第2章 3「レッツ法律を変えよう」
「ま、魔王様?」
兵士の一人が驚きを隠しきれず、そう言ってきた。
「そう」
「なぜこんなところに?」
「まぁ散歩」
俺が自分の正体を明かすと周りの野次馬はしんと静まり返っていた。
「まぁ魔王に免じてここは処刑をやめてもらえないかな?」
嫌味を込め、笑顔でそう言った。
「え?いや、でも…」
兵士は処刑をやめることを未だ躊躇っている。
「法律では秘密調査兵は処刑という決まりです。いくら魔王様といえど取りやめることは出来ません」
先ほどまで黙っていたもう一人の兵士がそう言った。
「そっか…」
なるほど法律か…でも今この国のトップって俺じゃね?
「じゃあ一日でいい。一日だけ時間をくれ。それまで彼らを殺さないでくれ」
「まぁ一日くらい死刑がズレたところで余り支障はありませんが…」
「じゃあ?」
「猶予を一日伸ばしておきます。上の方には魔王の命令ということで報告させていただきます。よろしいですね?」
「あぁもちろんだ」
「それでは失礼します」
そう言って二人の兵士は去っていった。秘密調査兵の方々はこちらに向かって一礼した。
野次馬達は静かに退散して行った。
猶予は一日…国のトップなら一日くらいで法律くらい変えられるだろう。
舐めた考えかもしれないが、あの状況でそう何日も猶予をくれるとは思えない。
ならば一日で変える…いや、変えてみせる。
「クラン!」
「は、はい!」
いきなり大声で名前を呼ばれたクランは驚いたような表情で返事をした。
「この世界の法律は一体どこで決めているんだ?」
「えーと、えーと…た、確か城で決めていたはずです」
「城だな、わかった!ありがとう」
「ま、魔王様」
「そうだ!クラン一緒に来てくれ‼︎」
「は、はい‼︎」
俺がそう言うとクランはなんだか嬉しそうに返事をした。
「じゃあ急ごう!クランちょっと俺の背中に掴まってくんない?」
「え?えぇ⁉︎」
「あ、変な意味じゃなくて…もういいから早く」
「もう!」
クランはそう言うと俺の背中にしがみ付いた。
俺の背中に柔らかいモノが当たる。
「なんかごめんね?」
思わずそう言ってしまった。
「もう!早くして下さい‼︎」
「OKわかった」
二つの剣を一つの大剣に戻し、剣を炎を出して安定させる。
「え、魔王様一体何を?」
「マサキって呼んでよ」
「え、え、何をってぎゃああ‼︎」
質問の途中で剣を城の庭園の方に向け加速させるとクランの絶叫の声が響いた。
「ヤバイ!ヤバイって!マサキ様すみません下ろして下さい!」
「今、手を離したら死んじゃうよ?」
「そ、そんなあ…ぎゃああ‼︎」
短い会話の後、またクランの絶叫が響いた。
「あ、あぁ…あ」
庭園に着くとクランは今にも倒れそうな勢いでフラフラと歩いている。
「だ、大丈夫?」
そう言うとクランはバタンと倒れた。
「ま、マサキ様?一体何を?」
そう言うのは金髪の少女、ユニア。
「あ、ユニア。丁度いいところに、この子を運ぶの手伝ってくれない?」
「え?気を失ってる女の子に一体何を?」
「ちょ、ちょっと待ってユニア誤解だよ?この子は空飛んで庭園に連れて来るまでの間に気絶しちゃって…」
「なぁんだそうだったんですか。ってなるとでも思いましたか?公共の面前で神剣を使ったんですか?」
「え?ダメだった?」
本日もう二回は使っているのですが
「ダメに決まってるじゃないですか!」
「ごめん」
「はぁ…まぁ今回は大目に見ますから。さぁこの子を医務室に運びましょう」
ユニアと共にクランを医務室のベッドに寝かせ、後のことは医務室の先生に任せた。
「なぁユニア…法律を一日で変えようと思ってるんだけど、どう思う?」
「…冗談ですよね?」
ユニアは信じられないと言わんばかりの顔でこちらを見つめていた。