第2章 19「黒塗りロボット」
まさかキスした人と同じベッドで寝るわけにもいかず、テニーが眠った後ベッドから抜け出して床で寝ていた。
二人の女性にキスされたことに対する動揺が強く、一切眠れる気配がない。
いつのまにか日が昇っていた。
「マサキ様!おはようございます!」
勢いよくドアを開けるユニア。
「おは…」
急になんだか恥ずかしくなってきた。
「そんなに恥ずかしがらないでくださいよ…」
ユニアの顔も真っ赤だ。
きっといつも通りを装って来てくれたのだろう。
なんだか少し悪いことをした気がする。
「あ…みんなおはよう」
ベッドで寝ていたテニーが目を覚ましたようだ。
なんというか…気まずい。
「あ、あの…朝食食べに行きましょ?」
ちょっとした沈黙を破ったのはユニアだ。
「そ、そうだね」
俺とテニーも同意し、朝食を食べに食堂へ向かった。
それからはほとんど昨日と変わらない一日だった。
三人で戦場を駆け回った。
足を血まみれにしながら相手を戦闘不能にしては縛り上げの繰り返し。
慣れてはいけないと思いながらも血の臭いや火薬の臭い、人の死体の腐った臭いに身体が対応してきた。
そのまま何日が経過しただろう…
一週間くらい経ったのだろうか。
だんだん精神がやられてきた気がする。
このままでは誤って人を殺しかねない。
自分で自分を裏切りかねない。
こちらの国の死者も数多にわたる。
もうこれ以上、人に死んで欲しくない。
ユニア曰く、そろそろ更に強いロボットが出てくるという。
それは予言や感ではなく、これまでの戦争を通してできた予測。
戦争ではこちらの国がある程度の消耗をしたところで毎度毎度、今までより数倍強いロボットが登場してくるらしい。
今まで数度、あの白塗りのロボットと戦ってきたが、剣の刃はほとんど通らない。刃に炎を纏わせてやっと切れたくらいだ。
そいつを倒すために一日はかかった。
それより強いとなるといったいどれくらいの時間や人手がかかるとなるのか…
考えるだけで背筋が冷たくなる。
しかし、そのロボットをさえ倒してしまえば相手は成すすべなく撤退してくれるそうだ。
捕虜の数はもう百人ほどいるだろうか…
それだけ消耗すれば近いうちに姿をあらわすだろう。
そう思っていた、七日目の夜。
そいつはいきなりやってきた。
地鳴りも何もせず、大きい割にとても静かに迫ってきたそいつは、闇に溶け込むための黒塗り、目は赤く光っていた。
そいつの接近に気づいていたのはたった一人。
その人のおかげで俺は生きていた。
城まで来ていたそいつの初撃を相殺したその男はミッダだった。
ミッダのおかげで俺たちは生き残り、そいつの姿を目撃するに至った。
大きさは白塗りのロボットとそこまで変わらない。
一番の変化は機動性。
黒塗りのロボットは大きさとは裏腹にとてもスムーズにとても素早く、静かに移動する。
完全に油断していた俺は急いで外のミッダの元へ向かった。
「おせぇだろうがよ…」
右腕を抑えたミッダがこちらに気づいたようだ。
「す、すみません」
ミッダの右腕は目をそらしたくなるほど黒くなっている。
「俺は一旦退がる、後は任せた」
ミッダは俺にそう告げ、城の中へ向かった。
つまり今は俺と黒塗りのロボットの一騎討ち状態ということだ。
俺は剣を二本にし、敵に剣を向けた。
しかし、予想よりも早く動く敵に対して攻撃することができない。
「ッチ」
避けるのが精一杯。
先程から紙一重のところで相手の拳、剣、銃撃をかわしている。
集中力が底をついた瞬間に負ける。
そう確信した。
それでも相手に攻撃を入れる隙など見つからない。
「手こずってるみたいだね」
その声は誰もいないはずの夜空から聞こえる。
瞬間、不意を突かれた黒塗りのロボットは巨大な拳によって地面に叩きつけられた。
「お待たせ、マサキ」
そういうのは決勝戦で剣を交えたミルド。
「っよ、遅くなった」
後ろから肩を叩かれ、振り向くと修行の日々を共にした飛鬼がいた。
「二人とも…」
黒塗りのロボットはゆっくりと立ち上がって標的を定めた。