第7章 51「人体の不思議」
人の体は……確か六割くらい水なんだっけ?
あとは骨はカルシウムだし、血は鉄の味がするから鉄分とか?あ、肉はタンパク質か。
ということは俺の残念な脳みそで考えた左腕の材料リストは水と牛乳、鉄、肉。
料理にもならなそうだ。鉄ってところが特に酷い。
「シグマさん、材料って何を使うんですか?」
知識に限界を感じ、シグマに材料を問う。流石に近いものくらいは出てくるとは思うが……
「う〜ん、まずはねぇ。ケルペロスの心臓かな」
「………………?」
ケルペロス?ケルベロスじゃなくて?
ケルベロスって言えば三つ首の犬だ。だが、犬といってもトイプードルのような可愛げのあるやつじゃない。どちらかといえば狼のような顔だった気がする。
ゲームとかならば強い系統のキャラクターだ。
そんなのの心臓って……大丈夫なのか?
「あ、いたよ」
どうかあまり怖い見た目じゃありませんように……という願いが神様に通じてしまったようでケルペロスという魔獣は俺が思っていた見た目とはかけ離れたものだった。
「シグマさん。なんの心臓でしたっけ?」
目の前にいるのは可愛い三つ首のブルドッグだ。大きさも俺の膝下くらいしかない。
こちらを見て怯えもせずに三つとも舌を出してハァハァしている。
「ん?そこにいるケルペロスだよ」
そう言ってシグマは三つ首ブルドッグのことをケルペロスと呼んだ。
「……」
俺はしばらく三つ首ブルドッグことケルペロスと見つめあった。
「シグマさん。俺、左手いらないかも」
「何言ってんの⁉︎」
こんな可愛いやつを屠って心臓を抉り出すなんてそんな酷いことできない。情が湧いてしまった。
「ちょっとどけて、僕がやってあげるから」
そう言ってシグマはクルクルとナイフを回しながらケルペロスに近づいていく。
「え、まさか殺すんですか?ケルペロス」
「当たり前だろ、心臓が必要なんだよケルペロスの」
いつもよろこんで牛肉や豚肉を食べている身だが、なんというか可哀想に見えてくる。
「本当にやるんですか?」
ケルペロスはシグマを見て不思議そうな顔をしている。今から自分が何されるかもわからずにただ目の前の人間に興味を示しているのだ。
「大丈夫、痛くしないから」
シグマは胸ポケットから取り出した杖でケルペロスに魔法をかけた。何かはわからないが、その瞬間からケルペロスは動かなくなった。
俺はもう見てられなくなり、背中を向けた。
ごめん、ごめんよケルペロス。
「ふう、取れた取れた」
そう言ったのをきっかけに振り向くと右手にナイフ、左手に心臓であろう血塗れの塊を持つシグマがいた。
その足元には胸部が開かれたケルペロスがいた。
俺はそれに向かって合掌するように右手を立て
「ごめんね」
と、一言言った。




