第2章 36「眠り誘い」
「これはまた…随分と派手にやりましたね」
呆れたようにユニアは『影の獣』だった青年を見て言った。
彼は肩や足に深い切り傷が開けられている。
それをやったのが自分だと思うと、我ながらよくあんなことを…と、思ってしまう。
「まぁ息はあるようです。彼は傷だけ塞いで、拘束しておきます」
「そっか…」
ユニア達に『黒ローブ』のことを話すべきだろうか?
ただ、現場にいただけというのも考えられる。
でも、やつは確かに『私の部下』とか言っていた。
「マサキ様?」
まだこの事件は終わっていない。ということなのだろうか?
やつは一体何者なんだ?
いったい何がしたいんだ?
「マサキ様!」
「え⁉︎あ、はい。なんでしょうか?」
いきなりユニアに名前を呼ばれ、つい変な返事をしてしまった。
「何をそんな険しい顔をなさっているのですか?」
「あ、いや別に…」
『黒ローブ』のことがあまりよくわからない今、下手に情報を出すのはかえって混乱を招くだけだろう。
この青年が起きてから事情を聞こう。
「ん、んー…ぷはー」
気づけば夜の二時を回り、眠たくなってきてしまった。
そいえば昨日からあんまり寝てないな…
剣から炎を出すために体力も消耗したし、攻撃を受けるために集中力も使った。
こうして振り返ると今眠たいのは至極当然のことのように思ってきた。
「ユニア…」
声をかけて先に眠らせてもらおうと思ったのだが、仕事を真剣にこなすユニアを見て、その気は完全に消え失せた。
消え失せたはいいが今日に限って俺の上瞼と下瞼はとても仲が良いようで、意識していないと数秒に一回、瞼同士が出会っている。
「ユニア、俺ちょっと座ってるね」
ちょうどいいところにあった鉄のイスの上に座り、座り心地が悪く、少し尻が痛いと感じながらも首を折り、浅い眠りにつこうとする。
『黒ローブ』の存在に『外交関係』やるべきことはまだまだたくさん残っている。
その一つずつを解決していけば、いつかきっと誰もが安心して暮らせる平和な世界になるのかな?
やってみないとわからないし、まだまだそれは遠い話だと思う。
一体、何ヶ月いや、何年何十年とかかるかもしれない。
もしかしたら俺の代では全て成し遂げることは不可能かも知れない。
遠い遠い先のことだ。あまり良くない頭で考えたところで無駄だろうと思って、全ての思考を停止させる。
目を瞑り、俺はだんだん眠りへと誘われて行った。