第1章 2「勇者でなく魔王になっていた」
「うぅ…」
俺は生きてるのか?
ゆっくりと目を開いた。
「ん?」
天井がとても高い。
身体を起こしてみると、一切痛みを感じない。
不思議に思い、服の上から触っても痛みは何もない。
服装もいつの間にか家でよく着ていた黒のジャージになっている。
「アレ?」
確か俺は学校で刺されたはず。どういうことだ?
そんな言葉が頭をよぎった。
「おはようございます」
「っうわ!」
ベッドの横には腰に剣をぶら下げた女の子が立っていた。
髪は綺麗な短い金髪で赤色の瞳をしている。
とても綺麗だ。
「どうしたんですか?私の顔に何か付いていますか?」
「い、いえいえ何も」
ジッと見つめ過ぎたらしい。
「はじめまして魔王様、私はお目付役のユニアと申します。これからよろしくお願いします。」
「っえ?」
「どうしたんですか?」
「俺が魔王…ですか?」
「はい」
「じゃあここはいったい、日本ではなさそうだけど…」
「ニホン?ここはサファラ王都の魔王城ですよ」
「サファラ王都?魔王城?」
一切聞いたことがない。が、これは思春期誰もが夢見る『異世界召喚』ってやつなのかもしれない。
「魔王様?」
でもだとしたらなぜ俺が魔王?異世界転生なら勇者が王道だろ?なぜ魔王なんだ?
「魔王様!」
「あ、そっか俺か。ごめん聞いてなかった」
「何をぼーっとしているのですか?」
「い、いやなんでもない」
「そうですか、魔王様のお名前はなんというのですか?」
「名前?名前は…」
さっきのユニアという名前からして苗字とかは言わない方が賢明か。ならば一応…
「マサキ、と言います」
「マサキ様ですか。改めてこれからよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
魔王マサキ…あまりしっくりこない。
「では魔王様、こちらをどうぞ」
ユニアから渡されたのは赤い宝石の付いた首飾りだった。
「これは?」
「まぁ魔王になるための証と思っていただけたらいいです」
「へぇ」
とりあえず着けてみると全身が燃えはじめた。
「っうわ!あっつ!アレ?あっつく…ない」
火は鎮まり消えていった。
「今のは?」
「魔王様が魔王と認められたということです。では行きましょう、皆の元へ」
ユニアに連れられて大広間のようなところへ着いた。そこには多くの人や人ではないような生き物がいた。
ど真ん中にある大きな王座に案内された。
来る途中にユニアから
「軽くあいさつして、後は堂々と座っていて下さい」
と言われたので、
「これから魔王を務めさせていただくマサキです。よろしくお願いします」
ユニアの方を見るとユニアが額のあたりに手を当てて溜息を吐いている。きっと俺は失敗したのだろう。
「青臭いのが魔王になっちまったな」
「この国ももう終わりだな」
口々に色んな声が聞こえる。
この世界の人たちは魔王だろうととてつもないほどに煽ってくるのだな。あまり好戦的な生活はしてこなかったため、普通にシンプルに怖い。
「じゃあよう。この魔王様を闘技会に出せばいいんじゃねえか」
とても大きな声が響いた。とても野太い声だ。
闘技会?なんかいかにも戦いそうな行事の名前だ。
「そりゃいいや」
「泣きべそをかくのが楽しみだ」
口々に色んなことを言う人達の言葉にそろそろ涙目になりそうになる。
「静かに‼︎」
叫んだ声の主はユニアだった。
「では魔王様が次回の闘技会で優勝すれば皆さん納得するのですね?」
さっきまでヤジを飛ばしていた人達が一気に静まった。
「行きましょう、魔王様」
何かムキになったユニアは俺の手を取り強引に引っ張って行った。