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 宣言通り、ローレル先生が話を通してくださいました。やはりと言うか予想通り父様は渋りまくりましたが、兄様たちが2人がかりで説得してくださり、私自身も全力でお願いした結果、なんとか父様から許可を頂けました。勝利!

 ただし、まだ4歳児なので当分は基礎体力作りを中心にと言われました。しばらくは剣を触れさせてはもらえませんが…そこは仕方ないです。いきなり剣を持たされても私も困ります。なんせ前世では帰宅部の引きこもり喪女。体力に自信もないし運動神経なんて皆無でしたからね。今世はきっと前よりはマシ、なはず。兄様たちと同じ血が流れているのですから、スペック自体は希望を持てると信じます。開花させるための努力も頑張る予定です。頑張れ、私!


 魔術の方も、兄様たちと同じ先生に決まりました。こちらはまずは知識をしっかりと付けるようにとのこと。つまりは座学中心。居眠りしないよう気を付けなければいけません。いや、でも魔術を習うとか、めっちゃテンション上がります! だって魔術ですよ! 厨二病と言われようとも火を出したりするのには憧れます! めっちゃやる気ですよ、私!


「くれぐれも怪我には気を付けるのだよ? 女の子なのだから、顔に傷でも作っては大変だ」

「はい、おとうさま。ゆえ、ちゃんときをつけますの」


 父様に何度も念押しされました。本格的に剣術の授業が始まったら多少の擦り傷や打撲は仕方ないのでは?と思わなくもないですが、当分の間は走ったり筋トレしたりのはずなので、気安く了承しておきました。怪我のしようがないものね。

 心配性の父様と心配性の兄様たちの話し合いによって、必ず兄様たちと一緒に、と約束させられました。エクセレントも出やすいので私的にはむしろこちらからお願いしたいくらいです。ゲームとは違うので、エクセレントとかはあまり意味が無いかもしれませんが。気分の問題です。


「ユニシェル、無理はしないようにね」

「疲れたらちゃんと言え」

「はいですの」


 今日も兄様たちの過保護は絶好調です。


 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


 屋敷の中庭――運動場として、兄様たちが剣術や魔術を習う時に使用さられている場所。小学校のグラウンドよりも広い――をポテポテと走る私。体力作りの一環として、毎日走るように言われました。その横にぴったりとついて走る、()()をしている兄様たち。まあ背丈が違いすぎますからね。私の走る、は兄様たちには歩く、でしかありません。くうっ、8歳差、辛い。歩幅が違いすぎます。ってか、私に合わせていては兄様たちのお稽古にはなりませんよね? 私に構わずにお先に行ってください。居た堪れないのですよ!


「にいさまたちはおさきにいってください。ゆえにあわせるひつようはないです」

「一緒にと約束したよ、ユニシェル」


 笑顔のアベル兄様に即答されました。いやだから、それでは兄様たちのお稽古になりませんて。まあ私の知らない所、主に私のお昼寝時間(タイム)辺りに兄様たちは兄様たちできちんと走り込みや筋トレをしているらしい――メイドさん情報――ので、兄様たち的に今の時間は妹のお世話、という感じなんでしょうか。

 2周ほど走ったところで兄様たちからストップがかかりました。いきなりたくさんやるより、少しずつ毎日やるのがいいのだそうです。筋肉痛にならないように入念にストレッチをやり水分補給。昔懐かし学生時代の体育を思い出します。


 ゲームとは違い、1日に1項目しか出来ないわけではないので割と出来ることは多い。


 朝はご飯の後に走り込みとストレッチをして剣術の授業がある日はローレル先生の指導の元軽い筋トレをしたり兄様たちのお稽古を眺めたり――先生曰く、見取り稽古と言ってこれも立派なお稽古になるらしい――先生のお話を聞いたりします。昼ご飯の後は私はお昼寝時間(タイム)。4歳児の体力値、低い。仕方ないことですが、生前過労死するのではレベルで毎日がむしゃらに働いていた身としては歯がゆい気持ちが。いや待て私。社畜と幼女一緒にしたらダメ。落ち着きましょう。


 お昼寝から覚めたら魔術の授業がある日は兄様たちと一緒に授業を受けます。


「魔法には属性、火、水、風、雷、地/緑に光、闇の7つがある」

「ちとみどりはいっしょ?なのですか?」

「元々は分かれておったが、何故か地が得意な者は緑も得意でのう。いつからかこれはセット扱いになっておった」


 セットって。いいのか、それ。割とアバウトというか大雑把というか…そういう世界観だから、いいのか。いいとしましょう。


 魔術の先生はまさに魔法使い!といった風貌のおじいちゃんです。ツルッと禿げ上がった頭に白いふさふさのお髭、シワの深いお顔にはにこにこと人の良さそうな笑顔が常備されていて、なんだか縁側に座ってお茶を飲んでいそうな雰囲気。お名前はライアン・トライベッカ。ゲームでは名前だけ出てきた方で、後に魔術師見習いとして登場する攻略対象の祖父なのです。

 これはチャンスです。休憩時間の軽い雑談で、うまくお孫さんの話に持っていけば知り合えるのでは? カイン兄様が魔術院に所属するまで待っていては、好感度上げの期間が限られてしまいますからね。


 ひとまず授業です。ステータスアップ、カンストまでいくためにも真面目に受けなければいけません。


「魔術を扱う者に限らず、この世界に生きるものは皆、この属性に割り振れられており、自身の属性の魔術とは相性がとても良い。威力が大きくなったり、制御しやすかったりじゃな」

「それはどうしたらわかるのですか?」

「それを調べる為の魔導具があっての。透明な水晶の玉で、触れると色が変わるのじゃ。火属性なら赤、水属性なら青といった風にの」

「私は水、カインは風だよ」


 魔術の授業は基本、先生が話して私が気になった箇所を質問、先生が答えてくれる。兄様たちはすでに習った箇所なので、こうして補足してくれます。これ、兄様たちにめっちゃご迷惑かけていません? 剣術といい、申し訳ない。そう言ったらカイン兄様から「基礎は大事。復習になる。むしろ助かる」と言われ頭を撫でられました。うん、バリ甘。


「ゆえはなにぞくせいなのでしょうか」

「ほほ、次の授業で調べてみるかの」

「はい! ぜひおねがいします!」


 ゲームでは、最初のヒロインを選ぶ画面で名前――ユニシェルは固定でしたが、召喚ヒロインの方は入力出来ました――と誕生日、血液型を入れると属性が決定していましたが…今の私の場合はどうなるのでしょうか。ちょっと楽しみです。


 私の体力を慮ってか、剣術の授業と魔術の授業は同じ日にならないよう調整されました。各週2で剣術が月木、魔術が火金で水曜日は今のところなし。なので、空いた時間は読書などで自習。これで少しでもステータス上がっているといいのですが。ああ、ステータス画面が見たいです。チェックさせて。


「ユニシェル」

「はい? どうかしましたか、かいんにいさま」


 休憩時間、お茶とお菓子を頂きつつどうやってトライベッカ先生にお孫さんの話を振ろうか考えていると、カイン兄様に話しかけられました。


「明後日、街でバザーが開かれる。興味あるか?」


 なんと! それは月2回、第二第四日曜日に開催されるバザーですか!


 このバザー、街の中心にある広場で開催されるもので王都以外の場所から来た行商人たちが店を出すので普段は見ないお店や商品がたくさんあります。食べ物の屋台も多数あり、まさにお祭り。さらには攻略対象とのイベントも盛りだくさん。


 日常イベントとしてたまに攻略対象と遭遇、会話イベントが発生したりもするのですが、何より大事なのは攻略対象のうち2人、商人と吟遊詩人との出会いイベントが発生するのがこのバザー。第二日曜日には商人、第四日曜日には吟遊詩人さんと会えて、知り合った後はちょこちょこと他の日にも会えたりします。他のキャラよりも確率が低いのが難点。その分攻略難易度は低めなので良いのですが、現時点ではまだ2人は現れないでしょう。年齢的にまだ2人とも商人でも吟遊詩人でもないでしょうしね。


 他には好感度を上げてからバザーにくると、各キャラとのデートイベントも発生。王子を攻略中は特に大事。なんせこのバザーでお忍びで城下町に遊び――本人曰く視察――に来ている王子との遭遇イベントをやると、その後城下町でも王子と会えるようになり、王子の必須イベントのフラグが建つのです。フラグ大事。


 現時点でのイベントはないでしょうが、いずれ起こすためには街に行かなければいけません。今から街に慣れるのは後々のことを考えれば必要です。何よりバザー、気になります。


「ばざー、ぜひいってみたいです!」


 目を輝かせて元気よく挙手する私にカイン兄様が頷き、その横でアベル兄様も顔を綻ばせました。


「朝イチだと混雑しているから、ゆっくりめで行った方がいいかな」

「欲しいものがあるわけではない、それでいいと思う」


 兄様たちとお出掛け決定。楽しみです!


 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇


「うわあ…!」


 第二日曜日。兄様たちに連れられバザーに来ました。

 朝イチはお目当てがある人たちがどっと押し寄せ混雑するとのことで、午後になってからゆっくりと来ましたが…それでもやはりすごい人。所狭しと立ち並ぶ屋台にはさまざまな商品が並び、声を張り上げ客寄せする商人さん、商品の説明をしていたり値段交渉するお客さんなどで活気に溢れています。


「欲しいものや気になるものがあったら遠慮なく言うんだよ、ユニシェル」


 至近距離で笑顔のアベル兄様がこれまた甘やかしセリフを言っております。至近距離。顔が近い。なぜなら抱っこされているから。抱っこです。はぐれないように、とのことですが、そこは手を繋いでいれば良いのでは? 良いはずです。そう主張しましたが、人が多くて危ないからと却下されました。解せぬ。


「ユニシェル。食べるか?」


 カイン兄様が指し示したのは…なんでしょう、あれ。チョコバナナ? 棒に刺さった何かにチョコがたっぷりコーティングされています。しかしバナナと違って丸い。チョコでコーティングされているのだから、たぶん甘味ですよね。気になります。


「たべたいです」


 興味津々で答えれば、カイン兄様が直ぐに屋台に行き3つ買ってきてくれました。お礼を言いながら1つ受け取り観察する。大きさはピンポン玉ぐらいでまんまる。しっかり隙間なくチョココーティングされているため中身はわかりません。観察していてもわからないので、齧り付く。中身はカステラのようなふわふわのスポンジでした。美味しい。

 もぐもぐと咀嚼しているとカイン兄様は一口で食べ終えたらしく、食べ終えた棒とまだカステラチョココーティングが刺さっている棒を持ったまま。アベル兄様の分? あ、私を抱っこしていて両手が塞がっているからですね。私の視線に気付いたカイン兄様が手を差し出して食べ終えた棒を受け取ってくれました。


「かいんにいさま」


 棒を渡した手をそのまま差し出し、カステラチョココーティングを見る。カイン兄様はちらりとアベル兄様に視線を向ける。アベル兄様は笑顔で頷き、それを確認したカイン兄様がカステラチョココーティングのついた棒を渡してくれました。


「あべるにいさま、どうぞ」


 にこにこしながらアベル兄様の口元にカステラチョココーティングを差し出す。所謂「あーん」である。兄様たちは驚いたように目を見開きました。うん? どうしたのでしょうか。

 ――あ、もしかして私がアベル兄様の分も欲しがったと思われた? いやいや、さすがにそこまで食い意地張ってませんよ。

 止まったのは一瞬。アベル兄様は嬉しそうに笑うと一口でカステラチョココーティングを食べました。私は二口だったのに、4歳児はやはりあれこれ小さい。


「ありがとう、ユニシェル」


 アベル兄様のはにかみ笑顔、頂きました! 至近距離、眩しいです。

 ゴミを受け取ったカイン兄様がぼそりと「アベル、ずるい」と呟いたのが聞こえました。妹のあーんはそんな羨むような価値があるのですか。後でカイン兄様にもしますね。

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