第1章 6「剣と魔法のある世界」
朝起きると庭園で寝ていた。
「あれ?なんでこんなところで寝てるんだっけ?」
そう思って昨日の記憶を思い返してみる。
昨日は…そうだ。ミッダさんに殴られてそれで…倒れたまま寝てしまったのかな?
庭園の入り口の方を見るとそこにユニアが立っていた。
ユニアはマサキに走り寄り
「マサキ様こんなところにいたんですか。部屋にいなかったから心配しましたよ!」
「あぁ、えっと昨日色々あってさ…」
昨日の事をそのまま話したらミッダさんはただのヤバイ人に思える。
しかし、ミッダさんは『鍛えてくれる』的なことを言っていた。
ならば、あまり下手なことを言わない方がいいかもしれない。
「そいえばマサキ様、先程部屋へ行ったときドアがなくなっていたんですけど。何か知りませんか?」
「………」
昨日ミッダに破壊されたドアのことを完全に忘れていた。これは隠しきれそうにない。
「どうしたんですか?」
「じ、実は…」
俺は昨日の事を全て話した。ドアのこと。ミッダさんのこと。ここで寝ていた理由。全て。
「そんな事があったんですか…まぁ鍛えてもらうこと自体は賛成です。しかし、ドアの件に関しては後で問いただしておきます」
ユニアの目が笑っていない。
「まぁまぁ…とりあえず朝食にしよ。腹が減っては戦はできぬってね」
「腹が減っては戦はできぬとは上手いことを言いますね、そうですね朝食にしますか」
ユニアと共に朝食をとり、また昨日の様に庭園での特訓が始まった。
剣を出すことは出来ても振り回す事が出来ない。やはり致命的なのだろう。
「ユニアさんユニアさん。どうやったら剣を持ち上げられる様になりますか?」
「そうですね。今から筋トレなどしてもあの剣は持ち上がりそうにありませんから…」
ユニアは顎に手をあて考え込んでいた。
この剣を持ち上げるためにはこの剣の重量に相応する『力』が必要だ。マサキがその『力』を全て補うのは不可能に近い。
しかし、とりあえず…
「ぬおおおおお‼︎」
全力で持ち上げてみることにした。
昨日と同じく微動だにしない剣を見て少しずつ戦意が失われていくのを感じる。
「マサキ様ではやり方を変えてみましょう。無理に剣で闘う必要はありません。闘技会は別に剣だけの闘いではないので…そうですね例えば魔法とかはどうですか?」
「ま、魔法?魔法があるの?」
異世界まで来て魔法の存在をすっかり忘れていた。
「はい。すごい嬉しそうですね。目がキラキラしてます」
「そりゃあもう!」
魔法があると聞いて急になんだか戦える気がして来た。
異世界転生なら何かしらの特技や特殊能力を持っているのが定番だ。
ならば俺も魔法でとんでもない才能があるなんてことがありえるのではないだろうか?そんな淡い期待をしていた。
「ではまず属性を調べますね」
「属性っていうのは?」
「属性っていうのは、まぁ人が生まれつき持っている魔法の得意分野ですかね。基本的には『風』『林』『火』『山』があります。この剣の特性からしてマサキ様はおそらく火属性だと思いますが…」
ユニアはそういって俺の胸に手を当てた。
なんだか少しドキドキする。
「あれ?」
ユニアが不思議そうにこちらを見ている。
「どうだった?」
俺がそう言うとユニアは
「す、すみません。もう一度調べますね」
そう言ってユニアはまた俺の胸に手を当てた。
なんだろう…嫌な予感がしてきた。
「マサキ様、大変申し上げにくいのですが…」
嫌な予感が当たった様な気がする。
「マサキ様には魔法属性がありません。属性どころか魔力もありません」
なんとなく予想はできていた。
なぜなら元の世界には魔法というものの存在すらなかった。
そんなのが異世界に来ただけで使えるわけがない。
「と、すると…」
俺は剣の方を見た。
「そうですね…」
ユニアも剣の方を見た。
「持ち上げるしかなさそうだね…」
さっきビクともしなかった剣を一週間で持ち上げるのは大変なことだろう。
「すみません。私が昨日あんな大口叩かなければ…」
それはきっと大広間で俺の優勝を宣言したことだろう。
「そんなことないよ。ユニアにとって魔王は無敵の存在じゃないといけないんだから、俺がそれに近づけるように努力するよ」
「マサキ様…」
「まぁ何かしら持ち上げる作戦でも考えますか」
「そうですね」
ユニアはきっと自分にとんでもないことをさせてしまうことになったという責任感を感じているのだろう。
しかし、その責任感は俺の頑張り次第でどうにでもなる。
彼女を悲しませない為にも一生懸命頑張らねば…
そう思った。