~ ⅳ,夢 ~
見てはいけないものを見てしまったせいか……それとも、食えもしないのにLサイズのピザを二枚頼んでしまったせいなのか、その日の夜は不思議な夢を見た。
私は、スターという名の軍人になってた。女の割には有能だ――なんて一目置かれているのか、馬鹿にされているのかわからない評判だったが、スターは私と違って美人だった。訓練中は癖の強い長い赤髪を結い上げ、ベレー帽に捩じ込み敬礼する。ぴんっと伸びた綺麗な指先が額で影を作る。そして、彼女の射撃の腕はピカ一だ。
誰もが憧れるスターには、諜報部員の友人がいた。初めは彼女の目付きを好きになれずにいたが、前の戦地にて偶然助けて貰い、そのときに敏い彼女が淋しげに笑ったのだ。
「大丈夫……何もしないわ」
スターは初めて自分が怯ていることに気がついた。仲間とはぐれ、敵地をさ迷い歩き、もう少しで敵に見つかりそうなところで彼女が現れた。
「リンリ」
呼ぶと彼女は、嬉しそうだった。
彼女は彼女であるときが少なかったから、スターの前では子供みたいだった。無遠慮で、無鉄砲で、無邪気でいて無知――演技をしていたのかもしれけれど、スターとリンリは、なかなか会うことは出来なかったが心は繋がっていた。
そんなある日、敵国の攻めが激しくなり、なんとか飛ばしていた伝書も出来なく、潜入していたリンリ含めた諜報部員ら行方がわからなくなってしまった。
そして、スターも前線へと向かわされ、白兵戦にて泥だらけ血だらけになりながら無我夢中で戦った。「次は私が助ける番だ」と天に誓い、行方不明の彼女の無事を祈った。
そのとき、突入した城の回廊から中庭を隔てた向こう、聳える塔の屋根に黒い影を見つけた。
敵の射撃兵がいる!
スターは迷わず狙いを定めた。戦いで銃のスコープが壊れてしまったにも拘らず、相手に残りの一発を放った。ぐらりと揺れる影。雪がのそっと落ちるみたいにゆっくりと、ゆっくりと…
気づけば戦いは終わっていた。
長き苦しみは過ぎ去ったと、みんなで抱き合った。
その傍らで、「諜報部員は全滅だった」と報告が入り、拷問を受けたその人らと一緒に、頭を撃ち抜かれたリンリが瞼を開けて横倒れていた。