第1章 22「斬るか蹴るか」
ミルドは巨大化した右手でこちらを殴ろうとしている。
対する俺は左手の剣を前に出し、その拳を受けて立とうとしている。
「…人間風情が調子に乗りやがって」
ボソッと聞こえたその言葉に自分に対する敵対心を感じた。
「ぬりいんだよ。てめぇら人間はよ‼︎」
先程までの弱々しいイメージだったミルドとは口調から何から全く違くなっている。
「なんでそんなに人間を嫌ってるんだよ?」
「もし…お前が勝ったら教えてやるよ」
その言葉の後、ミルドの拳が飛んできた。
今回、拳をわざわざ避けずに受けようと思った理由…それは相手の攻撃を利用して反撃しようと考えたからだ。
二本の剣に炎が纏うイメージをする。
…刃の部分だけでもいい
…たのむ
藁をも掴む思いでそう願った。
「ああああ‼︎」
相手の拳が剣に刺さった。
それはそのまま勢いよく壁まで殴って行った…およそ半分だけ。
拳は炎を纏った剣によって斬られていたのだ。
「よし!」
何故こんな簡単なことに気づかなかったのだろう。
相手の属性は『樹』つまり木だ。それに対し俺の属性は『炎』つまり火だ。
この二つのどちらが有利属性かなんてゲームで散々やったはずなのに…
「この剣でなら切れる…」
思わず口から出てしまった一言にミルドが驚きの表情をする。
「ざっけんな!お前なんかに負けるはずがないのに…あああぁ‼︎」
ミルドはヒステリックに声を上げながら剣でこちらに斬りかかってくる。
振りかざされた剣を二本の剣を交差させて受け止める。
下から炎を出さなければ受け止められないほど重たい一撃だ。
「こんな雑魚に負けるはずがねぇ‼︎」
ミルドがそう叫ぶと地面から出てきた木の枝によって腹を殴られた。
木によって殴り飛ばされ、宙を舞った。俺は相手に剣を向け、加速させる。
相手の目の前まで近づき、両方の剣を構え、空中で数回転し斬りつけるようなポーズで相手を見る。
案の定、相手は剣で斬られるのを警戒して剣が来るであろう方向に巨大な掌を用意している。
俺はまだ人を斬れるほど強い人間ではない。
殺してしまったら?
そう考えてしまう。自分が一度死んでいることもあり、あの恐怖を自分で与えるのは真っ平御免だ。
「ここだ!」
そう言って怪我していない左足で相手の顎を蹴り上げる。
「っがは…」
ミルドは一瞬ぐらつくと両足で地面をしっかり踏んだ。
「やっとまともなのが入った」
「クソが‼︎」
さっきまでの口調が嘘のようだ。
いつのまにか口が汚くなっている。
「お前なんかに絶対勝たせない…人間なんかに負けねぇ…」
「じゃあ俺はお前に勝つまで絶対に負けねぇ…勝つのは俺だ‼︎」
ミルドと初めて会話出来た気がした。
きっとさっきまでの弱々しい彼は自分を隠すためのものなのだろう。
おそらく魔王にならなかったから、ポッと出のこんな人間が魔王になったのが気に食わないのだろう…
わからない話じゃない。
今まで魔王になるために積み重ねてきたものがよく素性の知らないやつにぶち壊されたのだから。
「全力で闘ってやる…」
俺が魔王だとお前に認めてもらうために…
声にならない声でそう呟いた。




