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その2

「新しい家は、どうするの?」

缶ビールの蓋をプシュッと開けながら、アタシはレインに声をかけた。画面の向こう、レインの前にも白い缶が置かれている。今夜は、やっぱりちょっと飲みたくなっちゃった。

「んー。それなんだよね。」

レインはそう言って、缶ビールをひと口飲んだ。

「お袋も年だし、もし俺が帰ったことで…万が一のことがあっちゃいけないし。それに実家から会社は遠いしね。長距離通勤のリスクは、今は避けたいな。」

「そうだよね。」

「不動産屋の現状もどうなってるか分からないし、物件巡りも今は微妙だよね。とりあえずこっちの家の片づけは後回しにして、ホテルにでも連泊して状況確認しようかなと。」

「…ホテルか。」

「まあ、でもホテルでも感染者が無申告で泊まってて問題になったり、安心とは言えないからね。不特定多数の人が出入りするわけだし…正直、悩んでるよ。」

そう言ってまたレインはビールをグイッとあおる。アタシもちびちびと缶をすすりながら、一緒に考えていた。

「不特定多数の人と一瞬だけ会うのと、特定の一人とずっと一緒にいるの。どっちが問題かなあ。」

「…何の話?」

「答えて。どっちだと思う?」

「分かんないよ…どっちも、どっちじゃない?」

「仮に、その人がテレワークしてて、あんまり外に出ない。買い物くらいしか出かけない。ここ1ヶ月以上そんな状態で、体調も良好。」

「それって、もしかして…。」

自分に都合の良い考え方だとは分かっていた。感情的な部分がたくさん入っているとも。

「うちに、おいでよ。狭いけど、二人で生活できるくらいのスペースはあるから。」


レインは一瞬、口ごもった。

「それは…。」

「分かってる。アタシがそうしたいのが一番の理由だって。でもさ、それだけじゃないんだ。たぶん、いちばん人との接触が少ないのが、うちに来ることだと思うから。」

「…どういうことか話してみて。」

「とりあえず、終息するまで、うちにいればいいと思うの。そしたら家を探す必要もないよね。物件はネットで探せても、内見、契約、引っ越し作業。どれだけの人と接触するか分からないよ?うちに来れば、ぜんぶ必要なくなる。」

レインは無言でこっちを見ていた。

「数日だけならホテルでもいいけど、終息するまでなんて泊まれないでしょ?家は絶対に必要なんだからさ。」

「でも、俺がサニィに移したら…。」

「そんなの、お互い様じゃない。いいの、どっちにしてもアタシは部屋から出なくても仕事できるから。何なら買い物もぜんぶレインに任せて、一歩も外に出なくたっていいよ。そしたらレインも安心でしょ?」

「いやあ、それはいくら何でも。」

「冗談だけど、冗談でもないよ。本気でそう思ってる。アタシだって感染したくないし、それ以上にレインに感染してほしくない。だから、現状でアタシが思いつく限り、これが一番の方法なんだ。」

アタシたちは千キロ以上の距離をインターネットでつないで、見つめ合っていた。

「あとはリスクを減らせるとしたら、レインが会社を辞めて、札幌のその部屋にこもって終息を待つくらいじゃない?どうせ帰ってこなきゃいけないんだよ。ね、そうしようよ。」

「…今回も、サニィの押しに負けたな。」

そう言ってレインは優しい表情を見せた。

「家賃はちゃんと折半するよ。生活費もね。こっちは家賃も安いから、とりあえず家具はこっちに残して、そっちで生活しながら様子を見ることにする。それで、いいかな?」

「うん!決まりだね!」

「ありがとう、サニィ。俺もそうさせてもらえたら安心だよ。でも、身勝手な話だと感じてた。サニィがちゃんと論理的に説明してくれて、納得させてくれたから。」

「まあ、真意はだいぶ違うとこにあるけどね。」

「俺も。」

二人して声を出して笑った。

通話アプリに、ハグ機能があったらいいのにな。



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