイレンの音が聞こえてくる。

 長く響き、あちこちから木霊するように重なる音。


 聞いたことはある。

 実際にではなく、映画か何かで……。


「空襲……警報?」


「だよね? ……これ。まずいな……この時期、すでに本土の制空権は失わつつあったはずだ。レシプロ機、それも複数近づいてる。けど、ここからだと姿が見えない……となると、超低空飛行? このまま、ここに居ると絶対に良くないな。やむを得ない……一度、ホームに出るよ! くそっ、さすがにこんなパターンは初めてだっ!」


 そう言って、姉さんが移動し始めた気配がして……唐突に電話が切れた。


「おい! どうしたんだ? くそっ!」


 ……すでに電話が切れていた。

 慌ててリダイアル。


『……この電話は、電波の届かない場所にいるか……』


 携帯電話会社の圏外アナウンスが流れる……。

 しばらく待ってみたけど、携帯はうんともすんとも言わない。

 リダイアルしても結果は変わらず。


 プチメールは送信エラー……。


 この初期のショートメールは、電子メールとかと違って、センター経由ではなく、相手の端末に直接メッセージをポケベル方式で送信するって方式だった。

 

 同じIDOにしか送れないし、相手が圏外に居たりすると送れないと言うという欠点があり、送信に一分近くかかるようななかなかに微妙な代物ではあった。

 

 とにかく、この時点で姉さんとの連絡は絶たれてしまった。

 

「……クソ! 何がどうなって! そもそも、なんなんだっつーの?」


 最後に聞こえていたサイレンの音。


 それと、運転台にあった昭和20年2月17日と言う50年も前の日付。

 

 今日は1999年の2月17日。


 この符合には間違いなく意味がある。

  

 となると、今回のこの異世界は過去の世界の再現……もしくは、過去の世界との狭間ってことだ。


 なんにせよ、この日付が手がかりになるのは確実だった。

 

 考えてみれば、厚木って言えば昔から海軍の基地がある。

 

 今は、米軍と自衛隊が共同利用してるのだけど。

 基地自体はもうずっと昔からあるとかで、かなり大きな基地で、ここらの上空を昼夜問わず飛んでるのはこの厚木基地か横田基地関係の機体だったりする。

 

 あまり知られてないけど、横須賀に空母が来てるとF14なんてのまで上空を飛んでたりするからな。


 キナ臭い情勢になると、この西東京を南北に行き交う軍用機が頻繁に飛ぶようになるので、なんとなく解るくらいだ。

 

 まぁ……福生の横田空軍基地、陸軍座間キャンプとならぶ、在日米軍の中枢と言える施設のひとつだ。

 ちなみに、この近くだとJR相模原駅前に補給廠があるのは有名だし、稲城の方にも米軍保養施設があったりと、この多摩、相模原地区ってのは、軍事施設の集中地帯でもあるのだ。

 

 ……実際の所、厚木基地自体は大和市の方にあって、厚木駅からは離れてるのだけど。

 大戦中も軍事拠点として活用されていて、首都防空の要でもあったらしい。

 

 当然ながら、戦時末期には何度も空襲があったって聞いた事がある。


 うーん? 大戦中の記録か……図書館にでも行かないと解らんぞ。

 ひとまず、PCでも立ち上げて、出来る範囲で調べてみよう。


 以前は、Win95のノートPCを使っていたのだけど、3年も使わないうちに陳腐化どころか、まるっきり時代遅れの代物となってしまい、去年新たにデスクトップPCを導入していた。

 

 ちなみに、エプソンダイレクトで買った最新のWin98PC……のはずだったのだけど。

 色々カスタマイズを施していて、買って一年もしないうちにCPUとメモリやHDDを残して、ごっそり入れ替わってしまったと言う限りなく自作PCだった。


 ネット環境については、ADSLよりも前のアナログモデムを使ったダイアルアップ接続の時代。


 常時接続なんて贅沢は夢もまた夢。

 

 通信速度もちょっと前までは28kbps……だったのだけど。

 最新規格の56kbpsの高速モデムを使うようになって、それなりに早くなってはいる。


 もっとも、1MBのファイルダウンロードに軽く一時間かかるとかそんな調子なんだがね。

 

 昨今の光通信で100Mbpsとか軽く出るのから見れば、止まってるような通信速度なのだけど、これ以上となるとデジタル回線のISDNくらいしか無かった。

 

 インターネットもYahooとかに自分で申請登録とかやってたような頃で、インターネットよりもパソコン通信が主流だったのだけど。

 

 インターネットの方が便利かつ、ワールドワイド……と言うことで、最大手のニフティサーブですら、どんどん過疎っていっている……そんな時代だった。


 ひとまず、ダイアルアップでインターネットに接続して、インターネット経由でログダウンロードを行う……。


 まぁ、ニフティもインターネットに押されて、衰退気味で巡回先なんてたかが知れてるんだけど、ニフティのオカルト板辺りになにか情報が無いか……見てみたかった。


 ちなみに、パソ通とインターネットプロバイダは完全に別物で、回線も一つしか無いので、ちょっと前までは、ニフティの最寄りアクセスポイントに繋いでから、巡回やら書き込みをして、ログアウトしてから、インターネット用につなぎ直すとかそんな面倒くさいことをしてた。


 まぁ、今はインターネット接続してれば、ニフティにも接続できるようになってるから、そんな面倒なことはしなくて良くなってる。


 細かい仕組みは良く解らないけど、この方式なら基本料金だけ払ってれば済むので、皆、似たような方法でニフティを使うようになってるようだった。


 いかんせん、利用頻度としては、完全にインターネットがメインで、パソコン通信自体がそろそろ前時代的なものとなりつつあった。


 ニフティも従来のやり方では時代についていけなくなりつつあって、インターネットプロバイダを兼業しようとしたり、色々試行錯誤をしているようだった。


 実際……10年もしないうちに、パソコン通信の最大手だったニフティサーブは終焉の日を迎えることになるのだけど。

 

 この頃は、まだまだそんなのはずっと先だろうと誰もが信じていた……。

 なんともおめでたい話だと、当時の時点でも思ってたけど。


 実際、2001年あたりのブロードバンド時代の到来で、ニフティサーブはあっという間に衰退し、2005年のサービス終了を迎えることになるのだった……。 

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