第3章 32「失われた剣」
殺さないようにって言っても、敵は俺を殺す気満々なわけで、武力行使以外の方法は恐らくない。
ユニアを悲しませたくはない。なんとかして方法を見つけなくては。
と、考えながら三体のシャグルーに同時に襲われていた。
位置や行動がなんとなくわかる。目が開けてから闇のオーラの察知が出来るようになっていた。原因はわからないが、わかるに越したことはない。
「これ以上はマズイな」
何とか一体落とさないと…
落とす…そうか!
シャグルー三体の爪の引っ掻きを急下降することで回避し、方向を見定め一気に突撃する。狙いはやつらの翼だ。
「とりゃ!」
両翼を失ったシャグルーは手足をわたわたさせながら地面に落下した。
「よし!」
倒し方さえわかってしまえば後は位置も行動ももろバレなシャグルーを一体ずつ落としていけばいいだけの作業だ。
そうして戦い続けて数十分程経った頃。
「見えてきました!」
ユニアの指差す方向を見ると、光明寺がもうすぐそこまで見えてきていた。
「よし!行くぞ‼︎」
剣を加速させ、光明寺まで一気に突っ切ろうとしたその時、山道にいる人影が目の端に映り込んだ。
…まずい!
今ここで動ける俺たち以外の人間…つまり…
「ユニア!黒エ…」
黒エルフだと叫ぶ前に俺は黒エルフの魔法攻撃に蜂の巣にされた。
冷たくて、呼吸ができない感覚を覚えて目が醒める。
「う、うぅ…」
頭に水をかぶったのだろう。身体は至る所がジンジンして痛い。切り傷、擦り傷、痣、打撲、骨折、その他色々な損傷をしているのだろう。あの速度で飛んでいきなり落とされて受け身も何も取っていないのだ。当然の結果と納得する。
「起きたか魔王」
髪の毛を引っ張られながら、俺の顔をまじまじと見る中年くらいの男の黒エルフ、上半身は小さめのタンクトップ一枚だと思われるが、タンクトップから浮き出る筋肉が彼がどれだけ強いかを物語る。
「だ、誰だコノヤロー…」
あまりの声の出なさに自分でも驚きながら中年の黒エルフに問いかける。
「私か?私はエルフの王、ドゥラルート。貴様が殺したルーナとラルラートの父だ」
ルーナはサドルカの剣を持っていた黒エルフか、でももう一人に聞き覚えはない。
「貴様は私が必ずこの手で殺す」
そう宣言するドゥラルートを見ながら自分の身体が縄か何かで縛られていることに気がついた。
でも、これだけ近ければ神剣で…
そう思って身体を強張らせるがいつも見慣れた黒の大剣は現れない。
「なんで…とでも言いたげな顔だな」
俺の内心を読んだようなことを言う、ドゥラルートを俺は何も言わずに見る。
「貴様の神剣とサドルカの剣はもう貴様の手元にはない」
そう言われ、確認すると神剣の首飾りもサドルカの剣もどこかへ行っていた。