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06

 食べ歩きしながらバザーを見ていると、ふとアクセサリーが並ぶ露店を発見しました。

 いかにも手作りといった感じのネックレスやブレスレット、ヘアアクセサリーがキレイに並べられています。レジンかな? お花を閉じ込めたペンダントトップやブローチ、パワーストーン?――ラピスラズリっぽい青い色の石――を使ったブレスレット、ビーズっぽい玉を組み合わせたものや針金を曲げて作った細工もあってとても華やかです。

 私が目を輝かせたのに気付いたアベル兄様が露店の方へと近付いてくださいました。


「わあ…」


 思わず漏れた感嘆の声に、アベル兄様とカイン兄様が「好きなの買ってあげるよ」と声を揃える。だから甘やかしてはダメですってば。いや、これくらいなら許容範囲? 兄様たちくらいの年代のお小遣いってどのくらいなのでしょうか。そもそも貰っているのか。さっきからしている買い食いはカイン兄様ばかり支払っています――アベル兄様は私を抱っこしていて両手使用中のため――がそのお金は今日のバザー用に父様から頂いたのか。そして、露店のアクセの値段も不明です。子どものお小遣いで買えるものなのでしょうか。バザーなのでそんなに高いものがあるとは思いませんが、この世界の基準がわからないので下手なことは言えません。


 どうしたものかと悩んでいると、ふっと影が差しました。なんだろうかと顔を上げると目の前に縦にも横にも大きい熊のような男性がたぶん満面の笑み――熊が犬歯をむき出しにして威嚇しているようにしか見えない――を浮かべていました。目が合い思わずビクリと肩を震わせるとほぼ同時にアベル兄様が私を抱っこしたまますっと下がり、逆にカイン兄様は私たちを庇うように前に出ました。


 ちょ、兄様たち。ビビった私が悪いのですがそれお相手――たぶん店の人――に失礼では! 焦る私とは裏腹に、店の人は一拍置いて豪快に笑いだしました。声も大きい。兄様たちもちょっと驚いたのかビクッとしましたよ。


「すまんすまん、驚かせちまったみたいだな!」


 子どもにビビられるのに慣れているのか、特に気にした風もなくおじさんは身を屈めて目線を合わせてくれました。近くで見ても怖い。ごそごそとポーチを探って飴玉を数個取り出すと、「詫びだ」と言ってちょっと強引に手の中に握らされ、つい反射的に「ありがとうございます」と言ってしまいました。いえ、お礼は大事ですが一方的に驚いたのは私の方で、おじさんは悪くないのにこれを頂くのはかなりどうかと。


「――すみません、商品に集中していたところにいきなり陰ったものだから、驚いてしまって」


 うっかり飴玉を受け取って――強引に押し付けられた、が正解ですが――お礼を言ってしまった私の横では兄様たちが揃って頭を下げた。私も慌てて「ごめんなさい」と頭を下げました。


「なぁに、気にせんでいいさ。んなことより、ゆっくり見てってくれや。気に入ったもんがありゃあいいんだが」

「キレイですね。こちらはご主人が?」

「ああ、全部オレが作った。自信作だ!」


 にこやかに会話するアベル兄様の横で目をぱちくりさせる私。思わずおじさんの手を見る――大きい上に、ごつい――え、それでこんな細かくてキレイなアクセサリーを作ったの? 見かけによらず器用な御仁のようです。しかもセンス良い。とか思ったら失礼ですよね。でもやっぱり意外。


 明るいオレンジ色の髪と目。短く刈り上げた髪型や太い眉毛、無精髭がワイルドと言うか…体格のせいもあるがものすごく男臭い。パッと見怖いと思ってしまった――前世では男性との関わりがほぼ皆無だったため、若干男性が苦手なのもあります――が、よくよく見たらちょっと垂れがちの目で可愛い、かも。性格もきっと凄く優しい気がします。


 怖がってしまって申し訳ないなと思っていたら、なにやら視線を感じた気がして視線をずらす。おじさんの後ろ、少し離れたところにおじさんと同じ髪と目の色の、どことなく目元が似ている?少年がこちらをじっと見ていましたよ。お子さんでしょうか。なんだか不安そうにも見えますが…なんでしょう。


「ユニシェル、気に入ったのはあるか?」


 カイン兄様の声にハッとし、視線を戻す。アベル兄様がそっと下ろしてくれたので、並べられた商品のすぐ近くまで行きしゃがみこむ。


 驚いてしまったことに対するお詫びと飴玉を貰ったお礼に何か買った方が良い気がします。兄様たちは好きなのを買ってあげると言ってくださったし、ここはお言葉に甘えて1つ買って貰おうかな。じっくりと商品を見る。ネックレスやブレスレットは避けた方が無難かな。4歳児に合わせた鎖の長さとかなさそうですし、仮にあったとしてもすぐに成長し短くなって付けられなくなりそう。ブローチか、ヘアアクセサリーを…。


「…あ」


 端の方にちょこんと置かれたヘアアクセサリーに目が止まる。


 鮮やかな青いリボンと、その中心に楕円形の…レジン?に小さな白い花――かすみ草かな?――が閉じ込められた飾りが付けられたリボンバレッタ。

 手に取り――視線の隅で真面目な顔でじっと私を見守るおじさんと、驚いたようなどこか期待しているような表情で凝視してくる少年がいたが、なんだろう――自分の頭に当ててみる。青銀の髪に青いリボンが映えて我ながら似合っているのではなかろうか。リボンバレッタを頭に当てたまま兄様たちを振り返る。


「にいさま、にいさま、にあいますか?」

「すごく似合っている。可愛いよ、ユニシェル」

「可愛い。ユニシェルにピッタリだ」


 兄様たちも絶賛してくれました。よし、これに決めます!

 満面の笑みを浮かべ、兄様たちを見上げる。「それでいいの?」と確認されたので元気よく「はい、これがほしいです」と答える――と同時に後ろにいた少年が突然大きな声を上げた。


「よっしゃあ!」

「ケネス! お客さんが驚くだろう!」


 おじさんが少年――ケネス?くん――を叱咤するが、ケネスくんは気にせず真っ直ぐこちらに向かってくる。呆然とする私の目の前までくると、満面の笑顔で口を開いた。


「それ、気に入ってくれたのか?」

「え? あ、はい。とてもきれいでかわいいです」

「そっか! さんきゅ!」


 なんでお礼を言われているのですか、私? 訳が分からず見つめ返す先で、おじさんがケネスくんの頭を(はた)いた。力加減はしていたようだが、すごく痛そうです。


「『ありがとうございました』だろう!」

「いってぇ! あー、うー…『ありがとう、ございました』」


 (はた)かれた頭を抑え、涙目でおじさんを睨み付けてからケネスくんはこちらに頭を下げましたが…だから、なぜ? なぜ私はお礼を言われているのですか。


「もしかして、これ…君が?」

「おう!」


 ――あ、なるほど。

 先程の様子からして、これは初作品か何かでお父さんの作った商品の中に混ぜて誰かの目に留まるのをドキドキしながら待っていたのですね。そして見事私が手に取った、と。


 というか、ケネスくん、いくつくらいなのでしょうか。見たところ私の2つ3つ上? もっとかな? たぶん、兄様たちほど離れてはいなさそう…まだ年齢2桁はいっていない気がします。そんな子どもが、もうお父さんと同じようにアクセサリー作ったりしているんだ…凄、い…?


 ――ちょっと待って。


 何か引っ掛かる。ケネスと言った? 私、その名前、知って…え、まさか。だって…?

 密かに混乱する私には気付かず、おじさんとケネスくん、兄様たちの間でお話は進みリボンバレッタは無事購入した模様。ケネスくんがものすごく嬉しそうにカイン兄様からお代を受け取り「お買い上げありがとうございます!」と勢いよく頭を上げてます。ケネスくんはそのままこちらを向き、満面の笑顔を浮かべました。


「大事にしてくれよな。俺の初作品なんだから!」


 ああ、この人懐っこい、太陽のような笑顔。ガッチリ()()()()()()と重なりましたよ、間違いありません。彼は攻略対象の1人、ケネス・キザシ――バザーで出会う旅の商人です。まさか、この歳でも第二日曜日の出会いイベントが起こるとは…。12年後には旅の商人になる彼も、今はまだ見習い…んん? 見習い? あれ、ゲームの彼はアクセサリー職人ではなかった、はず…? どういうことですか、これ??

 いや、今は混乱している場合ではない! このチャンスを生かさねばなりません。ここで会ったが100年目、逃がしてなるものか攻略対象――! メインストーリーをハッピーで終わらせるため、なって頂きます好感度バリ高のマブダチに!


「ありがとうございます。ずっとたいせつにしますの」


 リボンバレッタを大事に胸に抱え、満面の笑顔を向ける。ケネスくんは笑顔で「おう!」と元気な返事をくれました。


 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 ケネス・キザシ。ゲームでの彼はユニシェルより4歳上の20歳。第二日曜日のバザーで出会い、そこから仲良くなっていく旅の商人さんで、性格は明るく人懐っこいわんころ陽キャ。商品の仕入れなどであちこち行くのでめちゃくちゃ顔が広い上に、面倒見がすごく良い。さらには性根が真面目で正義感が強いため他キャラの攻略時にもお助けキャラとして『FANTASTIC(ファンタスティック) CONCERTO(コンチェルト)』最多の登場数を誇る便利キャラです。

 彼自身のストーリーももちろん良いのですが、他キャラ攻略中にヒロインを励ましてくれたり相談にのってくれたり背中を押してくれたりと個人的には親友ポジションな彼の方が好きです。友人になりたい!とゲームやるたびに思っていました。知り合えてすごく嬉しい。絶対友人になりますよ!


 ただ、気になることもいくつか。


 ゲームでは旅の商人であったケネスくん。

 根無し草で、旅先で手に入れた珍しいものを王都のバザーで売る、みたいなことをしていました。決まった拠点を持たないため、最初の出会いから2週間以内に親密度を一定以上にするとイベントが起こり「しばらく王都を見て回るかな。旅はちょっとお休み」と言って留まり、親密度が足りずに2週間が過ぎると再び旅に出てしまうのです。


 しかし、今の彼はアクセサリー職人を目指している? このゲームとの差異は何なのでしょうか。良い事なのか悪い事なのか…現時点ではわかりませんが、気にはしておいた方が良いですよね、これ。ケネスくんのイベントを一通り思い出してじっくり考察です。正直親友ポジションなケネスくんが好きすぎて彼自身の攻略は一巡しかしていなかったですごめんなさい。頑張ってください私の記憶力!


 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


「えっと、けねすくん?」

「なんだそれ。ケネスでいいよ」

「ありがとうございます。ゆえはゆにしぇるといいますの」


 リボンバレッタだけで十分ですと主張する私に、他にもアクセサリーを買おうと全力で勧めてくる兄様たちに、「ではにいさまがえらんでください。ゆえ、にいさまがえらんでくださったものがほしいです」と言ってみました。結果、真剣にアクセサリーを選ぶ兄様たちとあれこれ説明しつつオススメしてくださるケネスくんのお父さんの横でケネスくんもといケネスとのお喋りタイムをゲット!です。


「ユニシェルはこの街に住んでんの?」

「はいです。けねすはここにすんでませんの?」

「俺は王都(ここ)から歩いて1日くらいの村に住んでるよ。今日は父ちゃんに無理言ってついてきたんだ」


 村の話はゲームでもちらほら出てました。ケネスの()()()として。


 ケネスの故郷の村は、ゲームでは災害か何かで滅んでしまい、ケネスの家族もその時に…と言う話を日常会話の中でしていました。つまり、これからケネスの村に何か災害が起きてケネスの家族が犠牲になってしまうということ、ですよね。そして、それが原因かきっかけかで、ケネスはアクセサリー職人を諦める…?


 速くなる鼓動を落ち着けようと、胸をぎゅっと抑える。


 ゲーム内のケネスは『故郷が滅び家族を失っている』。でも、今目の前にケネスは故郷がちゃんとあって、家族がいて、きっと村も平和で…幸せ、で…。

 きちんと知っているわけではありませんが、今の私は()()()()()()()()()()()()()()()()ことになります。これを回避しようと何かをすることは、未来を変えることになるのでしょうか。それは…許される、こと…なので、しょうか…。

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