第2章 32「闇に紛れて滴る鮮血」
深夜十二時を回った頃。
情報通り、影のように『獣』が入って来た。
「来たな獣野郎!」
ユウラとロウネはナイフを構え、『獣』と向き合った。
「へぇ武器か、誰にもらったの?大方あのちっこいバカな魔王だと思うけど」
本人がいるとも知らず…なのかそのようなことを口にする『獣』。
「かかって来いよ」
ユウラが挑発すると『獣』は爪を構えた。
睨み合う二人、呼吸があった瞬間、二人は戦闘に入り、一進一退の攻防を続けた。
「っく…」
しかし、ナイフ一本のユウラより二つの爪を持った『獣』の方が手数の多さで上回っている。
じわじわとユウラの身体に切り傷が入る。
「たぁ‼︎」
二人の攻防の隙を見てロウネが攻撃にかかる。
しかし、まるで知っていたかのように『獣』はそこに爪を向けた。
鮮血が散る。
「うぁぁぁ」
ユウラは自分の手を持ってしてロウネに迫る爪を止めていた。
「「ユウラ!」」
俺とロウネの声がシンクロする。
「何?」
『獣』が俺に気づいたようだ。
「なぜここに?」
『獣』の疑問はもっともだ。
普通、この国の人間はいるはずないのだから。
「俺、魔力ないんだよね」
そう言うと『獣』は一瞬黙ってから
「魔王か…今日はこの辺で失礼しよう」
姿が影に沈み始める。
「させっかよ‼︎」
俺は黒の大剣を二本にし、一本を『獣』が潜ろうとする影に投げつけた。
「き、貴様!」
『獣』は驚き影から出て来た。
「対策してこねぇはずないだろ?」
今日、クランから言われたことだ。
『獣』がもし、影に潜ろうとしたらその影に剣を刺せ、と。
影に潜るときは影と身体が同化するから、ということらしい。
「これでお前は逃げらんねぇ」
「調子に乗るな‼︎」
そう言って『獣』は俺に襲いかかって来た。
剣が一本しかない中で戦うのはユウラの二の舞になるのがオチだ。
そう思って攻撃を仕掛けるも俺の攻撃は一切通らない。
「っち…」
「どうした?魔王も大したことないな」
言いたい放題の『獣』に勝つ手段。
何か考えないとまずそうだ。
今までの経験からこの状況を楽にする手段を考える。
その経験がこの世界のことでも前世界のことでも構わない。
一度後ろの壁まで下がる。
「ねぇアンタはなんでここの人達を殺したの?」
時間稼ぎ兼、純粋な疑問だ。
「なんでって、そりゃ俺は人の血の匂いが好きなんだよ。鉄みたいなあの匂いが…」
「だからって殺していい理由にはならないだろ?」
「あ?まぁこの国の人間殺すより、罪は軽くなるし…何より蹂躙したときの快っ感‼︎あれがたまらなくてね」
薄暗い中でもわかる不気味な笑顔を浮かべている。
「狂ってる…」
「おいおい、趣味なんて百人いて百通りあるもんだ。否定するもんじゃないぞ」
「あんたは!俺の友達を傷つけた‼︎」
「あ?」
「俺はお前を許さない…今ここでぶっ潰す!」
それをきっかけに会話は終わり、また戦闘に入った。