GERO
靴の反響音がこだまする。
後ろが気になるその小さな女の子は、鼻水を啜りながら夕日に焼ける長い裏路地を走っている。
日が翳り始めた頃に見た大きな翼のシルエットが見間違いじゃなかったことに恐怖した。
何かの予感はしていた。誤りであってほしいと願ってもいた。
それがこんな形で現実になろうとは思いもしてなかった。
背後の上方から聞こえる羽音は、夜鬼でないことを大人の事情で祈るばかりであった。まっ、日暮れだけど少年じゃないし、セーフだよね。原作は十二巻買いましたぜ。と、小心者のナレーターは言い訳を重ねた。
女の子の限界は近づいていた。
羽音がすぐそばで聞こえている。そうだあの角を曲がろう、後はどうなってもいいと女の子は思った。
羽音の主は獲物の体力がついえて動けなくなりあらがうことも出来ない絶望の中で捕食しようと、すこぶるマナを内包した獲物を追い詰めるのだった。
目的の角の影に素早く入れば、追っ手から逃れれらるかもしれないと希望をつなぎ重い足を運んだが、さあという段になって酷使した足がもつれバランスを崩してしまった。
大地にキスをする直前、伸びてきた腕の引き寄せられる。
「チーム・エルダー 一番槍、いきますわよっ!」
「「「「「Oh-----!」」」」」
戦闘服の少女達は、羽音の主に対峙した。
抱き上げられた女の子は、先輩達の活躍を音として聞きながら、マッサージで顔を埋める馬蹄型の枕に似た大人ボディの渓谷に缶ビールを飲んでんのにもかかわらず変身して走らされた腹いせなのか、意趣返しとばかりにレインボーフォールを敢行した。お腹をぎゅっとされて堪えなかっただけなんだけどね。
間近で悲鳴を聞きながら意識を手放すのだった。
巴把は、重くて痛い頭と空っぽのはずなのにナニかがこみ上げてくるおう吐感に蝕まれていたが、社会人の端くれとしてなんとか体調不良による有給休暇を職場へ入れた。
昨夜のこと風呂場で姪甫によって体は洗われて床についたまでは覚えている。本来なら浴場だけに全裸の姪甫に欲情しそうなものだが自宅には譜衣の状態で運ばれ、心身共に戦闘不能状態だった。
寝床でやっと変身を解いたが時既に遅し。たった一缶のビールでごときで二日酔いとなってしまった。
『あっ、安上がりでイイかも』と後日思ったとかは定かではない。
体調を戻した譜衣は次のミーティングで囮役となった成果を聞かされた。
譜衣のすぐ後ろに迫っていたのは巳吾、空鬼のほか夜鬼、点打路素の猟犬も確認された。噂では吐瀉物で胸を汚されて慌てた姪甫が胸をはだけると猟犬が狼になったとか。
年に1回から2回行われる他チームと合同で行うミッションで日時の決定は突然行われることが多い。
囮役には戦闘力は低いがマナを多く持つものが選ばれ、今回譜衣が選ばれ、仕事帰りで缶ビールを呷った直後の巴把が姪甫率いる諸護衆に女子トイレで変身させられて、路地、路地裏を巡回してモンスタートレインを形成していたのである。
それと、も一つあった。どうやら巴把は発症しなかったが譜衣は、花粉症になったようだ。