第7章 52「ことの代償」
尊い命に敬意を払って合掌のようなポーズをして、目を閉じる。
カサ……カサカサ
「ん?」
目の前の物音に片目を開ける。
そこにいたのはフラフラと立ち上がるケルペロス。
「うぉ、おぉ……」
少しばかり衝撃を受けて地面に尻餅をついた。
ケルペロスは生まれたての子鹿のような、ボロボロの中立ち上がるマンガの主人公のような感じでゆっくりと立ち上がった。
「あ、言い忘れてたけどケルペロスは心臓が三つあってね、三つ取られるまでは死ねないんだ」
「え、死ねないって言っても……」
左右二つの首がまたハァハァと舌を出しているなか、
「真ん中だけなんかグッタリしてるんですけど」
そう、真ん中のブルドッグだけは今も項垂れている。
まさか、心臓一つにつき一匹死ぬのか?
俺がもう一度合掌のようなポーズをとり、気持ちばかりの祈りを捧げる。
ごめんなさい。どうか、どうか成仏してくれ。
そしてもう一度片目を開くとそこには元気な三つ首のブルドッグが舌を出してハァハァと言っていた。
「は?」
「えーっとね、ケルペロスには一つ『不死の呪い』ってのがかけられていてね。心臓が一つでも残っていれば他のを蘇生することが出来るんだよ。だから、死ぬときは心臓が一気に三つ潰されるか、寿命を迎えるしかないわけ」
納得はいかないが、安心した。たかが左手のために動物の命を犠牲にするんじゃ寝覚めが悪いなんてもんじゃない。
「さ、じゃあ次いこうか」
「次って……」
「もちろん、左手の修復に使うものさ」
ここで当初から疑問に思っていたことを口にしてみた。
「あの、左手の修復にどれだけの素材を使うんですか?」
「う〜ん、そうだねぇ」
シグマは両手を駆使して数えてるようだが、いくらなんでも量が多い。両手の指はもう二回くらいグーまで辿り着いている。
「う〜ん。ざっと三十ってとこかな」
「三十⁉︎」
左手の修復にそれだけ使うのか……じゃあ、
「左手で三十なら、人一人……っていうより魂を修復するためにどれだけの……」
「あぁ、そうだなぁ、命の代償は命じゃないと払うことが出来ないんだ。あれだけの闇の力に魔力を持つ者と等価になるような数だからそうだなぁ……少なく見積もって十人ってとこだな」
俺は息を飲んだ。一人の人の魂を修復にするのに十人以上の人が死ぬ。
三大禁忌魔法……俺が思っていた以上に代償が大きいようだ。
「あの……」
「あぁ、大丈夫。僕が考えている素材の中に命を奪うようなモノは入っていないよ」
そう言われて安心する。
「君は本当に優しい人間だ。僕は君みたいな魔王を応援したい。そう思うよ」
そう言ってシグマは俺に微笑んだ。




