第2章 1「城下町」
闘技会が終わって数日後、一人でなんとなく城下町をブラブラしていた。
正式に皆から魔王と認められたようなのでローブで顔を隠して町に降りた。
一人で歩いているとここが異世界であることが実感できる。
鬼や獣人、顔色が悪そうなのは恐らく魔族だろう。
前の世界ではありえない光景に最初は胸躍らせて歩いていたが、いつのまにか日常の一部に取り込まれていた。
「や、やめて下さい!」
どこかからそんな声が聞こえた。
声の方を見てみると半ば強制的なナンパが白昼堂々、公共の場で行われていた。
女の子は普通と言ってはなんだが、人間の女の子だ。華奢で黒い髪は肩ほどまである。
しかし、相手はと言う鬣のある獅子に灰色の毛が生えた狼、どちらも獣人だ。
獣人が人間の女の子をナンパとは、獣人と人間のハーフとかも存在するのだろうか?
そんなことを考えているうちに目の前では女の子の細い手を獅子男が引っ張って連れて行こうとしている。
流石に見ていられなかった。
「ちょっと失礼…」
そう言いながら女の子と獣人の間に割って入った。
「ガル?なんだこのチビ」
そう言うのは狼男。リザードマンの時のように流暢な日本語を操っている。
「この子、俺の連れなんだ。悪いけど他を当たってくれる?」
「は?この百獣の王たるライオンが狙った女を逃すとでも?」
ライオンで狩りをするのはオスではなくメスのはずだが…
「まぁまぁそう言わず、あっちに美味しそうな肉が売ってたよ?二人で食べて来たら?」
「バカにしてんのか?」
「そんなまさか、こんなか弱い人間があんたらにケンカ売るわけないだろ?」
「お前ちょっと顔貸せや」
獣人の二人に言われるがまま俺と女の子は路地裏に連れて行かれた。
「ここなら人通りも少ねぇ。暴れても誰も助けなんか来ねえ。さっさと女を渡せ?痛い目見なくて済むぞ?」
「ねぇ出来れば暴力での解決はしたくないんですけど…」
「知ったことかよ‼︎」
そう言って獅子男は俺に殴りかかって来た。
「はぁ…」
問題起こすなってユニアに言われてるのに…
そう思いながら身体に力を入れた。
獅子男のパンチは空から落ちて来た黒い大剣によって止められた。
それを見た狼男は後ずさりし始めていた。
「黒い大剣のチビ…お前まさか…やべえずらかるぞ!」
どうやら狼男はこちらの正体に気づいたようだ。
「なんでこんな奴から逃げねぇといけないんだよ!」
獅子男は未だ、俺と戦おうとしている。
「バカ!そいつは…」
さっき落ちて来た大剣が起こした風により被っていたローブのフードが外れて顔が出ていた。
「ま、魔王…様」
獅子男もこちらの正体に気づき、後ずさりしている。
「ご明察」
そう言って笑顔で返した。
「は、ははは…ほんの冗談ですよ?あ、あっちに美味しそうな肉がある。おいあれ食べに行こう」
そう言って大根役者にもほどがある演技で狼男は獅子男とこの場を離脱しようと試みている。
「ははは…ホントだ美味しそうだ。そ、それでは失礼しました」
そう言うと獅子男と狼男は流石獣人という速さでこの場から去って行った。
「ふぅ…」
深呼吸して女の子の方に向き直る。
「大丈夫だった?」
「…はい!ありがとうございます」
そう言って女の子は深々と頭を下げた。
「いやいや。困ったときはお互い様だよ」
「ホントに魔王様なんですか?」
「え?うん。まぁね」
「そうだったんですか」
「まぁ絡まれないように気をつけなよ」
そう言い残しこの場を離れようとした。
しかし女の子はこの場から立ち去ろうとしない。
「どうかした?」
「いえ…別に」
「そう、ならいいんだけど…」
「あ、あの」
女の子にそう言われ、大通りに出ようとしていた足を止めた。
「私クランと言います。助けて下さりありがとうございます」
「クランか。俺はマサキって言うんだ。またどこかで会えるといいね」
そう言って路地裏を後にし、大通りに出た。