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邂逅列車  作者: MITT
10/15

邂逅列車⑩

「良かった繋がった! 話中だったから、今なら繋がるって思ってリダイアルしまくってたよ! いやはや、他は一切繋がらないのに、君にだけは繋がるとはね……。持つべきものは友って奴かな」


 灰峰姉さん……繋がるなり、やたらと嬉しそう。

 まぁ、そりゃそんな異世界なんかにいて、外部と連絡取れたなんて、奇跡みたいなもんだしな。


 けど、嬉しいのはこっちも一緒だ。


「……姉さん、良かった……。無事だったみたいだね。今の状況を伝えてくれるかい? それと……電話切れた時、何があった? 降りるって言ってから、いきなり切れたみたいだったけど」


「ああ、さっきの件だよね。まず電車降りたら、いきなり携帯が切れた。それっきり、携帯も圏外になって、流石に焦ったよ。とりあえず、この昭和な雰囲気の厚木駅……誰も居ないし、外にもでれない。どうやら、私は境界の世界にいるっぽいね」


「いつぞやのアレと似たようなものか。状況は解った……」


 まぁ、ちょっと前の話ではあるんだが。

 姉さんの言うところの境界の世界ってのは、俺も入り込んだことがあった。


 曰く、過去と未来が混在したり、この世ならざる風景や死者との邂逅がなされたりする条理の通じない異世界。


 境界と言うだけに、何の前触れもなしに迷い込んだり、入り込んでも訳の解らないまま出てしまったりする……。


 特徴としては、自分以外の誰も居ない。

 そして、異常なまでの静寂。


 もっとも、いきなり山の中とか石畳の広がる異世界って感じの所に行くのではなく、風景とかは全く変わらない。


 ただ、風景だけはそのままでそこから自分以外の全てが消えてしまったかのような空間。

 それが境界の世界と、呼んでいる異世界だった


 現世と重なるように存在する鏡の中の世界のようなもの。

 そう例えられたのだけど、納得出来るような出来ないような。


 もっとも、実際にその世界に入り込んだことがある以上、問答無用で納得せざるを得ない。


「そうだね。ドッペルゲンガーの時のと、ある意味似てるかも。ただ……ここまでの規模のは、初めてお目にかかるな。私の見てきた境界の世界とはどうも勝手が違う……まぁ、訳が解らないと言う点では一緒ではあるんだけどね」


「そういや、空襲警報みたいなのが鳴ってたけど、それはどうなったんだい?」


「……空襲警報が鳴って、割とすぐにレシプロ機が何機も低空飛行しながら、近づいてくる音が聞こえたと思ったら、銃声が聞こえて、駅舎が一瞬であちこち穴だらけになって、あっという間に倒壊した。軽く死んだって思ったんだがね……」


「なんだそれ? まさか、機銃掃射? ええい、訳が解らんぞ! 向こう側の存在がこっちに危害を加えることなんて無いんじゃなかったのか?」


 ……あっちの存在ってのは、現世の人間に直接的な影響を与えたり、危害を加えるってのは、まずありえない。

 

 実体のないものは、言わば幻像のようなもの。

 

 二次元の絵じゃ、人は殺せないのと同じことで……あれらは本来そう言うモノで、恐怖にさえ飲まれなければ、生きてる人にとって脅威ではない……そのはずだった。


「確かにね……。ちなみに銃声も聞こえたけど、何が撃ってきたかとは解らなかったね。ただ銃声からすると多分、ブローニングM2……12.7mm重機関銃。未だに現役で代わるものが作れないなんて言われる傑作機関銃だ。ちなみに、直撃したら人間なんて軽くバラバラになるよ。けど、そんなのを積んでるレシプロ機となると多分米軍機だろうね。ここが過去の再現世界なのだとすれば、本土空襲……空母艦載型のグラマンF6Fか、F4U辺りかな……?」


 ……さすが、軍事マニア。

 兵器やら歴史については、無駄に詳しい。


 つか、そんな銃声だけで、そこまで特定なんて出来るもんなんだ。

 思わず感心する。

 

「……むしろ、何で無事なの? そうなると戦時中にタイムスリップしたってとこかい。よく、この電話繋がってるな……この時点でミステリーだろ」


 もっとも、電波ってのは、いわゆる普通の電波……遅延波と同時に先進波と呼ばれる過去に遡る電波も同時に送信してると言う説もある。

 

 それ故に、過去にメッセージを送るって事も不可能じゃないって、ナデシコでもやってた。 


 まぁ、目の前で不可解な事象が起きたとしても、あれこれ考えてもどうせ無駄。


 自分が見て認識してる事象こそが正しい……。


 たまに、何そこまで必死なの? って感じで、超常現象を否定しようと遮二無二なってるヤツもいたりするけど……理屈や科学なんて、所詮は後付。


 世の中には、なんで効くのか解らない薬やら、なんで飛べるのか、現代の航空力学では解明されていないクマバチとか……そんな実例はいくらでもある。


 そう言うのを黙らせるには、この一言に尽きる。

 だって、目の前で起きてるんだから、しょうがない。

 

 まぁ、案ずるより産むが易しってヤツだな。

 ちょっと違うか?


「そこがミソだよね……。恐らくだけど、これは過去の世界じゃないな……。たぶん、境界の世界の亜種かな。ずっと昔に生み出されて、そのまま場に残り続けてるとか、そんななのかも。再現フィルムに取り込まれてるようなものだと言えば解るかな?」


「なんとなく、その説明で解るな。あの時は、現実世界の写し絵みたいな感じの世界だったけど……ああ言うのが延々と残り続ける場合もあるってことか」


「……場の記憶か……大勢の人々の無念の思いか……残留思念の焼付きみたいなものかもしれない。ちなみに、この駅舎……その機銃掃射で倒壊したのに、次の瞬間には一瞬で元通りになった……。こりゃ、今までのパターンと同じとか考えないほうがよさそうだ」


「……なんとも冷静なんだな。状況から察するに、一度リセットされたとか、そんな感じなのかな?」


「はっきりと断言できないけど、この世界はある時間軸をループしてるのかもね。例えば、こんな話を聞いたことがあるだろう? 延々飛び降り自殺を続ける霊の話とか……特定の時間になると現れて、勝手に事故って消えるバイクの話とかさ。旭興荘の赤いコートの子なんかも、あれは多分ループ系だったんだと思う」


 ちなみに、旭興荘のあった所には三軒の一軒家が建ったのだけど。

 102号室のあった辺りに建ったのだけは、延々空き家のままになってる……。


 姉さんの話だと、まだいる……らしい。


「……懐かしいな。ただ、そうなると、何らかのクリア条件を満たさないと、脱出出来ないとかそんななのかも知れないんじゃないか」


「そうだねぇ……。多分、今の私は現世に居るようで居ない……幽霊みたいになってると思う。このまま脱出出来なかったらとか、あまり考えたくないね。けど、何者かの意思が働いている以上、脱出不可能ってことはないと思う」


「……脱出条件があるってことか。その世界で何かすれば助かって、何もできなきゃアウトってことか?」


「まぁ、順当に考えて、そんなところだろうね。多分、空襲警報が鳴って米軍機の機銃掃射が来たら、タイムアウトなんだろう。ヒントは昭和20年2月17日……その日、ここで何かが起きたんだろう。この空襲を私に見せたかったって意思は伝わってきた……となると、別の可能性を見せて欲しいとか、或いはこのループを解消させるか……そんなところか?」


 そう言って、姉さんはブツブツと長考モードに入る。

 そんな異常事態なのに、クリア条件とかよく思いつくな。


 けど、姉さんは当事者だ……俺の立場は、手助けする立場。

 考えろ……俺に何が出来る?


「実は今、厚木駅の近くまで来てるんだけど……そうなると、あまり意味がなかったかな? 異世界に取り込まれてるときって、外部からは認識されなくなるんだよな……」


 実際、俺と姉さんが異世界に入り込んでる時。

 須磨さんが、姉さんの実家から俺らの様子を見てたんだけど。


 その間、俺らは突然居なくなったように見えてたらしい。


 建物の影に隠れたようになったと思ったら、出てこなくて、しばらくしたら反対方向から出て来た……そんな風に話してた。


 なお、俺の主観としては急に車が来なくなって、街の灯りとか家の照明とかそのままで、綺麗に人の気配と音だけが消えた……そんな風になってた。


 異世界ってのはそんな風に、シームレスに切り替わる……そういうものらしい。


「おお、もう動いてくれてたんだ。本厚木駅じゃなくて、元祖の方?」


「相模線なんだろ? なら、こっちだろうと思ったんだが……。もしかして、こっちが近くに来たから繋がったのかな?」


「そこはなんとも言えないけど、どうも電車に乗ってるとそっちと繋がるみたいなんだ。たぶん……この電車がこの怪異を引き起こしてるモノで、そっち側と繋がってるのかも知れない」


「ああ、そういう事なら納得だ。実際、ここ……なんかいるぞ。車庫があるみたいだし、案外幽霊列車の巣みたいなもんで、本物の列車が混在してたりする……そんな所なのかもしれないな」


「……私は見てないからなんとも言えないけど……。ただ、昔からここらって車庫があったらしいから、怪異の巣窟になってる可能性はあるね」 


「……マジかよ。思った以上にヤベェとこだな」


「でもそうなると、この電車、動き出したらどこに連れて行かれるんだろう。それにそもそも動くのかな? ちなみに電車から降りても改札から外には出れない……改札を通ろうとすると、ホームの電車の前に戻されるんだよ。それに、どうやら私はここでは幽霊みたいな存在になってるみたいなんだ……電車以外のものに触ったら、すり抜けちゃったよ。案外、この駅舎はただの背景……バックグラウンドのようなものなのかもしれないね」


「……そんななんだ。そうなると、やっぱりその電車がカギってことか……こっちでも、やたらバカでかい気配だけの何かが線路を走り回ってるようだけど……同じヤツなのかな?」


「……そんなのがいるのか。興味深いね……でも、多分それ……ただの影みたいなものだと思うよ。多分、ここにいるのが本体だと思うんだが……。でも、ちょっとこれはマズいかもしれないね」


「……何か、問題でも起きてるのかい?」


「実は、さっきから雑踏の音が聞こえるようになってるし、誰も居ないと思ってたら、人影みたいなのが見えるようになってきたんだ。これはつまり、私がこちら側の存在になりつつあるってことなのかもしれない。案外、ループの度に向こうに引っ張られるのかも。これは、なかなか厳しい状況だな……」


「……実はさっき警官に職質食らって、去年あたりに姉さんと同じ様な状況で行方不明になった人がいたって話を聞けた……。やっぱり、橋本で夜中の一時過ぎにホームに終電来たから、それに乗って厚木に帰るって連絡を最後にそれっきりだったとか」


「警察からそんな情報引き出すとか、さすがだね。なるほど、今更だけど相当ヤバい状況だって自覚してきたよ。けど、今の時点で現場に出てきたのはちょっと性急だったかもしれないね……。もう少し手がかりが……情報が欲しかった。家だったら、ネットで調べたりやりようがあったんだろうけど、現場で闇雲に動いてもどうにもなるまい」


「オカ板のアーミーって子、知ってるだろ? その子が一応、協力してくれてる。要は後方支援役がいるってことさ……連絡先交換したから、いつでも連絡は取れる」


「ほほぅ、あの子……女子高生って言ってたんだがね。ちゃっかり連絡先聞き出すなんて、君も隅に置けないね」


「……茶化さない。つか、北海道在住らしいからなぁ。リアルで会うなんてやったら、軽く数泊必須の大旅行だろ。そんな暇も金もねぇよ」


「はははっ。まぁ、君を信頼したからこそ、連絡先なんて教えてくれたんだろうからね。あの子、学校じゃボッチみたいだから、そう言う事ならそれなりに相手してあげればいい。割とイイ子だったろ?」


「まぁ、男と話したこと無いとか言ってた割には、すぐ馴染んでたしな。ちなみに、声は可愛かったし、なんかあっという間に馴染んじゃったよ。機会があれば、気ままに電話でおしゃべりとかも悪くないなって思った」


「なんだ、満更じゃないみたいだね。そうなると君達のためにも、こりゃ是が非でも生還しないとだな。まぁ、電話の繋がる条件も解ったし、こっちでも色々試してみるよ。手助けがいるようなら、こちらから連絡する。それじゃ、一旦切るよ……正直、バッテリーが心許なくてね。予備は持ち歩いてるけど、こうなるとこの携帯が頼りだ……まったく、IDO様々だねぇ……。それじゃあ、また後ほど」


 ……それだけ言って、電話が切れる。

 

 さすが、異常事態でも最善を尽くすつもりらしい。


 これが判断ひとつ出来なくて、現実逃避に必死になるような奴だったら、こっちもどうしょうもなかっただろうけど、姉さんは違う。


 ただ、状況が状況だけに、何の支援もなく戻って来るってのは、難しいだろう。

 

 幸いこっちも割と核心に近い所にいるってのは、確かだ。

 まずは、コンビニ駐車場のフェンスの切れ目を抜けて、線路の柵の前まで行って、目を瞑って気配を探る。


「今は居ない……か」


 視線を感じて振り返ると、コンビニの店員が駐車場に出て来てて、訝しげそうにこっちを見てた。

 俺と目が合うと、そそくさとゴミ箱の片付けを始める。


 うん、思いっきり怪しんでるな……あれ。


 この調子だと、駅か線路内に入れば、何か反応があるかも知れないけど……。

 そんな事やったら、目の前に交番あるし、良く見ると線路沿いに監視カメラみたいなのがある。


 昔は、京王線の鉄橋渡ったり、線路の上を歩いたりとかやってても、工事の人や電車の運転手やらに見つからない限りは問題なかったんだがな……。

 

 最近は、自動改札やら監視カメラやら、人がやってたような事を機械がやれるようになってるし、JRも線路内の立ち入りとか置き石とかを警戒して、この手のセキュリティを強化してるって話も聞く。

 

 監視カメラに見つかったら、間違いなく面倒なことになる。

 見た感じ、車庫もある様子だから、間違いなく泊まり込みの当直職員とかもいるだろうし、すぐ近くに派出所もある。

 

 さすがに、犯罪者になるのは本末転倒。


 それは勘弁して欲しい。

 

 とにかく、こっちはこっちで何かしないとだな。

 まずは、アーミーに連絡する! だな。


「……はーい、アーミーちゃんだよ。ミノムシ君、どう? 連絡あった?」


 なんとも気が抜ける挨拶。


 なんか、ズルズルとか音が聞こえるけど、カップ麺食ってんのかよ!


 馴染みすぎだろ……まったく。

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