第2章 12「遅刻します」
朝、鳥のさえずりで目が覚めた。
時計を見るとまだ六時だ。
昨日は一日中忙しく過ごしていたのでもう少し眠ろうと思い、もう一度眠りにつく。
「…ま」
おぼろげに誰かの声が聞こえる。
「ま…さま」
誰だろう?
「マサキ様‼︎」
声がはっきり聞こえベッドから飛び起きる。
「うわってテニーか。脅かさないでよ」
「今日は妙に遅くまで寝てましたね」
「え?今って何時?」
何か不安が込み上げてくる。
「今は十一時半ですね」
顔からサーっと血が抜けていくのを感じた。
「やばい!」
一応、法律をいじくったものの本当に効力を発揮するかは怪しいところだ。
念のため昨日の処刑場に向かおうと考えていた。
「昨日の昼間にやってたから…」
昨日の処刑場までの道のりを思い出す。
走ってギリギリというところだろうか。
「ごめんテニー、ありがとう」
俺はそう言って壁にかけてあるローブを羽織り、部屋から飛び出した。
途中、法律部に寄り念のため法書も持って行った。
朝食を食べずに走るなど学校の日に寝坊したときみたいだなと思っていた。
しかし、学校の遅刻で命は奪われないが今回の遅刻は人命に関わる。
足がどう回っているのかわからなくなるほど全力で走った。
そして処刑場に着いた。
そこには昨日とほぼ変わらない光景が繰り広げられていた。
「はぁ…はぁ…」
上がった息を整え、大きく息を吸う。
「その処刑待ったー‼︎」
オーディエンスが一斉にこちらを向いた。
その場にいる全員の熱い視線を受けながら俺は処刑台まで上がった。
「すみません。お待たせしました」
処刑される予定だった人達に小声でそう伝え、また大きく息を吸う。
「俺は魔王です!証拠もあります!」
みんなに信じてもらうため黒の大剣を出して見せた。
一同は何やらザワザワし始めた。
「今すぐこの処刑をやめてもらいたい」
俺は兵士に向かってそう告げた。
「無理です刑法での決まりなのです」
兵士は強気にそう言った。
「この国の法律の方が刑法より強いんでしょ?」
そう言って俺は脇に抱えていた法書を取って見せた。
「これは本物の法書です!」
それの裏表紙を見せて続けた。
「処刑を禁じます‼︎」
「っな⁉︎正気ですか?」
「正気も正気だよ。この人達が何しようとしてたなのかなんて知らないけど殺すのは違うと思うんだ」
「じゃあ一体どうしろというんです?」
「とりあえず軟禁かな?後のことはまた決めよう」
「っく…承知しました」
兵士は納得がいかないと言わんばかりの態度で秘密調査兵を連れて行った。
「ふぅ…」
とりあえずひと安心。あの人達の命を救うことができた。
「おい!魔王、なぜ処刑をやめた‼︎」
その声は野次馬たちの方向からだ。
「奴らは死んで当然なんだ!敵の兵士だぞ!俺たちの国の人だって何人も殺されてるんだぞ!」
怒りに満ちた表情でこちらを見てくるのは一人ではない。
声を上げてる髪が薄れているおじさんの他にも周りの野次馬のほぼ全員がそんな感じだ。
「なんでって…」
ここで言葉を詰まらせては自分の行動の説得力が薄れてしまう。
「そりゃ人が人を殺すなんて間違ってるからだよ」
彼らに向けてそう告げた。
「ハァ?なに青臭いこと言ってやがる‼︎てめぇが今見逃したやつが何かしでかしたとき責任取れんのか?」
男は負けずにそう言い返してくる。
まるで昨日の俺たちの努力を否定されたみたいで頭に血が上った。
「あんたは…あんたらは死んだことあるの?」
「バカか?死んでたらここにいねぇだろ?」
「そうだ…死んだらいなくなっちゃうんだ。確かに彼らを恨むのはわかるよ、俺にだって。でもね…『死』っていうのはとてつもなく恐ろしくて怖いんだよ」
自分が死んだときのことを思い返す。
身体から血も意識もドンドン外に出て行って何もなくなってしまうような感覚を。
「あんたらは今、彼らを恐怖のどん底に落とすことを望んだんだよ?わかってるの?」
つい言葉が感情的になってしまう。
「人が苦しんでいるのを見るのは楽しいか?自分たちが処刑される側の立場でも同じこと言われて仕方がないと納得できるのか?」
男に向かって言葉をぶつけ続ける。
「無理だろ?できないだろ?じゃあなんで言ったんだ?自国の人が死んだら敵国の人が死ぬのも当然ってか?随分とガキの喧嘩みてえなことしるじゃねぇか!」
俺の言葉に圧倒され男は尻餅をついた。
「俺は…誰にも死んでほしくない!敵国も自国も関係ない‼︎だから…」
俺は処刑台から飛び降り、男の元へ歩いた。そして、屈んで男に手を差し伸べた。
「だから人の死をそんなに望まないでくれ」
できるだけ穏やかな声と笑顔を心がけてそう言った。
いつのまにか演説のようなことをしていた。
周りから少しずつ拍手が聞こえる。その音は大きくなっていった。
急に恥ずかしくなったため周りの人に一礼してから城まで全力疾走で帰って行った。




