01
一夜明けて、月曜日の午後。
日課の朝のランニング、ストレッチに月曜の剣術の授業をこなし、昼食を摂りきちんとお昼寝をした後。さあ、ケネスのところへ行くぞ!と玄関ホールへ降りていくと…待ち伏せしていたカイン兄様と遭遇です。
どうやらアベル兄様とカイン兄様でいつの間にかお話し合いがあったらしく、日替わりで私に付いてくることが決まったとのこと。まあ4歳児の私が一人出歩くのはいろいろ問題がありますので、渡りに船ではありますが…私と違って兄様たちは平日剣術や魔術、お作法の授業の予定が詰まっているはずなのに。そう訊いたらそちらはきっちり調整済みとのこと。いつの間に。
いろいろ突っ込みどころはりますが、たぶん反論しても無駄だと思われるのでおとなしく受け入れ、約束通りケネスの泊まっている宿屋にお話ししに来ました。
「つくるあくせさりぃのでざいん?などは、けねすがじぶんでかんがえるのですか?」
「もちろん! ちゃんと一から自分で考えて、材料なんかも自分で取りに行ってる。まあ、危ないとことかは、父ちゃんも一緒にじゃないと行かせてもらえないけど」
「え、あぶないのですか?」
「崖のとこにある材料とかもあるし、水の中とか潜らないといけなかったり…中にはモンスターの素材もあったりするから」
「もんすたぁ! それはあぶないのです」
宿屋の一階にある食堂兼酒場で軽食をいただきつつお話中。ちなみにケネスのお父さん――お名前はダイルさんと言うそうです――は仕入れ?とかで不在です。ケネスも本来ならついていくところ、私がお話に来るかもとお留守番してくれていました。優しいです。さすが友人(予定)です!
ケネスと友人になることはもちろん第一目標ですが、この先ケネスに起こるであろう災害を回避するべく、情報収集も同時進行です。
左手に巻かれた包帯、そこに隠されている傷、低下した器用度――つまり、ケネスは何かしらの事故?か事件?により左手を負傷し障害が残っている、というのが私の結論。ならば、その事故を未然に防ぐことが出来れば? そうすればケネスは旅の商人ではなくこのままアクセサリー職人になれるのでは?
それに、事故自体を事前に防ぐことが出来ればケネスが家族を亡くすことも故郷である村が滅ぶこともなくなるのでは?
しかし、村が滅ぶほどの災害――地震や竜巻といった自然災害? それともモンスター? ゲームでは掘り下げられなかったため、詳しい情報がない。どんな傷なのかも、話にもスチルにも出てこなかった――ケネスは包帯を一度も取ったことがないのでスチルでも包帯を付けた姿のみなのです――のでわかりません。出来るだけ情報を集めて対処出来るように準備して…これ、私一人にどうにかなることなのでしょうか? 自然災害に対する備えなんて、国レベルでやってもらわないと無理では? でも誰かに相談とか出来るものでもありません。いや、話のもっていきかた次第? 宰相である父様なら…だめです、まず説明の時点でどう話を持っていけばいいのかわかりません。交渉術なんてスキル私にはありません。私はただの元一般事務。そもそも交渉スキルなんてあったら営業とかに…話がずれました。
とにかく、一つずつ出来ることをやっていくしかありません。まずは情報収集!
「…けねすのむらは、よくもんすたぁがでますの?」
「いや? 村には出ないよ。村の外にちらっと見るくらい。それも数か月に1回とか、そんな。村の大人が対処出来るような弱いやつばっかだし」
…モンスターではない? あ、でも…メインストーリーを進めると女神の加護が弱まりモンスターが増えていく、というイベントがありました。街のすぐ近くにもモンスターが目撃されるようになり、ウィリアム王子や騎士団に所属しているアベル兄様、ロジェ隊長との会話がありましたし、討伐イベントもありましたね。村がモンスターに襲われる? それが原因で…?
…ああ、もう。どんな傷だったのか、それだけでもわかれば少しは予測…出来るでしょうか。いえ、ないものねだりですねこれ。
「じゅし?をとるのはうらてにあるもりって…むらのすぐうらはもりですの?」
「うん。結構深い森だから、奥までは絶対に行かないようきつく言われてる。怖いモンスターがいるって父ちゃん言ってたし」
「そうなのですか…そのもんすたぁは、むらまではぜったいにこないのですか?」
「んー…絶対とは言い切れないかもだけど、少なくとも俺は見たことないよ」
一応、自然災害などもあるかと考えつつ、ほぼモンスターではないかと予測しています。正直、女神さま健在である現時点で自然災害は皆無といっても過言ではありません。女神パワーすごい。チートです。
ゲームではメインストーリー終盤になると自然災害があちこちで発生します。徐々に天気が荒れ地震が頻繁に起こり、中盤から増えてきていたモンスターの数が更に増えていく。そうして女神さまの力が…という話になります。
しかしそうなると、女神さま健在なのにモンスターが狂暴化して村を襲う?というのも違和感があります。しかも壊滅するほどの。ゲームの都合上の話なのかもしれませんが、キャラ付けで故郷壊滅とか現実では冗談ではありません。運営め。いや、まだ決まってはいませんが。
「ユニシェルはうちの村に興味あるの?」
あれこれ訊ねる私に、ケネスが首をちょこんと傾げます。おっと、一気にあれこれ聞きすぎました?
「ゆえはおうと…おやしきからあまりでませんの。いろんなものをみてみたいのです」
「そうなのか。じゃあ来るか?」
「却下。」
私がリアクションする前にお断りしないでくださいカイン兄様。ケネスがぽかんとカイン兄様を見上げる。
「ユニシェルはまだ4歳だ。王都の外なんて危ない」
「そっか」
あっさり納得するケネス。いやまあ確かに4歳児に旅とか、私だって無理だと思いますけど。
わかってはいますが、行ってみたいですケネスの住んでいる村。実際に見て確認したいですし。
「むぅ…おそと、いってみたいですの…あくせさりぃをつくるところもみたいです…」
「……」
頬を膨らませ、いじけてみる。カイン兄様がかすかにたじろいだようです。あれ、これ、押せばいけます? いやでもカイン兄様だってまだ12歳。いかに妹に甘々の兄様でも、さすがに無理がありますね。わがままはいけません。反省。
「えっと、俺が勝手に村に連れて行くのは無理だけどさ。話ならいくらでもしてやるし! まだ帰るまでは時間あるし…それに、また王都には来るから。その時、お土産持ってきてやるよ!」
ナイスなタイミングでナイスな提案! ケネスの言葉にぱっと笑顔で顔を上げる。
「ほんとですの?」
「うん、約束!」
小指を立てて差し出してくるケネスに、迷わず自身の小指を絡める。本当に良い子ですねケネス! 大好きです!
私の横でカイン兄様はほっとしたように肩の力を抜いたのが視界の隅に映りました。うっ、すみません。ただでさえ日々甘やかされているのだから、少し自重せねばですね。わがままだめです。
「むらにかえるまで、たくさんおはなししてください」
「おう、任せろ! あ、ユニシェルはアクセサリー作るのも見たいんだっけ? 父ちゃんに言って、見学してみる? 簡単なのなら、たぶんここでも出来ると思う」
「ぜひみたいですの!」
「ん、じゃあ父ちゃんに言っておくな」
「ありがとうございます!」
これは完全に興味本位ですが、アクセサリー制作直に見てみたいので嬉しい! でもいきなり出来るものなのでしょうか? 材料とか、持ってきているのでしょうか…。どうなのでしょう?
「…頻繁に王都に来るのか?」
会話の途切れたところでカイン兄様がためらいがちにケネスに声をかける。
「んー…ひんぱん?ってほどでもないけど…少なくとも一か月に一回は父ちゃんがバザーに参加するために王都来るよ。これからは俺もついてくるし!」
「…一か月に一回は、頻繁だ」
「え、そうなの?」
思わず突っ込むカイン兄様。若干呆れ気味? ケネスはきょとんとしたまま首をかしげる。
ちょっと天然なところもかわいいですね少年ケネス。カイン兄様とのやり取りとか、ゲームではなかったので何やら新鮮で楽しいです。役得。
楽しいおしゃべりの時間はあっという間です。気が付いたらもう夕方。
明日はダイルさんのお仕事?についていくそうなので、ケネスとは明後日、水曜日に午前から遊んでもらう約束を取り付けました! さきほどのアクセサリー制作見学についてもダイルさんに訊いておいてくれるとのことで、二重に楽しみです。
「きょうはありがとうございました。またですの」
「見送り、ありがとう。また」
「うん、またな! ユニシェルもカインも、気を付けて帰れよ~!」
宿屋の外まで見送ってくれたケネスに手を振る。笑顔でぶんぶん元気よく手を振ってくれるケネスは可愛いし良い子です。これは当初の目標である『ケネスと友人になる』ミッションクリアと言ってもいいのでは? しかもカイン兄様とも友好値上がっている感じです。カイン兄様にもお友達が! これは嬉しい誤算では? ケネスなら、きっとカイン兄様とも良いお友達になれると思いますし!
なんだかとっても順調な感じです。この調子で頑張りましょう!