第3章 30「変わり果て」
マサキ様は『影』から人へ戻ってから何かおかしい。
別に容姿に関してはいつも通りだ。しかし、とりあえず筋力が異常なほどに増加している。
こないだまで、神剣の炎なしでは持ち上げることができなかった炎の神剣を軽々と片手で持ち上げていた。
一番の変化は何と言っても性格である。こないだまで、人一人死なせないように励んでいたはずなのに今は何の迷いもなく既に三人殺している。
「マサキ様…」
私の声はきっと聞こえなかったのだろう。
あなたが今殺したのは先程まで…いや今も『人』である『影』なのですよ。
想いを言葉にはできなかった。
私が…みんなが好きだった魔王マサキはこんな残虐な人間ではなかった。もっと優しくって、敵のためにも涙を流せるような…そんな人間だった。
私たちと『影』となったマサキと戦ったミッダとテニーは『影』となってしまった。
あなたはミッダやテニーさえも、何の迷いもなく殺すのですか?
また新たに飛び込んで来た黒エルフ二人と『影』三体を薙ぎ倒したところで私たちを囲んでいた黒エルフは撤退した。
「ふぅ…」
血塗られた炎の神剣を片手にこちらを振り向くマサキ。
「一回どっかに逃げよう」
そう提案するマサキだが反応する者は誰もいない。みんなマサキの変貌ぶりに驚愕しているのだろう。
「お前…どうしたってんだよ?」
マサキに質問したのは同じ神剣使いであり、鬼の飛鬼。
「俺は何にも変わってないっすよ」
変わってないはずがない。と、言いたかったが、私の口からは何も出てこなかった。
「さ、どこか身を隠せるところを探そう」
呑気にそういうが、実際…
「そうもいかないんですよ…」
私の発言に飛鬼だけが頷く。
「どうして?」
そう言うマサキの腰にあるサドルカの剣を私は指差した。
「その剣は闇の力を大量に含んだモノです。サドルカの民で一番サドルカの近くにいたのが黒エルフです。黒エルフ自身も闇の力を少量ですが持っています」
マサキに、『つまり』と促され続ける。
「つまり、黒エルフは闇の力がある場所がある程度わかるんです。私たちが魔力をある程度察知できるように」
うんうん、と頷くのはまたもや飛鬼だけだ。そいえば国外出身のロウネとユウラ、シンプルに魔力のないマサキには魔力の察知はできないのだった。と、納得する。
「その闇の力の塊みたいなのを持っている状態ではどこに逃げても同じです」
私の発言に周りの人は全員黙り込んだ。そこで口を開いたのは他でもないサドルカの剣を持つマサキだった。
「じゃあアルムスの剣を取りに行こう」