~ ⅱ,流れ ~
広い家から飛び出して、狭い世界へたどり着く。
冷めた我が家からバスで二十分――賑やかなアーケード街を端から端まで歩く旅。お店に入ることもない。お腹が減っても知らないふり。喉が渇いても同じだ。
これは苦行の道のり……
または、心の叫びかも。
道のど真ん中を歩く勇気はなく、そこはもう決められた人達のもの。何もかも手にした人は、停められた自転車にぶつかりそうになりながら歩いたりしない。アウトサイダーに用意されるものは、いつも困難なものばかりなのだ。
私達アウトサイダーは、よく目が合う。
お前は、どこへ行く――尋ねるようにサッと避ける。人に捕らわれず行く者達にはわからないアイコンタクトは、馬鹿丸出しの行いをさせない。
「お、おぉ、あれ…あれっ!」
なんて、中央で仲良く鏡遊びなどしないのだ。連れた女が「マサってば何やってんのぉ」と、間抜け面した男の腕を掴んでいる。
私達はそれを嘲笑って進むのだ。私達は、アウトサイダー。目的を探して歩む、さすらいの旅人だ。
だから、早々とアーケード街を抜け、見つけた公園のベンチでひっそりとする。次の行動は無心で思い描かなければならない。蝉の声を仕分け、噴水の一粒を数える。木の葉を揺らすナンパな風に誤魔化されてはならない。太陽は監視を怠らない。無邪気な子供の笑い声を吹っ飛ばし、注意ばかりする母親など論外だ!
無心になるんだ。
無心になるんだ。
そうすると、ポツっと目の前が澄み渡る――
雨。
公園にいる誰もが慌ててアーケード街ヘ逃げて行く。今日の天気予報は晴れだった。傘を持っているのは子供の引きづる母親とおばさん集団だけ。「お天気雨かしら?」と、私の前を通り過ぎたおばさん集団のひとりが影から這い出したが、「だいぶ曇って来たわ」「天気予報…外れたみたいねぇ」の仲間の声にすぐさま引っ込んだ。
雨は止むことを知らない。
雨は無情に降り注ぐ。
それは、無害な私にも、蝉にも、木の葉にも……木の葉にとったら嬉しいもんかな。ナンパ野郎よりも、濡れ濡れの快感を連れて来るんだ、「気持ちがイイのに弱いの」って夏休み前にクラスでふざけた男子が言ってた。
私の快楽は早かった。身体に貼り付き始めたTシャツに気持ち悪さを感じて、アウトサイダーも一時休戦にアーケード街への流れに乗った。