第2章 31「昨日の敵は今日の友」
『影の獣』は牢獄の辺りに魔力のある人間がいなくなるのを確認してから侵入して来るというのが俺たちの推理だ。
なのでユウラ、ロウネに俺を含め三人でなんとかしないといけない。
魔力のある人間が入って来ると逃げるということは先のことでわかっている。
というわけで
「今こうなってるわけです」
俺は今日、話し合って出た対策をユウラとロウネに伝えた。
「相手は人間だったんすか」
ユウラは悔しそうに壁を殴った。
「て、いうわけで今から俺ら以外の人たちはいなくなる」
監視の人には何も伝えていないがトイレとかに行くのを見計らって捕まえておいて欲しいとユニア達に頼んでおいた。
ついでに俺が牢獄に入る理由についてはユウラ達と話したいからと伝えたら簡単に入れてくれた。
「じゃ、『影の獣』が来るまでとりあえず待機かな」
俺がそう言うとユウラが俺の元へ近寄り、いきなり跪いてきた。
「な、何やってんの?」
いきなりの奇行に驚きが隠せなかった。
「たのむマサキさん。今日だけ俺たちの武器を返してください!」
「ごめん、君らの武器は処分しちまったんだ…」
「そっか…そうですよねわかりました。無理言ってすみません」
ユウラは気にするなと言わんばかりに笑ってみせた。
「ちょっと待ってて…」
俺はそう言って牢獄を飛び出し、ユニアの元へ向かった。
現時刻は午後九時。まだ『影の獣』が現れるには時間がある。
「ユニア!」
「どうしました?」
「武器…何か余ってる武器ってない?」
ユニアは俺の発言に困惑の表情を見せた。
「まぁありますけど…どうするつもりですか?」
「ユウラとロウネに渡す」
「いいんですか?敵兵と同室で武器を持たせるわけですけど」
そう言うのはユニアと共にいたテニーだ。
「いいよ。彼らに死なれるより全然」
「そうですか…じゃあこれ」
そう言ってテニーは自分のナイフを二本渡してくれた。
「あとで返してくださいね」
「ありがと」
短くお礼をし、俺は牢獄に走った。
「おまたせ…」
俺はユウラとロウネに一本ずつナイフを渡した。
「いいんですか?」
ユウラの疑問はテニーの時と同じだろう。
「人から借りたやつだから、終わってから返してくれればいいよ」
「ありがとうございます!」
ユウラは俺に向かって一礼した。
それを見たロウネもいそいでそうした。
「いいよいいよそんな…」
そのあと俺たちは『影の獣』が現れるのを待った。
途中、監視の人がいなくなったのを見ると、ユニア達に捕まったのだろう。
この牢獄で昨日多くの人間が死んだ…
彼らは敵兵だった。
彼らを憎む気持ちはわかる。
でも、それでも、短い時間でも、共有してきた俺にとって大切な友達だった。
自分の心から情けを捨てろ…
今から来るのは人でも獣でも無い…
俺の敵だ。